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#376 ぐりっと突くときもあるのデス

SIDEシアン


「‥‥‥っと、そろそろ話すネタもなくなってきたのぅ」

「なんか思いのほか、話が合いまくったのにね」


 魔王ベルが来訪し、話し合いをしていて時間が結構経っていたらしい。


 気が合う他人とは珍しいが、相手が異なる世界の魔王ゆえか、割と話に弾みがつき、結構楽しく話せていただろう。


 そもそも、相手の今回の来訪目的は、気になった僕に関して、こういう話し合いの場で確かめる事だったようで、ほとんど達成したのでいつでも切り上げることはできたようである。


「じゃけどなぁ、どうせ戻れば仕事が山積みなのも分かっておるし、つい逃れたくなって会話を途切れさせ損ねたのじゃ」

「そんなに仕事があるの?」

「ああ、その通りじゃ。配下の者たちがわざわざどこからか仕事をもってきては、それをこなす日々は少々嫌気がさすからのぅ…‥‥魔界の魔王の決め方にも問題があると言いたいのじゃが、こればかりはどうにもならないのじゃ」



‥‥‥僕らのいるこの世界の魔王の成り立ちに関しては、異世界の魔王の彼女からは特に話すようなこともなく、踏み込むべきではないらしい。


 ただ、魔界の方の魔王の決め方については話してくれたが‥‥‥あっちはあっちで、色々と苦労があったようなのだ。


「そもそも、魔界の魔王は実力主義じゃが‥‥‥いかんせん、脳筋と呼ばれる類がなるわけにもいかず、頭の方も調べられるからのぅ」


 力やその戦術、その他政治や他種族間での問題解決方法などの問題も出され、賢さに関する実力主義もある。


 ゆえにバランスよく取れた魔界の者が、魔王の座に就くらしいのだが…‥‥



「その事で聞くのじゃが、お主の方も相当力は強いとみる。だが、その力を無駄に振るう気はないじゃろう?」

「まぁ、その通りかな」

「実際、魔界でも同じ様なものでな…‥‥」


 実力はある。けれども、魔王の座は面倒くさそう。


 そういう話もありつつ、噂だけで判断しないで実際に調べ、「あ、これ無理」とすぐに判断して魔王の座に就きたがる人はあまりいない。


 いたとしても魔界の魔王のシステム上実力不足ゆえに付くことができなかったり、今の魔王を倒せば次期魔王になれるともくろむ輩がいても、その前に排除されることが多いのだとか。


「何しろ、魔王が崩御、もしくは退任したらまた次期魔王を決めろーって話になるからなぁ。今の魔王のままで良いと思いつつ、なおかつ実力で分かっていない奴らがいれば、それこそ全力で守るために動かざるを得ないんだよ」

「そういうゼリアス、お主もその守る側に入っているじゃろ。というか、お主から押し付けられて儂がこの魔王になったんじゃぞ!!」

「あれ?ゼリアスが前の魔王だったとか?」

「いやいやいや、それはない」


 元々、長い年月を生きる魔界の者の中には、初代から魔王になれるだけの実力があるのに、ならずに逃れているような者たちが多いらしい。


 ゼリアスの場合はちょっと遅い方だが、それでもかなり昔から存在しており、代々魔王が代わろうとするたびに、何かと理由づけては魔王の座に就かないように色々としていたそうなのだ。


「お主の場合魔王の座は確実じゃろ!!というか、世界を自由に渡れる大悪魔な時点でぶっ飛び過ぎておるのに、何故儂に押し付けられなきゃいかんのじゃぁぁぁぁあ!!」

「無理なモノは無理なんだよ。ああ、悪魔だから誰かと契約しているからこそとかじゃない。れっきとした俺の意思で、逃れているだけだ」


 その他の魔王になれそうな実力の持ち主は入れども、全員辞退。


 で、魔王ベルも本来はその魔王の面倒くささを調べて理解しており、さっさと逃げようとしたらしいが‥‥‥そこで不幸が起こった。


 いや、引き起こしたのは悪魔だから、悪魔の所業とでも言うべきか。


「次期魔王の座を決める際に行われる、実力試験!!お主が儂の番の時にわざと自爆して勝手に負けて、そこからほいほいっと周囲が勝手に動いて乗せられた時の、嵌められたその気持ちが分かるかぁぁぁぁぁ!!」

「じ、自爆!?」

「いや、あれは単純に俺も仕掛け損ねていたんだが‥‥‥」



‥‥‥話によれば、ゼリアスは魔界でも実力があり、他の面々も魔王の座を押しつける気満々だったらしい。


 でも、そんな魔王の座に就きたくはなく、適当な相手のところでわざと負けて、自爆とは言え自分に勝負に勝ったという点で相手の実力をわざと誇張して逃れようとしていたそうなのだが‥‥‥本来は、ベルの時に自爆する気はなかったそうだ。


「それで、本当はもう一戦あとのやつに押し付けるはずが、うっかり自爆スイッチを押してな。まぁこれでいいやと思って、そのまま見事に会場中の悪魔や魔人、その他魔界に入る者たち全員に勢いに乗せるようにこっそり動かして、彼女に魔王になってもらったんだよな」

「それで嵌められたとわかったのじゃよ!!だがなぁ、いくら自爆とは言え、お主の実力凄まじいじゃろうが!!そのお主を負かしたという面で箔を付けたからこそ、魔王にしてしまえば良いという民衆の心が一致したせいで魔王にされたのじゃぁぁぁぁ!!」


 心からの魔王ベルの叫びに、時間停止しているとはいえ震える空気。


 要は悲しい事故と集団心理の働きによって、あれよあれよという間に魔王に仕立て上げられたという事のようである。


「そんな仕掛けができるなら、もう実力で決める意味すらないような…‥‥」

「撤回できれば苦労はせんのじゃ!!でも、風習というのは直すのが大変なんじゃぞ!!」


 何千年、何万年、いや、億すら超えるであろう魔界の歴史で積み重ねられた実力主義なその風習は、容易に変えられるものではない。


 修正し様にも中々改革も進みづらく、しかも魔王ベルに実力がなければよかったのだが、いかんせん実力を持っていたせいで、どうしようもなかったのだとか。


「せめて仕事量を減らしてほしいのじゃが…‥‥魔界は混沌すぎて、働き方改革とかはなかなかできぬのじゃよ」

「普通の人間がいる世界とは違って、深淵ともいえるからなぁ…‥‥クトゥルフ神話とかあったっけ。アレよりもさらにカオスだったりするからこそ、仕事も滅茶苦茶多いし、魔王の仕事自体なくせないんだよなぁ」


…‥‥とりあえず、魔王ベルが相当苦労していそうなことは良く分かった。


 とはいえ、ここで疑問を抱かないわけでもない。


「あれ、でもそれならさっさと後任を作るなりして、魔王の座から降りれば良いような…‥」

「それが容易く出来たら、苦労はせぬわ。歴代魔王、ほとんどが寿命尽きる時まで魔王じゃぞ」

「要は、退任できないように管理もされているし、ギリギリを調整されているからな‥‥‥子をなして退任とかできればいいかもしれないが、それでも子が継ぐわけでもないし、基本的に勝手に隠居とかはできないんだよ」


 問題のある魔王であれば即退任できたかもしれないが、わざと引き起こすこともできないし、そもそも魔王の座に就くような輩が問題をそう簡単に起こせるわけでもない。


 今回も、勝手に禁忌の時間停止の魔法陣とやらを使用したとはいえ、これでもまだ退任できるほどの問題にされないのだとか。


「させないというか、問題が起きても処理されるからな。それができるほどのやつが魔王が勝手に退任されないように、色々しているんだ。次期魔王は自分かもしれないという恐怖に怯えながらな」


 魔王に対する怯え方のベクトルが、何か間違ってないか、魔界。


 いやまぁ、普通にイメージにあるような恐怖の魔王はそれはそれで嫌だけど、その座に付くのが嫌な魔王の座とはこれいかに。



「‥‥‥俺の方は、そう仕事がないんだけどね」

「それはこっちの世界の魔王の仕組みだが…‥‥まぁ、楽さの度合いで行けばそうだな‥‥‥分かりやすい言葉、確か地球の日本って国の言葉で言えば、こっちはホワイト企業、魔界はウルトラブラック企業って感じかな?」



‥‥‥魔界とは違い、この世界の魔王は主に転生者らしい。


 だからこそ、その例えは僕にはよく通じたが…‥‥良いのか、そんな魔界。


 ただのブラックじゃなくて、より強調するレベルって結構不味いだろう。




 とはいえ、よそはよそ、うちはうち。口を挟めるようなことでもあるまい。


「あ、そうそう魔王ベル。そろそろ切れるぞ」

「ん?何がじゃ?」

「時間停止。あと3秒、2秒」

「え、ちょ、まつのじ、」

「ゼロ!」


 ゼリアスが言い切った瞬間、世界の時が動き出した。


 そして魔王ベルが慌てて動こうとしたが、それは叶うことなく、きっかり本来3秒が経っていたはずの時間が流れ、瞬時にその場から姿が消えうせた。


「‥‥‥ああ、しっかりと3秒で帰るようにはしていたようだな。時間停止も考慮していたとはいえ、そこは徹底していたか、あるいは配下にさせられていたか‥‥‥どっちでもいいか」

「ゼリアス、今絶対に彼女が慌てる姿を見るために、タイミングを見計らって口を出したんじゃないよね?」

「疑問形にしなくてもいい。ちょっと大変作業を裏でしていた、その仕返しだからな」


 僕の問いかけに対して、にやりと悪魔らしい笑みを浮かべ、彼はそう答えた。


‥‥‥うん。やっぱりこの人、悪魔だ。


 もっと前に時間停止が解除される時を言えただろうに、ギリギリまであえて言わず、慌てる姿を見るためだけに都合のいいタイミングを選んだな。


 なお、あの時間停止魔法陣とやらは、解除時間は本来はやった術者の意思で決められるらしい。


 彼曰く、あの会話中にこっそりその解除時間を決められる権限を奪い、設定し直してもいたのだとか。


「あとは、魔界で仕事をやってもらった後に、冥界送りをするけど‥‥‥シアン、気になるなら冥界見学でもするか?」

「いや、グズゥエルゼがいるだろうし、絶対嫌だな」

「それもそうか。まぁ、あの冥界の王はそれはそれで面倒だが…‥‥俺一人で彼女を連れて行くのもなんだし、後で適当な悪魔か魔人(都合のいい生贄)でも共にして向かうか」


 なんかさらっと、言葉の中に変なもの混じってなかったか?


 そう思いはしたが、深くは聞かない方が良いと俺は判断し、口を出さないのであった‥‥‥‥




「‥‥‥何というか、嵐のように過ぎ去ったな」

「魔王の力も、嵐のようなものだとも言えますからネ。それに、今回ので収穫もありましタ」

「何かあったっけ?」

「ええ、色々とデス‥‥‥‥」



なんやかんやで、魔王ベルとは楽しくおしゃべりできただろう。

今後は義姉などお来訪があるが、その前座としても良かっただろう。

とは言えなんか、ワゼの不穏な発言があったような気がしなくもないが…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥冥界の王もいつか出したいところ。面倒くさいキャラの追及は、まだ続く…‥‥中々無いなぁ。

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