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#53 首都まで道中なのデス

平和な旅路だと思いたい。

だがしかし、そうは問屋が卸さない。

しかし、そうはワゼが許さない。

……どうしよう、むしろ襲撃をかけてくるであろう者達の方が哀れになるかも。

SIDEシアン


……今日は魔法ギルドから出される馬車に乗って、このボラーン王国の首都へ向かうことになった。


 とはいっても、ポチ馬車とは異なり、本物の馬を使用するので移動速度はだいぶ落ち、半日はかかるらしい。ポチだともっと早いが、一応依頼と言うのもあって、はっきりとさせるためにこの過程は必要だそうだ。


 その状態だと、馬車の疲れなどもあるがゆえに首都にある宿場に一泊して、その翌日に冒険者ギルドの方へ向かい、依頼を行う予定なのである。



 まぁ、何にせよたまには変わった旅路も良いだろう。


「考慮してくれて、ハクロも乗れるような大型の馬車をよこしてくれたのは良かったね」

【ええ、良かったですよ。下手すると歩きでついていかなくてはいけませんでしたからね。それは結構疲れますしね】

「でも、データによればハクロさん、あなた本気を出せば馬以上の速度を出せるのデハ?」

【…‥‥まぁ、それはそれ、これはこれです】


 何やら今、意外な情報があったような…‥‥え?アラクネの全速力ってそんなに速かったの?



 

 何にしても、馬車に搭乗し、首都へ向かう。


 馬車の御者さんは、首都までの便を受け持っているという、この道30年のベテランの老人だった。


「どうも、この度馬車を走らせていただくボンブルビーでございます。皆様方を無事に送り届けられるように、細心の注意を払わせていただきます」

「どうも、よろしくお願いします」


 なかなか上品なお爺さんだが、ちょっと執事っぽい印象がある。セバスチャンとか言う名前が似合いそうだな‥‥‥


 なお、首都までの道のりは案外平和なものらしい。


 この世界にはモンスターや盗賊などがいるのだが、首都までの道のりの中には、交通の安全を守るための衛兵などが見回っていたりするらしいのだ。


 まぁ、過去には盗賊と組んでいた悪党もいたらしいが、今はきちんと管理されているらしい。


「そもそもの話、盗賊との遭遇率は高くないよね?」

「普段ここまで来る間には、特に無いデス。以前、向かったことある都市ブリジットの時ぐらいですカネ」

【となると、基本的な脅威はモンスターの方になりますよねぇ】


 とりあえず、ある程度の警戒は怠らないほうが良さそうである。


 一応、襲ってきたら襲ってきたで対処すればいいからね。


「ワゼ、一応先に命じておくけれども、盗賊が出たとしても金的攻撃とかはやめてくれ。どうやら前からやっていたせいで、ちょっとばかりその業界の人員が増えちゃったらしいからね」

「ああ、大丈夫デス。改良して、色々な武器を用意してマス」

【不安しかないような…‥‥と言うか、増えたとは何がですか?】

「要は男を捨てた男の人かな。その手の業界には喜ばしい事らしいけれども、色々と厄介でもあるらしい。何しろまた悪さして、弱点を突こうとしても、もうそれはないからね」


 案外、結構面倒な事にもなっていたようである。捨てたが故の(潰されたが故の)強みとは‥‥‥うーん、良い対処法の検討をしておく必要性がありそうだな。いっその事、スタンガンモドキでも作ってみるか?いや、ワゼの機能にそれみたいなのがあったはず。


【何でしょう、今すごく嫌な記憶が…‥‥】


 ぶるっと背中を震わせ、ハクロがそうつぶやくのであった。


 そう言えば、ハクロってその系統の武器の被害経験ありだったよね…‥‥熟睡中に電撃だったか。









……ひとまず、都市アルバスから馬車に乗って1時間ほど経過した。


 現在、周囲の警戒は怠っていないが、盗賊やモンスターらしき影はない。


 平和的な旅路で、快適と言えば快適である。


 とは言え暇になるので、念のために、前世ではチェスに当たるこの世界で買ったボードゲームを僕らは遊んでいた。


 というか、これそのままチェスだよね?絶対に僕以外の誰かで同郷の人がいただろうな‥‥‥


「っと、これでチェックメイトかな」

【あぅ、負けました……】

「これで、ご主人様10戦中10勝利、ハクロさんは10連敗デス」


 なんというか、ハクロが滅茶苦茶弱かった。


【ああなんでこうも勝てないのでしょうか‥‥‥ううっ】

「いや、ハクロの場合ミスがあるだけだからね?それを無くせば多分大丈夫……かな?」


 どうしよう、かばいきれないというか、励ましきれない。


 容姿も良いからチェスをしている姿も似合っているのに、絶望的に弱すぎる。



【もういいですよ、大人しく編み物でもして気分転換します】


 そう言って、ちょっとすねたようにハクロは裁縫具を取り出して、編み物をし始めるのであった。


「では、ご主人様、次は私と対戦致しマスカ?」

「いや、今はもういいかな。ワゼだと絶対に負ける未来しか見えないし、手加減されてもそれはそれで面白くないからね」

「わかりまシタ」


 ある意味、コンピューター対戦のようなものであるからね。一応、加減はできるだろうけれども、それだとちょっと納得できないのだ。


 強すぎるのも考え物である…‥‥なお、この手の対戦で僕らは賭け事はしない。


 というか、一度ふざけてちょっとやってみたら、見事にワゼにフルボッコされたよ。遊びなのできちんと返してもらえたけれども、これ本格的にやっていたら色々と不味かっただろうなぁ…‥‥


「とは言え、次はどうしようか」


 暇なので、何かしらの暇つぶしがしたい。


 昼寝も視野に入れようかな…‥‥と、考えていた、その時であった。


がくんがったん!!

「うおっ!?」

「!?」

【きゃっ!?】


 突然、馬車が急停車し、僕らは少し驚いた。



「どうしたんですかボンブルビーさん!!」

「すいませんお客様方。安全な道のはずでしたが‥‥‥どうやら前方から、団体様が来てしまったようです」


 指さされた方向を見てみると、土煙を上げて近づいてくる一団が見えた。



「いっやふぅぅぅぅ!!へいへいへーい!!」

「安全そうな道にかかった獲物がいるぜひんふわぁぁぁぁ!!」


 まだ距離があるはずだが、結構聞こえる大きな声であった。盗賊かな?それともただの大馬鹿かな?


 ただ、通常の盗賊などであれば、乗っているのは普通は馬であろう。


 だがしかし、その賊たちが乗っていたのは…‥‥豚であった。


 いや違う、猪か?



「ふむ……『メタルボア』とは、これまた珍しいものに乗ってマスネ」


 その一団の乗っている動物を見て、ワゼがそうつぶやいた。


―――――――――――――――

『メタルボア』

不味い・硬い・重いの3拍子がそろった、不人気な猪型モンスター。

とは言え、その突進力は侮れるものではなく、普通の鋼鉄製の盾ですら木っ端みじんにしてしまう。

子供時代から飼いならせばある程度言う事は聞くが、そこまで良いものでもない。むしろ馬に乗ったほうがましともされる乗り心地で、騎乗しようと考えるのは馬鹿かはたまたはロマンを求めた者であろう。


―――――――――――――――


 それなのに、それを利用してやってくるという事は、ただの盗賊とかではなさそうだ。


 まぁ、おそらくはその突進力で粉砕爆砕してきて、後でゆっくりと回収するタイプなのだろうけれども‥‥‥残念ながら、それはこちらに接近できたらの話。


「よし、ワゼあれの討伐はできるか?」

「簡単デス。では、対峙してまいりマス」


 ある意味暇つぶしになりそうなので、僕らはワゼが盗賊を討伐する光景を見るのであった。




―――――――――――――

SIDEワゼ


……目の前に迫る、メタルボアに乗った賊たち。


 これはこれで、ワゼにとっては都合がよかった。


「では、試させていただきますカネ」


 先日の化け物騒動で、いざという時にシアンを守るには、やや戦力不足なのを感じていた。


 いや、ワゼは強すぎる類なのだが‥‥‥単純に、攻撃手段が少なかっただけなのだ。



 その反省を生かし、今回は武装を少々(・・)増やしてみた。


「という訳で、盗賊御一行様には地獄を見てもらいましょウ」


 ガゴンと変形させると、腕にいくつかの武器が出現する。


 斧、ハンマー、モーニングスター、ビームサーベル、クナイ、劇薬スプレー、永遠なる脱毛薬、針、爆竹…‥‥その他諸々、多種多様な武器を構える。


「では、排除開始なのデス!」


 意気揚々とワゼは盗賊たちに襲い掛かるのであった。


……そして数分後、盗賊たちは地獄を見る羽目となった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!目がぁぁぁ!!目がぁぁぁぁ!!」

「自慢のヘアーがなくなったぁぁぁぁ!!」

「爪の間に針がぁぁぁぁ!!」

「ケツ、爆発、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 阿鼻叫喚地獄とは、こういう光景なのだろうか‥‥‥‥何にせよ、打撲で済めば、まだ良い方なのかもしれない……


ワゼ、ただ今メインウェポン模索中。

先日の化け物騒動で、実力不足を感じたがゆえに、盗賊は実験台と化す。

何にせよ、無事にたどり着ければいいんだけどなぁ。

次回に続く!


……さぁ、襲撃者たちの被害は、シアンたちが家に帰るまでどれだけ増えるのだろうか?

なお、これでも一応捕縛して連れて行けば賞金が得られるので、ある程度加減していたりします。

一体誰が一番被害が大きく、誰が最小限で助かるだろうか?と言うか、脱毛薬って武器ではないような・・・・・

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