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#55 さぁ、依頼を始めるのデス

唇に出来た口内炎。

ぽちっと一つだけなのに、食事時にあたるので辛い。

と言うか、口内ではなく口外なのに口内炎とはこれいかに。

SIDEシアン


 首都に到着した翌日、宿から出て、魔法ギルドからの馬車の御者をしつつ、依頼の確認作業時に要る人らしいボンブルビーさんと合流し冒険者ギルドへ僕らは向かった。


 依頼内容としては、アンデッド集合体モンスターの恐怖を教えるために、爆散させた魔法の威力を直接叩き込むようなことである。


 まぁ、単純明快に言えば模擬戦でもして、直接身体に教えてあげると言った方が良いのだろうか?


【その言い方だと、少し語弊がありませんかね?】

「うん、そう言われるとそうかもしれないけれどね」


 何にせよ、とりあえずは首都内の冒険者ギルドに僕らは到着し、中に入った。



 魔法ギルドとは異なり、こちらは荒くれ者と言うか、どうみても魔法屋とは異なる人が多い。


 大きな刀を持つ者もいれば、守るための大きな盾や鎧を装備する物、動きやすさ重視か弓矢で軽装、挙句の果てには酔いつぶれて素っ裸…‥‥いや、これは関係ないただの酔っぱらいか。あれ?でも今朝だよね?


 がやがやとそれなりに賑わっていたが‥‥‥僕らが入った時に、視線が集まった。



「おい、なんか新しい奴が来たのか?」

「おお?どれどれ、まだ若造じゃねぇ……ん?」

「ちょっと待て、あの後ろにいるのってアラクネじゃないか?」

「使い魔の証となるものを付けているが‥‥‥なんだあれは」


 色々とざわめかれ、ささやかれているうような気もするが、何にしても無視しつつ、とりあえずは依頼の事をやらなければいけないので、受付に僕らは向かった。



「すいません、都市アルバスの魔法ギルドから依頼を受けた魔法屋ですが」

「え?あ、少々お待ちください。確認致します」


 受付嬢に問いかけると、すぐに手続きを始めた。


 書類の山からある書類を抜き取り、確認作業を行っていく。


 念のために、魔法ギルドからの依頼についてのものや、必要な印などが押された書簡なども出し、正式な依頼の下に行われているという確認が行われた。



「‥‥‥では、確かに確認いたしました。魔法屋シアン及びその使い魔のハクロさん、メイドのワゼさんですね。ええ、ではまずはギルド長の下へ案内したしますので、ついてきてください。あ、ボンブルビーさんは確認のためにいてもらっただけですので、あとは自由です」


 そう言われ、ボンブルビーさんは軽く会釈をして、一旦この場を離れる。


 そして僕らは、この首都ボラーンの冒険者ギルドのギルド長の下へ案内された。







「‥‥‥ようこそ、魔法ギルドから来た魔法屋シアン殿とその仲間たち。我輩はここのギルド長のデルタリアンであります」


 案内された客室にいたのは、この首都のギルド長、デルタリアンさん。


 どうやら右目に眼帯を覆っている隻眼戦士のようだが、纏う雰囲気は真面目なようだ。


 いや、何と言うかかなり強い風格を漂わせている、歴戦の戦士とでも言った方が良いかもしれない。


 とりあえずは、まずは確認作業を行うことにした。





「‥‥‥ええ、では僕らが来た理由は、ここの冒険者の一部の馬鹿に、きちんと理解させるというような内容で良いんですよね?」

「ああ、そうであります。情けないというべきか、この首都はまだ安全な方にあるせいか、どうも心身がたるむ馬鹿が出るのでありますよ。たまに訓練も施すのでありますが…‥」


 はぁっ、と溜息を吐く様子からして、相当精神的に疲れているらしい。


「しかもそいつらこそが、割と真面目に始末をやらないので、アンデッド系の発生が少々上がりそうで……そろそろ除籍でもさせてしまおうとか考えていたのでありますが、これを最後通牒にしてやりたいのであります」

「なるほど‥‥‥この機会に、ついでとしてもう後がないと教え込むのデスカ」

「そういう事であります」



 元々、この依頼は都市アルバスであった化け物騒動で、アンデッドの恐ろしさをきちんと伝えるためのもの。


 処分方法などの講習会もあるのに参加せず、軽く見ているような者たちに叩き込むことなのだが、ついでに処分すべきかしないべきかの判断基準にもしようと思ったらしい。


 少々依頼内容ではその部分はなかったのだが、追加の報酬がもらえる事を確認し、問題が無い事にした。


「一応聞きますが、あなた方は冒険者登録はしていないのでありますか?」

「ええ、していません。魔法屋としての方が性に合いますし、冒険者のように討伐なども特にできませんので…」

「なるほど‥‥‥ちょっと残念でありますな。まだ対戦すらもしていませんが、我輩はこれでも人を見る目はかなりある方ゆえに、この時点でもうだいぶ強者であることがうかがえるのでありますが‥‥‥うーむ、人材を育成した方が良いでありますか」


 何にせよ、諸々の確認作業を終えたので、いよいよ依頼内容である力を見せる時となる。


「ひとまずは、1時間以内にその対象である冒険者たちをこちらで集めるのであります。そして、そこで模擬戦を行ってもらい、きちんと力を分からせるようにしてほしいのであります」

「もし、それで集まらないものがいた場合は?」

「この時点で、時間の規定を守れないとして冒険者登録を除籍であります」


 意外に厳しいが、そこまでしないといけない職業でもあるのだろうか。


 とりあえずは、模擬戦に備えて、僕らは準備を始めるのであった。



―――――――――――――――――

SIDE冒険者ギルド内の者達


 シアンたちがギルド長と会話している丁度の頃、ギルド内の冒険者たちは、シアンたちを見たことで話し合っていた。


「おい、あんな冒険者はいなかったはずだよな?しかも、あんな美女を連れてとは‥‥‥どうなっていやがるんだ?」

「そういえば、以前にアンデッド系の何とやらという話があって、それで真面目にやらないやつらがいるから、ギルド長が対処するような話があったが…‥‥とすれば、あいつらがそうなのか?」

「そうだろうな。しかし、使い魔の証を付けていたとはいえ、アラクネを連れているとは…‥‥驚愕としか言いようがないというか、羨ましいというべきか、それとも妬むべきなのだろうか」


「あれ?でも待てよ?」

「どうしたよ?」

「アラクネと言えば、確か以前にここのギルドのある冒険者パーティが討伐依頼を受けていなかったか?」

「ああ、アラクネの群れの討伐だったか」


 ふと、ある冒険者出した疑問に、他の冒険者たちが答える。


「そう言えば、あのパーティって確か帰還後に解散したよな」

「結構強かったはずだが‥‥‥なんでだ?」

「確かリーダーの奴がアラクネの惨殺を楽しんでいたが、一体のアラクネが余りにも美しくて、自分のものにしようと考えてしまったのが原因らしいよ」

「惨殺って‥‥‥あの美しさを見たら、倫理的に非道すぎるとは思えるが・・・・・もしや、その美しいアラクネが、案外さっきのやつか?」

「可能性がないとは言い切れないな。何しろそのリーダーがものにしようと思っていたところで、メンバーもどうやら同様の事を考え、誰が自分の者にしてやろうという事で争って、その間に逃げられたという話だしね」


 色欲で狂い、パーティそのものが解散されることがあったようだ。


「となると、その逃げたアラクネがさっきの奴の可能性を考えると…‥‥不味くないか?」

「ああ、何しろその解散したうちの一人、リーダーの奴がまだこの首都に残っていたはずだからな。独占欲が強く、しかもこの件で解散し、ソロになってからは非常に素行不良となったやつだ。確かもう、剥奪されそうになっているとか……」

「‥‥‥そこから逆恨みをぶつける、もしくは手に入らなかった憎しみでやらかす可能性が見えるよな」


 その一言に、その場に居た冒険者たちは静まり返る。


 まだその件の奴はその場に居なかったが、もし来たとして、あのアラクネと接触した場合…‥‥どう考えても非常に面倒なもめごとが起きる事が目に見えたからだ。


「‥‥‥これで滅茶苦茶になって、あの美女が来なくなる可能性もあるよな」

「ああ、このむさくるしいギルド内に現れた美女だ。使い魔となっているようだし、また来るとは思えない」

「けれども、生きている限りは再度めぐり逢い、目に収める機会はあるだろう」

「そうであるのならば、失われないように動いた方が良いんじゃないか?」

「「「「「…‥‥ああ、そうしよう」」」」」


 この日、普段はバラバラな冒険者ギルド内の冒険者たちの心は一つになった。


 そして行動を各自開始しようとしたところで……その恐れていた事態が起きそうになる事を知る。


 ならば、どうすればいいのか。


 それならば、守るために、そしてついでにまた来てくれるようにすればいい。



 とにもかくにも、美しき白百合のような美女を目に収めつつ、再び巡り合うかもしれない機会を失わないために、一丸となって動き出すのであった…‥‥


とりあえずは、無事に依頼を受けられそうであると思うシアンたち。

だがしかし、そうはいかない事態となる。

新たなファンクラブが出来つつも、どうやって乗り越えられるだろうか。

次回に続く!


……と言うか、短時間で結束力が強まるって、どれだけなんだろうか。あれか、某ガキ大将のリサイタルを防ぐための結束レベルなのか。

何にせよ、どうやら無事ではなく一波乱ありそうだ・・・・

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