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#92 海からの襲撃者デス

平穏な時は、割と早く崩れやすい

むしろ、他者の手によって崩されることが多いというべきなのだろうか‥‥‥

SIDEボーラン海岸


 朝日が昇り始めた頃、綺麗に清掃されていた砂浜に、海から近づく者たちがいた。



「急げぇぇぇぇ!!港まで戻る暇がねぇぇっ!!」

「だが、このまま接岸すれば、沿岸部の町へ被害を出す可能性があるぞ!!」

「知ったことじゃねぇよ!!今は命が大事だろうが!!」


 一生懸命舟をこぎ、その者たちは何とか砂浜へ乗り上げ、陸地に足が付くのを確認しつつわき目もふらずにその場から逃走を始める。



【----------------------!!】


 後方から迫りくる追撃者の雄たけびを聞きつつ、彼らは必死になって逃れようと足を動かす。


 流石に海上とは異なり、陸地であればある程度の弱体化を望めると信じて‥‥‥‥




 だがしかし、現実は非情であった。



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「うおぉぉぉ!!砂浜にまで乗り上げてきやがったぁぁぁ!!」


 見たくもないが、位置関係を確認したくて見てしまった者は、そう叫ぶ。


 海上では確実に絶対強者で有り、陸上ならばまだ大丈夫かという希望が砕かれるその光景を。



 だが、それでも生き延びて逃げたいという執念で、彼らは逃亡を図る。


…‥‥しかし、絶望はすぐそばに迫っていた。


 逃走中の彼らの背後に、追跡者から解き放たれた‥‥‥‥



――――――――――――――――――

SIDEシアン


「‥‥‥ふわぁぁ」


 欠伸が出たあとに、宿屋の一室にて僕は目が覚めた。


 昨日の海での遊びであった疲れも、一晩ぐっすり眠ったおかげで吹っ飛んでいる。


 同室で泊まっていたハクロやワゼたちを見れば、天井から吊るしたハンモックの上でハクロはぐっすりと寝ており…‥‥



「おはようございマス、ご主人様」

「ツー」

「スー」

「ファー」

「シー」

「セー」


 きちんと身なりを整え、水着からいつものメイド服……いや、よく見れば海岸部仕様なのかやや袖が短めのメイド服を着たワゼたちが、しっかりと整列していた。


「ああ、おはよう」


 ハクロはまだぐっすり寝ているので、起こさないように小声で挨拶を返しつつ、今のうちに帰還するための用意をし始める。


 今回来たのはあくまでも海岸清掃の依頼であり、受注完了もここの魔法ギルドで手続きを終え、後は都市アルバスで簡易的な確認を終えればいいのだ。



 ポチ馬車の方はミニワゼたちが綺麗に整えているので、朝食のために宿の食堂へ移動する。


【んにゅぅ……おはようございます、シアン】


 ちょうど移動する前にハクロも起床し、彼女も一緒に朝食をとる。




「昨日は楽しかったけど、今日で帰るからね。忘れ物がないように準備をしないとね」

「ええ、大丈夫デス。すべての荷物はポケットの中に収納しておりマス」

【毎回思うのですが、それにどれだけ入っているのでしょうか‥‥‥?】


 ワゼの言葉にハクロが疑問の声を上げ、僕も少し心の中で同意する。


 まぁ、考えても相手がワゼなのだから、無駄であろう。うん、あきらめの境地に入ったかもしれない。



 なにはともあれ、せっかくなので土産物でも探してからと、今日の予定を立てていたその時で有った。


「ん?」



 ふと気が付けば、なにやら外が騒がしい。




「大変だぁぁぁ!!やばいもんがでたぁぁぁ!!」

「なんでここにあんなものがぁぁぁ!!」

「逃げろぉ!!今は逃げろぉ!!」


 大騒ぎと言うか、誰もかれも必死になって逃げている光景。


「なんだ?」

【何かあったのでしょうか?】



 なにはともあれ、ただ事ではないというのは馬鹿でもわかる。


 ひとまずは腹が減っては何も意味が無いので朝食を急いで食べ終え、僕らも状況確認のために外に出て見れば‥‥‥



「…‥‥なんじゃありゃ!?」


【スッグィダァァァァァァ!!】



 超・巨大なイカのような化物が、海岸の方から進撃してきていた。


「でかいというか、何と言うか…‥‥」

【どう見てもやばそうな相手なんですけれど!?】

「あれは‥‥‥クラーケン?いえ、違いますね」


 ワゼいわく、クラーケンは通常海の方にいるモンスターだが、陸上までわざわざ上がってくることはない。



 そう言えば、依頼に関してここのギルドで手続きしていた際に、沖合のほうでクラーケンの幼体が出たので退治しているとかいう話があったのだが…‥‥もしや、これが幼体なのだろうか?いや、それは流石に無さそうだ。



 とにもかくにも、この状況をのんびりと観察している暇はない。


「とりあえず、逃げるぞ!!」


 ちょうど都合よく、ポチ馬車の整備が終わり、僕らのところにすぐに来た。


【うぉぉぉ!!なんだあのイカは!?流石に聞いたことが無いぞ!!】


 けん引しているポチがあの巨大なイカを見てそう叫ぶが、それはもうわかっている。


「全速前進デス!」


 ワゼがそう言って業者台に乗り、ポチへそう言葉をかけ、馬車が動き出す。


 ポチの足であれば、この程度楽に逃れられると思っていたが‥‥‥‥現実はそう甘くなかった。



ずるずるずるぅ!!

【ぬぅん!?なんだこれは!!』


 駆けだそうとしたタイミングで、ポチがそう叫ぶ。


 見れば、いつの間にか地面が何かの液体で覆われており、ポチの足が滑っていた。



「きゃぁぁ!!」

「なんだこれはぁぁ!!」

「滑って動けねぇぇ!!」


 逃げようとしていた町の人々も足を取られて動けないし、他に馬車もいるが、馬が足を滑らせ動くことができない。



「‥‥‥魔法確認。どうやらあのイカの魔法のようデス」

「魔法って、こんなのあったっけ!?」


 どうやらあの巨大なイカは魔法が使えるようだが、道路全体をヌルヌルにする魔法なんぞ聞いたことも思い浮かびもしなかった。


 おそらくは獲物を逃がさないために出しているようだが……これでは動きようがない。


【ぐぬ!!我の足ではだめだ!!】


 ポチが駆けだそうとしているが、倒れはしないものの空回りして全然進めない。


 そうこうしているうちにも、あのイカがどんどん迫って来た。



しゅるるるる!!

「ぎゃぁぁぁ!!足に捕らわれたぁぁぁ!!」

「いっげぇぇぇ!!骨がぁぁぁ!!」



 いつのまにか足を伸ばして、いや、違う。


 イカの足ではない何かを体中から生やし、どんどん人々を捕らえていく。



「どう見ても気持ち悪っ!?」

「不味いですね…‥‥迫ってきましタ」

【え?…‥‥うわっ!?本当ですよ!?】



 後方を見れば、迫りくるイカから生えたイカの足ではない何か。


 あのヌルヌル地面と同じ液体で出来たもののようであり、捕らえて逃さないような気持ち悪さ。


「げ、迎撃開始!!」


 そう命じると、ワゼたちが動き出す。



 ミニワゼシスターズもウェポンスタイルへと変形し、伸ばされる足、いやもはや気持ち悪い触手と言うべきものを打ち落とし、薙ぎ払い、焼き払う。


 僕もまた氷や炎の魔法で迎え撃ち、捕らわれないようにしていく。


【それー!!】


 ハクロも糸で素早く網を張り、投げつけて封じ込めるのだが‥‥‥‥相手の本数の方が上であった。



「っ!上ですカ!!」


 ワゼがそう叫んだので、上を見れば…‥‥そこには、巨大な触手がいつの間にかいた。


 そして、その先端部には口のようなものがあり‥‥‥‥



ごうっ!!ばくん!!


 そのまま一気に降りてきたかと思うと、僕らを一気に飲みこんだのであった…‥‥‥


突然、進撃してきた謎の巨大イカ。

いや、謎の触手などを扱っている時点で、既にただものではないだろう。

そして、その触手に飲み込まれたシアンたちは…‥‥

次回に続く!!


……本当は、この触手を色々と考えたが、絵面的に色々とアウトなので少々変更せざるをえなかった。

畜生、別作品のほうにぶつけてやろうかな。犠牲増えるけれどね。

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