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#408 変わるものも変わらぬものもあるのデス

SIDEシアン


…‥‥森での別れからそれなりの年月が過ぎていたが、久しぶりにハクロと一緒に今の彼らの住まいに訪れ、会って見ても彼らはそう変わらない。


 それもそうだろう。普通の獣ではなく神獣であり、その力は他者とは一線を画すのだから。


 しかしながら‥‥‥‥



「…‥‥これまた盛大なというか、何があったんだ?」

【はぁ、我が夫ながら情けなくてねぇ…‥‥】


 僕の言葉に対して、あきれるように肩をすくめるしぐさをするロイヤルさん。


 フェンリル一家の大黒柱であるポチの妻にして、豪快なフェンリルだが…‥‥その肝心のポチはちょっと悲惨なことになっていた。


【キャイン!キャイン!!】

【うわぁ‥‥‥なんかすっごい小さな子犬になってますね】


 ハクロが手に持って見せるのは、一頭の小さな子犬。


 一見ただの犬ッコロのようだが…‥‥


「生体反応センサーで確認…‥‥間違いなく、ポチ本人(?)のようデス」

【ガウゥ?】


 ワゼがポチをつまみ上げて確認してそうつぶやきつつ、フェンリル一家から僕らの家族となったクロが父のポチのその状態を見て首をかしげる。


 どうやらこの小さな犬はポチのようだが…‥‥あの巨体の狼をどうしたらこうなるのかという疑問がある。


「えっと、一体何があったのでしょうか?」

【それがねぇ‥‥‥】




‥‥‥カクカクシカジカとロイヤルさんが説明してくれるには、どうやらちょっとした悲劇があったようだ。


 僕らと別れ、巣立った子供たちを見て行ったあと彼らは温泉都市へ出向いたり、子育て用ではなくきちんとした住みかを転々と巡り、旅をしていたようだ。


 とはいえ最近になって、再び子供を授かって育てたい気持ちができてきたようで、繁殖‥‥‥っと神獣にそう言って良いのかはわからないが、また新たな子育てを行えそうな場所を探していたようである。


 あのハルディアの森ではだめなのかと思ったが、どうやら同じ場所にはそう何度も巣をつくることはなく、新たに巣作りを行う場所を求めるようだ。




 そして数週間ほど前に、とある場所を新たな巣にすることが決定し、巣作りを行っていたようだが‥‥‥


【まぁ、巣作りと言っても鳥と大して変わらんと言って良いのかねぇ?生まれてくる子供たちが傷つかないように、柔らかい素材を集めまくり、外部を固い素材で崩れないように固めていく作業になって、流石に前の子育ての時の経験もあるからこそ順調に進んでいたんだが…‥‥】


 どうやらそこでポチがやらかしたらしい。


 集めていた素材は、自分達の抜けた毛や、廃棄処分される馬車、その他の動物たちの皮などだったそうだが…‥‥その素材の中に、とんでもないものが混ざっていた。


「草花も使うから集めていたら‥‥‥その中に妙な薬草があって、一気にこうなったと?」

【そういうことさ】


 柔らかい素材の中には草花も含んでいたようだが、その中に妙な薬草が混ざっていたらしい。


 背中にかついで運べば問題は無かったのかもしれないが、ポチが横着して口でがぶりと一気に根こそぎとって運んでいくうちに、何やら見る見るうちに小さくなって‥‥‥今のこの子犬に至ったようだ。


【それでねぇ、その草花が原因なのは分かるんだが、生憎治療方法が分からない。どうしたものかと悩んでいった末に…‥‥そのメイドの存在を思い出したんだよ】

「私ですカ」


 まぁ、治療薬というべきか、医学の知識で言えばワゼが最高峰のを持っているとも言えるだろう。


 そこで、どうにか助けを求めようと思ったのだが、生憎こんな状態のポチを背負って向かう事もできないし、下手に動くのも不味そうだと思ったようだ。


 そこで、知り合いの神獣に頼み、ここへ来てほしいと手紙を出したので…‥‥それを今回僕らが受けとって、来たわけであった。


【そのメイドの主は、お前さん‥‥‥いや、魔王殿というべきだろうか?主を呼べば、そのメイドもセットで来ると思ったんだよ】

「まぁ、間違いないかな…‥‥とはいえ、ワゼ、ポチのその状態をどうにかできるのか?」

「流石に私でも、出来ないことはありますが…‥‥とりあえず見て見ましょうカ」


 ひとまずはここへ呼んできた理由も知ったので、ポチの治療に当たることにした。


 何が原因なのかはよくわからんが、その運んできた草花に妙な薬草がある事がはっきりしているので、それをこの場に出してもらう。


「ふむ‥‥‥珍しい薬草も多いですが、こんな状態にするものはありませんネ。この中に、口に含んで影響が出るのは3~4種類ほどの薬草がありますが…‥‥組み合わせても、フェンリルを小さくするような類が見当たりまセン」

「ということは?」

「これから特効薬を作るのは無理デス」


 流石に原因となる薬草が無ければ分からないようだが…‥‥薬草の中には唾液などで溶け込む性質のもあり、それがこの中に入ってなく、ポチの口内で消えた可能性があるようだ。


「なので、薬効成分の分析のために、採血する必要がありマス」


 そう言い、ワゼは腕をガシャコンっと変形させ…‥‥超巨大な注射器を取りだす。


【キャイン!?】

【このサイズの夫に、その巨大な注射器が必要なのか‥?】

「ええ、そうデス。小さくなってもフェンリルであり、その毛皮は頑強でもありますからネ。貫くにはこのサイズが必要なのデス」


…‥‥なお、毛皮を一部剃ってしまえば、まだ小さい針で貫けるようだが‥‥‥‥どうも毛の再生能力が異常に高くなっているようで、試しに剃ってもすぐにもっさりと生えてしまった。


 ゆえに、この巨大サイズの注射器を使わざるを得ないようだが…‥‥見てられないだろう。


【キャインキャインキャイン!!】

「はい、大人しくしてくだサイ」


 ポチが必死に逃げようとするが、逃れる事は出来ないだろう。


 そっと僕とハクロは目をふさぎつつ、ロイヤルさんも顔を背け‥‥‥‥次の瞬間には断末魔が響き渡るのであった…‥‥‥


【ギャイ―――――――――――ン!!】


「…‥‥虐待とかで訴えられそう」

「それを言ったら、世の中のすべての治療で注射が使えなくなりマス。後これは、一応痛くない注射器の開発過程で出来た物なのデス」

【それで、本当に痛くないのでしょうか?】

【夫が泡を吹いて痙攣しているんだが…‥‥】

「…‥‥まだ研究段階デス」



――――――――――――――――――――

SIDEアルドリア王国海軍


「前方に、海岸部を確認!!」

「距離はまだありますが、もう間もなく寄せられそうです!!」


‥‥‥ポチの断末魔が上がっていた丁度その頃、ボラーン王国の海岸から離れた海の方では、軍船が何隻も並んでいた。


 出発して時間が経過し、予想以上に食料の消費も激しかったが、どうやらようやく陸地が見えてきたらしい。


 食料が心もとなくなってきたところではあったが、略奪すれば済む話だろうと、船にいた者たちはそう考える。


「よーし!!我が国初の、大遠征侵略となったが、まず第一歩をあの浜辺で行う!!者ども、接岸用意をしろぉぉぉぉ!!」

「「「「おおおおおおおお!!」」」」


 ずっと海の上でやる事もなく、やる気も失せていた者たちではあったが、ようやく目的となり得そうな第一歩の光が見え、一気にやる気が沸き上がる。


 船内に積んである兵装を確認し終え、大砲を甲板に並べ、何時でも斉射できるように用意していく。


「それでは、侵略開始だぁぁぁぁ!!」

「「「「だぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」」」


 指揮官の掛け声と共に、その号砲の一発目があげられるのであった‥‥‥‥



注射器と小さくなったポチのサイズ比を例えるのであれば、スイカとサクランボぐらいであろうか?

流石にそれは失血しそうな気がするが、そのあたりは大丈夫らしい。

まぁ、ポチの事だからそんな状態になっても生き残っていそうだが…‥‥生命力だけだと、絶対にこの世界でもトップクラスであると断言できる。

とにもかくにも、次回に続く!!




‥‥‥痛くない注射器、それはまさに夢の医療器具である。

インフルエンザとか流行り始める今日この頃、予防接種を考えるとそう言うのがあってほしい‥‥‥

あ、でも採血のほうがまだ痛みは少ない気がする。血を抜くのと予防薬を入れるのだと、前者の方が自然に流れて、後者の方が無理やり注入するせいかな?

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