#392 徹底的に殲滅あるのみデス
SIDEグズゥエルゼ
「---アンプル23、B3へ投入」
どこかの場所の地下深く。
その場所にて、悪魔グズゥエルゼは研究所を兼ねた基地を建築し、実験を行っていた。
「ふむ…‥‥思いのほか、冥界の植物は扱いにくいな」
文字通りの冥途の土産である、冥界の植物たち。
それらは全て、一室に作られた、怪しい液体がなみなみと注がれている巨大な試験管の中で根を下ろしつつ、周囲へ動かないように固定化されていた。
「バンブードゥを失ったのは、少し早まったか…‥‥あの生命力や、移動速度のデータも欲しかったんだがな」
そうつぶやきつつも、その選択は間違っていなかったとグズゥエルゼは思う。
冥界から抜け出し、自身から目を背けるために使用した。
ゆえに、直ぐに足取りは追われず、こうして地下に基地を作るまでの余裕は持てたのだ。
「さてと、後は他の冥界植物を利用して…‥‥」
ひとまずは落ち着いたところで、冥界の植物についてグズゥエルゼは研究をし始める。
ようやく脱出し、ここでずっと研究をしているのもいいかもしれないが、その本質は災厄の悪魔。
ありとあらゆる好奇心ゆえに行動し、人に対する思いもなく、自身の欲望のままに蠢く災害。
そしてその災害は、復讐も少々企んでいたが…‥‥それを行うには、まだ準備が足りないことぐらいは理解していた。
「魔王に悪魔‥‥‥この二人を相手にするには、どうにかしないといけないからな」
冥界落としをしてきた、この世界の中立の魔王に悪魔。
直接戦わずに遠距離からのフザケタ方法で相手をされた上に、その配下たちの手によってさらに追い詰められ、一気に消し飛ばされた恨みは大きい、
個人的好奇心での行動に加え、今はその復讐も忘れずに準備を進めているのだ。
‥‥‥そんな中で、突如として設置していた警報機が鳴り響き出す。
ブァー!!ブァー!!
「んぅ?」
何事かと思い、あちこちから奪ってきた材料で構成したパネルを操作し、スクリーンに映し出してみれば‥‥‥
「なっ!?」
そこに移っていたのは、この世界の魔王。
以前は魔力での影法師のような遠距離攻撃手段を用いてきたが、どうやら今回は直接出向いて来たというべきか…‥‥
『あ、ここだここだ。隠し扉発見』
『んー、それじゃ、一気にぶち破りますか!!』
しかも一人ではなく、金棒を持った誰かと共に、どういう訳かこの基地の地上にある入り口を見つけ出し、侵入してきたのである。
「あっちが誰なのかは知らんが‥‥‥不味そうだ」
悪魔の方が見当たらないが、動きを見る限りこちらが冥界を抜け出してきたというのはバレていそうである。
しかも、こうも早く見つけてきたところを考えると、既に情報を色々と掴まれていそうで、正面から相手するのは無理だと判断する。
「とりあえず、時間稼ぎを…‥っと」
ぽちっとパネルを操作し、基地内に侵入者対策用に作ったホムンクルスたちを大量に投入し始める。
しかも、ただの肉人形というわけでもなく、まだ期間的には短かったが、冥界の植物の能力などを混ぜ込んだ生物兵器であるため、そう直ぐには対応できないだろうと思っていたのだが‥‥‥
『うわっ!?なんか禍々しい兵士っぽいのが大量に出てきた!?』
『おおぅ、冥界の奴を使っているみたいだが‥‥‥これなら問題ねぇ!!』
魔王ともに来た、金棒を持った者が前に出る。
そしてその金棒を構え、振り下ろすと…‥‥
ドッゴォォォォォン!!
『よっしゃぁぁ!!会心の一撃!!』
『力づくすぎるんだけど!?』
振り下ろした先から、強力な衝撃波のようなものが飛び出していき、ホムンクルスたちを一気に薙ぎ払ってしまった。
冥界の植物を混ぜているので、普通の攻撃は効かないはず。
なのに、たかが衝撃波程度で吹き飛ばされ、一気にミンチにされてしまったという事は‥‥‥
「‥‥‥まさか、鬼神か!!」
冥界の植物は並大抵の攻撃はか行かないが、神々の攻撃であるならば効く可能性はある。
なおかつ、流石にここ荒っぽすぎるうえに、今もなお金棒を力づくで振るいつつも、全てを薙ぎ払う勢いの者に該当するのは限られてくるのだ。
その可能性の中で、考えられるのは鬼神。
荒ぶる神でもあり、ありとあらゆる破壊を行うことが可能なうえに、その攻撃自体に神聖なる力を持つので、冥界入りのホムンクルスであれば、むしろ相性は最悪過ぎるだろう。
「くそう、神々の介入は予想していたが、こっちがいたのか!!」
冥界の植物を持ち出した時点で、神々からも狙われる可能性を考慮し、先に神界を封じる事で可能性を潰していた。
だがしかし、神界は留まる神々もいるが、居つかずにどこか別の場所で暮らすような神々は対応し切れていない。
神と名のつく者も多くいるが、その中の本当の神の数も少なく、どれがどれなのか把握し切れていないがゆえに、後手に回ってしまったのだろう。
「というか、鬼神の介入か…‥‥魔王との接点はないだろうし情報を考えると…‥‥」
出てきた理由を考えるのであれば、おそらく悪魔ゼリアスと何かしらの関係があったのだろう。
ゼリアスだけで対応し切れるわけもないだろうし、神界封じられている今、多くの交流関係から神々を引っ張り出してくる可能性はあった。
そして、その可能性を考慮するのであれば…‥‥
ブァー!!ブァー!!
「っ、別ブロックで侵入者!?」
入口以外の場所で、いつの間にか何者かが入り込んだのか、警報が鳴り響く。
すぐさま別の監視カメラの方を動かし、その反応の個所を見れば…‥‥
「なんだと!?」
そこは、この基地で使っているホムンクルスの生産工場。
実験に使っても良し、優秀な兵士として扱っても良しの者たちしかいない場所に、その存在がいつの間にか手をかけていた。
『‥‥‥味、酷いな‥‥‥。流石にこれは、飲めたものではない』
あちこちがいつの間にか破壊され尽くし、周囲は肉片などが飛び散り、赤く染まっている。
その中央には、これまた別の誰かが立っており、少しゼリアスに似た容姿ではあったが、ちらりと見えた牙に目を向いた。
「吸血鬼だと!?」
血をすすり、力を振るうさまはまるで台風。
暴力的ではあるが、鬼神とは異なりどこか優雅に、それでいて品のあるその様子から直ぐにその該当するものを思いつく。
とはいえ、ただの吸血鬼でもなく…‥‥その原点、真祖とでも言うべきやからであることが見抜けた。
「魔王に鬼神、吸血鬼‥‥‥今日は厄日か!!」
お前が厄災その者だろうが、というツッコミがありそうだが、そう叫ぶ悪魔グズゥエルゼ。
何にしても、基地内を蹂躙されまくっており、見るだけではまずいとすぐに現実に戻る。
「転送装置…‥‥使えないだと!?」
いざという時の脱出手段として用意しておいた転送装置や、転送魔法。
それらを使用しようと動いた矢先に、既に基地全体が何者かによって空間が固定され、逃げるに逃げられない状況である事が判明した。
であれば、当然行き着く先は、全員との相手だろう。
グズゥエルゼ自身、それなりに腕はあると自負しているが…‥‥最悪の相手がこうも多くては意味もない。
「何か無いか、何か無いか…‥‥」
この状況を逆転できそうな方法が無いのか、足掻き始める。
使える魔法、道具、生物兵器などを捜しまわるも、そう都合よくはいかないだろう。
「かくなるうえは、冥界の植物を…‥‥」
使えばそれはそれで自身も相当危険な目にあうが、相手に混乱を引き起こしつつ、足止めを可能にできるものはそれしかないと判断する。
巨大な試験管にいれている、冥界の植物たちを解き放ち、どさくさに紛れて逃げ出そうと動こうとした‥‥‥その瞬間であった。
バァァン!!
「ぐばっ!?」
突然、胸に強烈な痛みが走り、その場にグズゥエルゼは倒れ込む。
銃声のような音が聞こえたが、たかが銃弾ではこのようなことにならないのは知っており、何が起きたのか理解できない。
ただ一つ、言えるのであれば…‥‥
「ぐがばばばっばあっばばばばばあばあああああああ!?」
撃たれた箇所から猛烈な勢いで、何かが生えまくり、自身の体がそれに侵されていく。
強烈な痛みに、頭の中がぐちゃぐちゃにされるような吐き気に、何事かと考えることはできない。
「ぐっぎぎぎっがあああ!?」
それでも、何が起きたのか確認するために、根性を出して音がした方向を見る。
すると、そこに立っていたのは、真っ白な姿をした青年。
その手には小さな拳銃のようなものがあり、撃ったばかりなのか硝煙が出ていた。
「…‥‥うわぁ、『対悪魔用聖樹弾』を撃ったのは良いけど‥‥‥ドン引きするレベルで効きすぎだろこれは」
そうつぶやく声が聞こえてきたが、それを最後にグズゥエルゼの意識は消え失せる。
それが何者で、どうやってここまで来たのかはともかく、自分が今、終わろうとしていることだけは理解できただろう。
そして、グズゥエルゼの体はその銃弾によって浸食され‥‥‥‥魔王や鬼神、吸血鬼がたどり着いたころには、そこには一本の木が生えているだけであった。
「…‥‥侵入経路を見つけて、互にバラバラになって来たのは良いけど」
「先にたどり着かれたか‥‥‥悔しい!!」
「んー、こっちも不味い血を喰ったしねぇ…‥‥先にできればよかったんだけど」
「まぁ、良いじゃないか。あっけなく終えたからな。…‥‥あれ?そういえばゼリアスは?」
「別ルートから侵入したはずだが…‥‥あ、連絡来たな。生物兵器捨て場の方に出て、色々ヤヴァイ類を処分中だって」
「うわぁ…‥‥すっごい大変そうだな‥‥‥終わったし、手伝いに向かうか」
大きな悪役ほど、終わりはあっけなかったりする。
まぁ、今回は侵入ルートを分けて、それぞれから追い詰めるつもりだったんだけど…‥‥残念、先を越されたか。
とは言え、まだ油断できないし、本当に大丈夫なのかどうか調べないとね。
次回に続く!!
‥‥あまりにもパワーゲームすぎると、被害が大きすぎるのでちょっと自重しました。




