#409 それなりに育ててはいるのデス
SIDEシアン
「…‥‥で、結局ポチを戻せそうなのか?」
「成分分析中ですが‥‥‥ああ、やはり溶け込んだ薬草の反応を確認できまシタ。これが原因のようですし、治せそうデス」
ポチがすっかりひもの状態になってきたところで、ようやく治すめどがついたらしい。風も吹けばポチが飛びそうなので、現在ハクロが糸をつないで大丈夫なようにはしている。
とにもかくにも、なんでもワゼいわく、かなり珍しい薬草が含まれていたようだ。
「『ダグロウン草』‥‥‥‥錬金術などに用いられる、若返りの薬作りに必要な薬草ですネ。まぁ、若返りと言っても、これで作ったのは3日分だけ若返るという何とも言えない微妙な効能しかないのですが…‥‥体質が原因ですね、コレ」
風邪薬とかで効きやすい・効きにくい人がいるように、この薬草にも効果がある人とほとんどない人がいるらしい。
今回の場合、ポチは前者の効果がある人(神獣)だったようで、しかも更に他の薬草などで色々混ざった結果、超強力な若返りの薬が体内で生まれ…‥‥結果として、今の小さい子犬状態になったのだとか。
まぁ、知能までも逆行させるというおまけつきだったようだが、正体さえ分かってしまえば戻すのは難しくない。
「これに対応し得る治療薬であれば、『オバーン草』から調合可能デス。効果があり過ぎると老人もとい老犬になるでしょうが…‥‥そこはきちんと計算して、ちょうどいい具合に戻すようにいたしマス」
【おお、それで治るのか…‥‥良かった、夫がこんなチビ助になったままだったら色々と困るところだったからねぇ】
ワゼの言葉に、ほっと安堵の息を吐くロイヤルさん。
まぁ、ポチはむしろこの姿のままの方が見栄えが良いような気がしなくもないが…‥‥一応、困るといえば困るのだろう。
【いやシアン、それ私も思えるのですが】
【正直その通りかもしれないけどねぇ‥‥‥】
っと、口からちょっとこぼれていたのか、ハクロとロイヤルさんが苦笑する。
何にしても、治療のめどがついたのであれば後はその通りにやっていけばいい話しである。
「それじゃワゼ、ポチを戻すための薬をすぐに作ってくれ」
「了解デス。とは言え、薬草栽培所の方に確かありましたので、そちらを輸送すればいいですが‥‥‥っと、通信できまシタ。ドーラさんがすぐに生えて輸送してくるようデス」
輸送方法にツッコミどころがあるような気がするが、まぁ気にしなくても良いだろう。
あとはこのまま、薬草が届くのを待って、現地で調合すれば早い話しらしいからね。
とはいえ、薬が届いても調合時間が少々かかってしまうようなので、完成まで軽く雑談をすることにしたのであった。
「というか、そんな老化するような薬ってまず需要あるのだろうか?」
「結構ありますネ。効能はかなりの幅で発揮可能なようで、発酵・熟成作業において時間が足りない時に使用されるようなのデス」
意外な使い道というか、納得できる使い道というか…‥‥一応、それをやると味が落ちるらしいが、急いで用意したい時とかには便利らしい。
あとは、一部の老化しにくい種族が時を実感したいために使うとかあるようだし、需要がむしろ若返る薬草よりも高いらしい。まだまだ不思議なことが多いというか、どんな使い道があるかわからないものもあるんだなぁ‥‥‥‥
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SIDEアルドリア王国海軍:海軍大将
「‥‥‥どうしてこうなった?」
シアンたちがゆっくりと薬が出来上がるまで談笑していた丁度その頃、ボラーン王国の海上‥‥ではなく、浜辺の方にて、アルドリア王国海軍を任されていた海軍大将モルドバはそうつぶやいていた。
つい先ほどまで、彼らは意気揚々と、国のために侵略を行おうとして、まずはこの沖合の方から砲撃を仕掛けようとしていた。
しっかりと各自得弾を装填し、号砲と共に一斉掃射してまずは勢いと共に突撃しようとしていたはずではあったが‥‥‥‥
「どうしてこうなったもなにも、馬鹿みたいに騒いで目立っていれば、見つかって捕まるのも当然デース」
「ええい、そこまで騒いでおらんわ!!」
冷静なツッコミを入れられ、思わずそう彼は叫ぶ。
ツッコんできた相手は、今まさに自分達を捕らえつつ、捕縛した縄の先を持っている女性である。
見た目的には一瞬男性かと思ったが、男装をしているようであり、曲線美などが隠しきれていない。
とは言え、これでも大将を任されるだけあって、目の前の相手が女性であろうともただ者ではないことが分かっているので、無駄な抵抗をしない。
「というか、今どきの船というか、従来の船舶以上に古いデース。船底に穴が開いただけで、簡単に沈没しすぎデース」
「船底に穴が空いたら当り前だろうがぁ!!」
「それもそうデースね」
抵抗はしないが、いちいちツッコミを入れさせるような言葉に、思わずツッコミを入れてしまう海軍大将。
まぁ、無理もないだろう。彼がこの海軍の大将にまで上り詰めつつも、今回遠征として派遣を任されてしまったのはこの気質が原因なのだから。
何しろ、今回の侵略は自分たちの住まう国から出た、海の向こうの国々。
どのような国があるのか分からない事も多く、海軍の上層部は出来れば自国から進みたくはなかった。
できれば悠々自適に、自分達の住まいで過ごしていたかったそうで、手柄を得ることができようともできれば誰かに最前線を押しつけたかった人が多かった中…‥‥この海軍大将に白羽の矢が当たってしまったのだ。
当たった原因は、そのツッコミ気質で色々とよく相手を見ている点を考慮し、異国で有ろうとも鋭く見抜けるであろうという考えを持たれてしまったようなのだ。
そのせいで、今回の最前線に出てきたのは良いのだが…‥‥こうして捕虜になってしまうとは情けないとも思えてしまうのであった。
というか、何が起きたのかも理解しきれない。
突然船が全隻沈没し、救助されたかと思ったら、相手は今まさに侵略しようとしていた国の者たちであって、直ぐに縄で縛られてしまったのだから。
先ほど穴をあけたというが…‥‥音もしていなかったし、そもそも海上の船をどうやって全部同時に沈没させることができるのだろうか?
「まぁ、何かと事情があってこちらに侵略してきたことぐらいは、情報入手済みデース。そうでしょう、アルドリア王国海軍の大将を任されたモルドさん?」
「‥‥‥はい?」
まだ名乗ってもないし、気が付いたら捕虜になっていたかのような状況にも関わらず、どこの国からでどのような相手なのかという情報を得ていたということに、目の前の相手に対して思わず目を丸くして驚愕する海軍大将。
「な、何故だ?まだ、名前も明かしてすらいないのだが‥‥‥‥?」
「あたりまえデース。この国の侵略を…‥‥もっと細かく言えば、ご主人様の住まう国に対して害をなそうとしている相手の事を、こちらが把握するのは必要な事なのデース」
海軍大将の言葉に、ニヤリと目の前の女性は笑みを向けながらそう返答する。
‥‥‥つまり、この侵略行為自体、既にこの国には筒抜けだったのだろうか?
その事実に、驚愕のあまり何も言えなくなってしまう海軍大将。
そしてついでに人員確認のためか、一人一人名前が当てられていき、他の捕虜にされた海兵たちは呼ばれたことに驚愕していく。
「は、把握し切っているだと‥‥‥!?という事は、ま、まさか‥‥‥」
「ハイ。すでにあなた方の国についても確認済みであり、報復措置も現在行う予定デース」
その言葉に、聞いていた者たちは驚きの許容量が限界突破し、完全に停止した。
海軍大将であったモルドは何とかこらえつつも、自分達はとんでもない所へ喧嘩を売ってしまったのではないかと後悔したが、もはや遅い。
「ほ、報復というと…‥‥」
「ああ、安心するがいいデース。流石に罪もない人たちを蹂躙することもないデースし、海の向こうの国となると、管理も面倒なので逆に侵略することはしないデース。ですが、やらかそうとしていた人々には、しっかりと痛い目を見て貰うのデース」
…‥‥少なくとも、故郷に置いてきた家族の安否は大丈夫かもしれない。
だがしかし、自国には思いっきりこれから制裁があるだろうなぁっと、海軍大将は考えるのを辞めたくなるほど絶望を感じてしまうのであった‥‥‥‥
「というか、帰ることができるのだろうか…‥‥」
「あ、捕虜にしましたが帰国ぐらいはさせマース。国の立て直しには、人員も必要だと思われるからデース」
‥‥‥立て直しと言われている時点で、今の国が滅びそうである。
正直言って、ポチこのままでもいいような気がしてきた。
まぁ、それだと困る事もあるようなので戻すことは戻す。
でも、できればこのままにしたいなぁ…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥戻せるけど、また子犬にしたくないか?




