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#427 ―――訪れる時デス

本日2話目なのに注意デス

…‥‥温かい日差しが照らし、うつらうつらと夢見心地になりそうな、気持ちのいい日。


 春風が吹き、ちょっと読んでいた本が飛ばされないように押さえつつ、ワゼに頼んで作ってもらったハンモックでゆらゆらとシアンは揺れていた。


 何度目かの春なのかはもう数えてもいないが、やはりこの時期は最も眠くなる時期。


 花粉症が無い分、こっちの方が確実に過ごしやすいというか、一番心地良い時期だろう。



【んー、眠気が襲ってくるというか、何と言うか…‥‥こういう日って、本当に良いですよね】

「そうだよね、ハクロ。こうやって過ごすのも気持ちが良いしね‥‥‥」


 ハクロの言葉に僕は返答しつつ、体を伸ばす。


 これはこれで血行が巡って良くなっているというか、眠りにつく用意ができてきているというか…何にしても、もうちょっとでぐっすりと眠れそうだ。


 とはいえ、昼間に長く眠り過ぎると、後で夜に目が覚める可能性もあるんだよな…‥‥そう考えると、ちょっとやりにくいジレンマが無いわけでもない。うん、でも寝たいのなら寝るべきか。



「ご主人様、毛布を持って来ましょうカ?」

「ああ、頼むよ」


 ワゼが問いかけてきたので僕はそう返答し、いっその事このままぐっすりと春風に揺られて眠ってやろうと思った。


 木の葉の隙間から、空を見合上げて見れば快晴であり、お昼寝日和でも中々最適な日だろう。


 そう思いながら、ふと見渡せば、幽霊になっても昼間でも普通に出ながら木に持たれかかって眠っているミスティアもいるし、ハクロの方も寝息を立てはじめている。


 ちょっと離れた場所では、ドーラが子供たちと遊んでいるようで、ドーラの子供植物が最近趣味にしたらしい踊りを踊っているのが見える。



「…‥にしても、今日は何て、心地の良い日かな‥‥‥‥」


 ワゼが毛布を持ってきて、それをかける前にもう眠ってしまうような気がする。


 こんなに心地いい日は…‥‥うん、結構あるけれども、群を抜いて良いという感じがするというか、自身の語彙の無さにちょっと悲しみを覚えそうな気がするが、考えなくていいか。


「うーん!!それじゃ、ちょっとお昼寝しますか!!」


 寝るのに気合いを入れる必要はないが、何となく入れてしまった。


 まぁ、気合いを入れて眠ればその分寝疲れして、案外夜もぐっすりと眠りに‥‥‥











「…‥‥お待たせしました、ご主人様。ちょうど新しい毛布が…‥‥?」


 たったっと走って直ぐに毛布を抱え、ワゼは走って来た。


 けれども、何かが違うことに、毛布を抱えながらワゼはふと違和感を覚えた。



「…‥‥まさカ」


 そうつぶやき、慌てて駆け寄って確認して…‥‥彼女はその違和感の正体に気が付いた。


 まだ、ミスティアにハクロは眠っているようだが‥‥‥‥それでも、何が起きたのかこの場で彼女だけが理解した。





「‥‥‥容姿変貌無し、状態:正常。ただし、心肺停止に生命反応の途絶を確認‥‥‥‥逝ってしまわれたのですカ」


 ばさりと毛布を落し、がくんっと膝を堕とすワゼ。



 いつかは来るのは知っていたが、その日がいつなのか知りたくはないので、そこまでは調べないようにしていた。


 けれども、それが必ず来るものだという事を覚悟したうえで、日々を過ごしていたが…‥‥いざ、来るとなると彼女でさえも、それは受け入れがたい事実である。


 けれども仕方が無い事だろう。このほんの僅か前まで生きていた相手が、ぽっくり大往生されてしまったのだから。





…‥‥ミスティアのように守護霊とか幽霊になってほしいとも思ったが…‥‥それは出来ない。


 なぜならば、シアンはこの世界の魔王であり、魔王がこの世界で幽霊になるようにできていなかったのだから。


 世界の仕組みそのものには流石に彼女は手が出せなかったのだが‥‥‥‥あまりにもあっけなく来てしまった訪れに対して、彼女はしばし機能が停止し、何も考えられなくなってしまう。




 けれども、その考えないことは逃げているだけのことであり、その逃亡はすぐに終わりを告げる。


 これが現実なのだと実感しつつ、彼女は先ほど落した毛布を拾い上げ、ぱっぱっと汚れを払い、シアンにかける。



「‥‥‥ご、ご主人様…‥‥毛布を、どうゾ。最後の命令を、私は果たしましたヨ…!!」



…‥‥メイドゴーレムである以上、本来はその機能は必要ない。


 いつ、いかなる時でも冷静にかつ、感情をそう出さずとも通じ合えるだけでいいのだから。


 けれども彼女は今、声が震えつつ…‥‥その目には、涙があふれていた。


 ついに来てしまった、自身の主との別れに対しての悲しみを。


 ずっと尽くしたかった、その願いがついに途絶えてしまったことに対する悲しみを。


 そして、たわいもない、ほんのわずかな間な最後の会話が、シアンからの命令だけであり…‥‥その受け取った声を、聞けなかった悲しみを。



「‥‥‥‥本当に、本日まで…‥‥そして最後に、私に命令をくれてあり、ありがとう、ありがとうございました、ご主人様!!」


 主が亡くなったことに対して、思いっきり泣き叫びたいという衝動にかられたが、それではまだ残っている主の奥様方を起こしてしまい、悲しみをより早く知らせてしまうことになる。


 一人で泣き続けるよりも、大勢でいた方が良いというような想いも働き、必死に湧き上がるその感情を…‥‥失った悲しみに対して彼女は押さえ、頑張ってメイドとしての礼をとり、主への忠誠を彼女は示す。




…‥‥それでも沸き上がる感情は、初めてのものというべきか、それとも以前から持ちつつも、見て見ぬふりしていた思いなのかはわからない。


 けれども、理解できるとすれば…‥‥それは人が持つ、別れへの想いなのだろう。


 いつか来ると分かっていながらも、それでも大事な人を失ったことに対して抱く喪失感。


 その想いがあふれ出て、涙が結局止まらず…‥‥我慢を忘れ、彼女は泣き始める。






…‥‥それは、生涯でワゼが初めて周囲へ見せた、感情ある涙だろう。


 メイドゴーレムである彼女が、普段崩すことの無い冷静な表情が、この時本当に感情あるものとして変化し、見せた表情。


 その顔に、気が付いた面々が驚き、そして何が起きたか気が付き‥‥‥‥彼女の今の嘆きを知った。




 その日、世界から魔王が一人、亡くなったという訃報が廻った。


 それから数日も経たないうちに、全シスターズが姿を消していき‥‥‥‥そして、ワゼの姿もまた、この世界から消え失せるのであった‥‥‥‥




‥‥‥分かれは、いつか必ずやってくる。

その時は逃れよう無い物ものであり、運命とも言えるだろう。

けれども、それはまた、違う出会いの時が来るもので…‥‥

次回、エピローグへ続く!!



‥‥‥なんか思ったより早くない?と思うかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 訪れる時デス は何度読んでも泣いてしまいますね(つд⊂) シアンがどれだけワゼにとって、大切な人だったなのか悲しみが伝わって来て自然と涙が頬を伝って居ました。(T ^ T) シアンとワゼが…
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