閑話 にぎやかでも悲しいようなデス
SIDE元騎士団長&元魔導士長
「ぜっせいやぁ!!今日こそくたばれ魔導士長ぉぉぉぉ!!」
「そのセリフ、そのまま返すぞ騎士団長ぉぉぉぉぉ!!」
ボラーン王国王城内、訓練場。
訓練場の一角にて、騎士団長及び魔導士長‥‥‥いや、正確に言えばすでに引退して譲っているので「元」と頭に付く彼等ではあったが、それでも長年そう呼び合っていたためにそちらの方が良いやすく、掛け声を上げて互いに挑んでいた。
「おー、引退して譲っていたとはいえ、それでもすごいなぁ」
「あの二人、むしろ引退する必要があったのかどうかってのが未だに疑問視されてますからね」
それぞれの魔導士や騎士たちは観戦しつつ、たわいもなく話し合う。
引退前からずっとあの二人は仲が悪かったというか、馬が合わなかったというか、犬猿の仲だったというべきか‥‥‥いや、全部同じような意味だが、引退した後も時たまこうやって王城の訓練場に来てはぶつかり合っているのだ。
「ああいうのをライバルって言うんだっけか?」
「いや、違うな。未だにずっと引き分け続けなので、勝ち越すためだけの執念を持っているんだろう」
「あの二人、似たような思考回路だからなぁ…‥‥」
脳筋だとか魔法馬鹿とか陰で言われていたりするが、そんなことは気にしない。
いくつになっても燃えたぎる血は変わらず、例え座を譲り渡したとしても現役時代と何ら変わりもない‥‥‥いや、むしろ引退してそれぞれの収めていた責務が失われたからこそ自由になり、より一層研鑽されているようでもあった。
「というか、そもそも何で引退したんだっけ?」
「年だとか言っていたような、あ、いや、ちがったか?」
「その理由じゃなくて‥‥‥ああ、そうだ思い出した」
今もボコすかと互いに争っている彼らを横目にしつつ、一人の騎士が彼らの引退理由を思い出す。
「あの二人さ、ちょっと焦っているところがあるというか、当てられたということがあってな、それに集中するべく引退して時間を取ったんだよ」
「なんだそれ?」
「あの二人ね‥‥‥もう×何個ついていたかなぁ‥‥‥‥」
‥‥‥実は現在、元騎士団長及び元魔導士長の両者は独身であった。
いや、流石に一時的に妻子を持ったりはしたのだが…‥‥悲しいことに、長続きをせずに離婚することが多く、子どもが妻の方へ流れ、自分の子と言うべき者がいなかったのだ。
「しかも二人とも衰えを見せてきたと自称していたからなぁ‥‥‥できれば子を確実に得て、自分のこれまでの成果などを残したいんだろう」
「それなら普通に孤児などから養子をとればいいとは思うのだが…‥‥いや、そもそも理由が自分の痕跡を残すために子を作るってのはちょっと倫理的にどうなのだろうか」
「というか、その理由もあるけれども‥‥‥単純にあの二人、あれを見て我が子を持ちたいと思ったらしい」
「あれ?」
「ほら、そこの」
話している中で、ちょうど良いところににというような表情で、指をさした方向を見れば‥‥‥
【ガウー!!】
【ぴゃーい!!】
すたたたっと、今ではすっかり大きくなった子フェンリル‥‥‥いや、既に若者フェンリルというべきクロの背中に乗って遊ぶ子供たち。
「…‥‥女王陛下の夫の、娘だったか?」
「ああ、魔王女様に、王女様、後は王子様方が時々ああやって遊びまくって、街中を駆け巡ったりするからな…‥‥見ているだけでほのぼのするというか、毒気が抜かれるというか‥‥‥」
「ああ、確かに可愛いというか、あの光景を見ているとなんか平和だなぁって思ってしまうからな‥あのような可愛い娘とかを持っていたらいいなぁって思うのも無理は無いか」
「一応、そのおかげで出生率が上がっているらしいし、既婚者も増えているようだ。とは言え、ただ子を欲しいだけで責任を持てないような輩がいないようにさせつつ、増えてきた子供たちのために女王陛下は新しい学び舎なども予定しているらしい」
とにもかくにも、この王城内のほうでよく見かけるほのぼのとした光景に、今現在争っている彼らも当てられて、自分の子供が欲しくなったらしい。
で、確実に妻子を得るためにも婚活に励むことを目的として、それぞれ隠居したのだ。
‥‥‥まぁ、実力はあるので、時たま若手の指導にきちんと来てくれるのは良いのだが…‥‥
「互いに争う関係だからなぁ‥‥‥婚活会場ではすでに名物になっているらしい」
「‥‥‥なんか、うちの元魔導士長がすいません」
「こちらこそ、元騎士団長がすいません」
なんとなく、互の団員たちははぁっと溜息を吐きつつ、同情しあう。
「というか、元騎士団長の方は、以前は騎士王国の女性騎士と良い感じになりそうでしたが‥‥‥あれはどうなったんですか?」
「あれは友人関係の方らしい。それに、最近聞いた話だとどうやらあっちのほうにもようやく恋人が出来たとかなんとか…‥‥」
「で、魔導士長の方は他国の魔導士長と関係を持ちそうではあったが‥‥‥そちらはそちらで、最近結婚報告がもたらされて希望がついえたそうだ」
悲しむべきというか、両者とも良い勝負は繰り広げるようだが、結末は悲惨なようである。
「…‥‥そもそも、あの人たち、結婚できるのか?」
「×が付いているからこそ、一度は出来るようだが‥‥ずっと夫婦として過ごせるのか、という部分に難がありそうだな」
とにもかくにも、最後の方になると魔法も剣も関係ない拳の殴り合いに発展してきた彼らを見て、呆れたように全員溜息を吐く。
「良い人、見つかると良いなぁ‥‥‥流石に元上司だし、そこは良縁を望みたいよ‥‥‥」
「というかいい加減、二人とも喧嘩を辞めて、大人しく隠居してほしいというか、まともな結婚ができていれば、収まりそうなものなんだけどなぁ‥‥‥」
ふたたび大きなため息を吐きつつ、最後には見事なクロスカウンターで地に沈んだ両者を見て、騎士も魔導士たちも呆れたような目を向ける。
彼らがいつ、この争いをやめるようになって、妻子を確実に得られるのかは神のみぞ知る…‥‥
「いや、神でも知らんって」
「鬼神がそう言うと、説得力があるような無いような‥‥‥‥結婚の神とかいないの?」
「いると言えばいるが、独身だぞ?」
「…‥‥何だろう、その微妙な感じは…‥‥」
‥‥‥そして多分、神でも解決できないとは思う。
多分、読者の皆様方には忘れらされていただろう。
いや、覚えている人もいるかもしれないが‥‥‥どうかなぁ?
神とか悪魔とか最近出していたら、ふと思いついた閑話だったけど、次回に続く!!




