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#37 ‥‥‥たまにはデス

最近、天気が極端なのは気のせいだろうか?

SIDE???


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」


 必死になって、その男は走っていた。


「待てぇぇぇ!!待たないと撃つぞぉぉ!!」

「そんなことを言われて待つ馬鹿はいるかぁぁぁぁ!!」

「あ、それもそうか」

「納得するなよ!?」


 背後から追ってくるのは、男を逮捕しようとする警官2名。


 片方は少々抜けているようだが、なんにしても体力的に捕まるのは時間の問題であった。


「くっそ!!なんでついていないんだ!!」


 男は警官に追われる訳をある程度自覚していた。


 自分の息子を遺体遺棄し、会社の金を横領し、浮気し、浮気相手のお金を盗み取り、痴漢し……いや、あり過ぎてむしろどれが逮捕の原因なのかわからなかった。


 何にせよ、捕まったら身の破滅なのは間違いない。


 他にいた息子も今は行方知れずであり、長年いた妻も道中で相手の浮気相手の下へ逃げ、もはや単身で逃亡するのみ。


 だが、今まさに人生最大の危機が迫っていた。



「ああもう!!諦めろよ警察共!!」

「そんなことを言われて諦めるなら警察はいらねぇよ!!」


 そう叫び捨てるが、体力の限界は近い。


 逃走のために乗っていた車もパンクし、応援を呼ばれたようで徐々に警官たちも集まってくる。



「畜生!!ここまでかぁぁぁぁぁ!!」


 そう言い、道路に出たところで…‥‥




ブップワァァァァァァァ!!

「あ」


 クラクションが聞こえ、気が付いたときには、目の前に大型トラックが接近して…‥‥
















「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥あれ?」


 やって来るであろう衝撃に思わず悲鳴を上げた男。


 だがしかし、いつまでたっても来ないことに、思わず疑問の声を上げた。


 恐怖で目を閉じていたので、恐る恐る目を開けて見れば…‥‥どこは何処か、薄暗い部屋の中だった。


「!?」


 一体何がどうなって、この場にいるのかは分からない。


 だがしかし、この男の頭はある可能性を閃いた。


「そうか!!これが息子のライトノベルにあったやつなのだろうか!!」


……実はこのおっさん、自分の息子‥‥‥長男の方のニート男が持っていた小説を読んでおり、その中にあったライトノベルがお気に入りであった。


 そしてその中でも、異世界転生ものを読んでおり、自分がその状況にいるのだと思ったのだ。



 警察に捕まるかと思えば、まさかのトラックにひかれての異世界転生とはついているとその男は思った。


……だがしかし、それは大きな勘違いであった。


 しかしながら、それを逆に利用しようと思う者たちからしてみれば、むしろそのお花畑な思考は好都合であり、隠れて様子を見ていた彼らは、せっかくなのでその調子に合わせてみようと動き始めるのであった…‥‥


――――――――――――――――――――――――――

SIDEシアン


「‥‥‥起きたら何で、金が増えているの?」

「少々社会貢献をしたのデス」


 一方その頃、シアンはちょっと驚いていた。


 都市に到着したのでワゼに起こされたのだが‥‥‥なぜかお金が置かれていたのである。


 まだ依頼報酬ももらっていなかったのだが、どうやら道中で犯罪奴隷の逃走未遂現場に出くわしたようであり、捕縛して衛兵たちに引き渡したそうだ。


「一応聞くけど、やり過ぎてはないよね?}

「ええ、学習していますので、きちんと人相も変えず性別も変えないようにつくしまシタ」

「そっか、じゃあいいか」


…‥‥いや、待てよ?それ以外の面とかはどうなのだろうか。


 まぁ、気にしたら負けか。


 

 ただ、話しによればその犯罪奴隷たちとやらは護送中だったそうで、逃げ出したのは彼らを輸送していた人が原因らしい。


 そしてその原因の人は現在、行方不明だというのだ。


「犯罪者たちの話ですが、どうも酒を飲んでいたようデス。それが偶然にも引火し、我先にと逃げてしまったそうなのデス」


 本来であれば、犯罪者たちが妙な動きをしないように見張るのがその輸送する人の責任らしいのだが…‥これはアウトだろう。


【こういうのって、どうなりましたっけ?】

「犯罪奴隷たちの逃亡未遂、過失による馬車の損失などを考えると、結構重い処分が来るだろうなぁ」


 とは言え、僕らには関係のない話だ。


 犯罪奴隷たちを捕らえたとはいえ、これとそれではまた違う話。


 自己責任が求められるだろうし、僕らがいなかったいなかったで被害が余計にあったかもしれないだろう。


 何にせよ、今日はもう依頼達成報告及び報酬を受け取ったらさっさと帰ろうと僕らは思った。








……そう思ったはずだったのだが、依頼達成報告後、報酬を受け取って帰ろうとした時に、衛兵に呼び止められた。


 なにやら犯罪奴隷の件に関して、ちょっと面倒な事が起きたらしい。


「本当は手を煩わせたくないのですが、なにぶん相手がちょっと面倒で‥‥‥」


 複雑そうな表情で、衛兵の人が案内してくれたのは、都市の詰所の一室。


 案内して入ってみれば、そこにいたのは鎧を着こんだ衛兵たちのリーダの人と、御者の制服を着た人と、ちょっと高そうな服を着つつも、体に合っていないせいで少々きつそうなおっさんだった。


「遅い!!このオゥレ様を待たせるとは、なんて庶民だ!!」


……その言葉を聞き、僕らは冷めた目付きになった。


 ああ、これは面倒くさい馬鹿なパターンだ。


「お、オゥレ様、ここは都市アルバスで、あなた様が治めているところとは違うのですぞ。そんな振る舞いが許されるわけがないのですが」

「黙れぇい!!衛兵長!!このオゥレ様は貴族なんだぞ!!それを庶民風情が注意するな!!」


 ・・・・・ああ、典型的なウルトラバカピィーポゥーってやつなのだろうか。


 そう僕は思い、ワゼたちの表情を見れば同じような顔になっていた。


 どうやら皆、同じ思いを抱いたようである‥‥‥‥絶対に面倒事だろうなぁ。










 かくかくしがしが、と話を聞いたところ、このウルトラバカピィーポゥーはオゥレ侯爵とか言う貴族らしく、なんとあの犯罪奴隷たちを輸送していた馬車に乗っていた人物だというのだ。



「えっと、犯罪奴隷の人達からも裏付けはとれていますが、完全にあなたの無責任な行動のせいですよね?」

「黙れぇ庶民が!!あの馬車が炎上したのは奴らのせいだ!!このオゥレ様が悪いわけがないんだ!」


……ああ、これ話しを聞かない完全自己中心的野郎決定だ。


 しかも大事な部分、なぜあの犯罪奴隷たちを輸送していたのか、どういった目的を考えていたかなどの部分が抜け落ちていることから、まだいろいろとやらかしている感じがある。


「そのため、あの馬車にかかった修理費や、犯罪奴隷たちを逃がした責任の賠償金などは庶民!!貴様にあるんだよ!!」

「いや、どこをどうしたらそんな思考にたどり着くの?」

「もはや修正不能な究極の馬鹿ですネ」

【うわぁ、馬鹿のチャンピオンですよ……】


 自分の都合のいいように話しまくっているが、もうすでに状況証拠などは押さえてある。


 だがしかし、この馬鹿は全く話を聞こうとせず、むしろ犯罪奴隷たちを捕まえた僕ら・・・・・いや、正確にはワゼたちが捕らえたのだが、こちら側に金を支払わせようとしているらしい。


 いや、本当に意味がわからない。何この人?というか、本当に侯爵家なの?当主とかでもなさそうだし、ただの穀潰し男にしか見えないのだが…‥‥



「とは言え、確認を取ろうにもちょっと侯爵家らしいという者しかなくて、どのようなものなのか不明でな‥‥‥本当に平行線のままで、どうしようもないんだ」


 はぁっと衛兵長が溜息を吐く。


 どうやらこの人はこの人で苦労していた模様。無駄に権力で脅そうとしているし、断りたくとも完全に聞き耳持たずだったようだ。


 こういう馬鹿を、真の自己中と言うのかな?



「何にせよ、僕らにはもう関わりの無い事です。元は全てあなたの責任のようですし、これ以上うだうだと言うようであれば、強硬手段にとりますよ?」


 流石にもう堪忍袋の緒が切れそうだ。


 ハクロなんて毒液を創り出しているし、ワゼも腕を変形させようとしている。




「ああん!?このオゥレ様のいう事が聞けないのかこの庶民がぁ!!侯爵のオゥレ様はお前らよりも偉く、いつでも捕まえる事が出来るんだぞぅ!!」


「そう!!ここの衛兵たちも全然いう事を聞かないし、人員を変えてしまうこともできる!!」


「それにだ、金が支払えないのであれば、庶民!!貴様の側にいるその侍女とアラクネらしい奴を献上すればいいだろう!!いい声で鳴かせて可愛がってやるぞぅ!!」


……‥ブチッ!!

「【あ】」





「…‥‥」


 その言葉に、僕は切れた。


 様子の変化に、ワゼとハクロが気が付き、ちょっと後方へ下がる。


 ついでに衛兵長もちょっと離れる。



「‥‥‥なんて言った、貴様」

「はぁ!?誰に向かってそんな口をきくんだ庶民が!!その女どもをこのオゥレ様によこせば許してやるとも」


ドシュッツ!!

「‥‥‥言って‥ぇ?」



…‥‥自分のすぐ横をかすった氷の塊に、オゥレが気が付き、固まる。


 周囲の空気は冷え始め、徐々に地面が揺れていく。


「へぇ?ワゼとハクロをねぇ…‥‥そもそもの場合、お前の不始末、いやその馬鹿な頭が起こした喜劇とでもいうべき様な行いのせいなのに、それをすべてこちらに押し付けるのか?」

「え、あ、いや、その」


「というか、何も分かっていない馬鹿が口を利くのか」

「な!?ば、馬鹿とは何だ!!このオゥレ様は」


「‥‥‥ただの腐れ屑馬鹿野郎じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ひぃぃぃっ!?」




 僕の心の底からの怒りの声に、オゥレが腰を抜かし、地面に染みを作っていく。


 そもそも、この馬鹿が何を持ったのかこちらに因縁をつけ、やってきたことからもう怒りがあったが‥‥‥ワゼたちを差し出せ?献上しろだと?


 こんな自己中な腐れ屑野郎に、そんなことをするものか。



「‥‥‥彼女達はな、僕の大切な家族だ。その家族を金の補償に差し出せ?頭の中身がもはや使いものにならないほど腐ってんのか貴様は?」

「ひ、ひぃぃっ・・・・・!!」



 だん!!っと足を鳴らすと、腰を抜かしつつ後ろへ逃げようとするオゥレ、いや、屑男。


 だがしかし、ここは室内であり、壁に阻まれて逃げようがない。


「…‥‥そう言えばさ、こんな言葉を知っているかい?」

「な、なんだ…‥‥?」

「権力で思いのままにできると思っている腐れ屑野郎、その権力を使えば確かにある程度は可能かもしれない。誰かに命令すればいいだけだからな」

「そ、それがどうした?」



「‥‥‥じゃぁさ、権力を使われる前に、言葉を発する前に‥‥‥‥亡くなったら意味がないよね?」

「!!?」


 その言葉を聞き、屑男は僕が何をしようとしているのか、わかったらしい。


「や、やめろ!!こ、このオゥレ様を殺せば貴様はまず間違いなく犯罪者だ!!だから、やめろこの庶民が!!」


……ここまで脅しておいて、まだそう話せるとは。


 ある意味感心するよ。


「ねぇ、犯罪者って言うけれども、それを言える人がいなければどうするの?‥‥‥死体がどうやって、動くのさ?」

「ひ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!や、やめてくれぇぇぇっ!!」


 もはや色々洩らしているのか、異臭が酷くなってくる。


 だが、そんなのは関係なく、僕はそいつに手を向けた。



「ふ、ぁ、い、や、ぼー」

「や、や、やめ、」

「と、見せかけて魔法で攻撃するわけないだろうがこの屑野郎がぁぁぁぁ!!」


 魔法を使うと見せかけ、拳を素早く握りしめ、、怯え切った屑男の顔面目掛けて思いっきり殴りつけた。


 ずむんばきぃっつ!!っと骨が折れた音が聞こえ、屑男は壁にぶつかり、壁にひびが入ってそのまま吹っ飛んだ。



 ‥‥‥なんか、思った以上に力が出ていた。力いっぱい殴ったとはいえ、壁を突き破ってぶっ飛んでいくか?


 それとも、怒りで火事場の馬鹿力のような物が出ちゃったか?



「‥‥‥衛兵長さん、これって大丈夫ですかね?」

「‥‥はっ!?あ、ああ。まぁ、たぶん……あれが生きていればな」


 ちょっと頭が冷えたが、考えてみたら貴族を殴ったのだが、大丈夫なのだろうか?


 そう思い、衛兵長に聞いてみたところ、今回の件はもう全面的に向こう側の方が悪いとちょっと怯えた様子で答えた。


……そんなに僕の怒りって怖かったかな?


 何にしても、今日はもう気分が悪い。


 そもそも、人に対してこうやって暴力を振るうこと自体があまり好まないし、盗賊とかもワゼに任せていたし……僕自身の心は弱いのかもね。


「ワゼ、ハクロ。帰るぞ」

「はい、了解いたしまシタ」

【えっと、はい、わかりましたよ】


 ワゼは普段と変わらずに冷静に答えたが、ハクロはちょっとあっけに取られていたようだ。


 そのまま詰所から出て、僕らは馬車の中に入り、帰路についた。



「‥‥‥はぁ、あの屑男は最悪だったな‥‥‥なあ、二人ともちょっと怖かった?」

「いえ、全然。‥‥‥でも、ご主人様が私たちの事を大事にしてくれているというのは、伝わりまシタ」

【ええ、私は居候のような身で、使い魔にもなりましたが…‥‥その大事にしてくれる心は嬉しかったですよ】


「‥‥‥そうか」



 彼女達の言葉に、ちょっと考えて、少し僕は照れてしまい、彼女達を少し直視できなくなったのであった…‥‥



「‥‥‥あ、ワゼ、一つ良いか?」

「何でしょうカ?」

「一応、あの屑の事だから報復をしないとも限らない。あの屑以外はそうでもないと限らないけれども、僕らを二度と狙えないように、徹底的にやることは可能か?」

「‥‥‥可能デス」



「じゃあ、頼む。やってくれ」

「了解デス」


……それと同時に、屑男の人生はこの瞬間に崩壊が決定したのであった。




・・・・・ああ、完全に怒りを買ってらっしゃる。

裏社会では手を出していけない相手と認知されているだろうし、ここまでの自己中心的な馬鹿野郎に救いの手を差し伸べる奴はいるのだろうか?

まぁ、いないと思うが‥‥‥

次回に続く!


……ほのぼのだけど、たまには本気で怒ります。

良い例として、おそらく記録には残るだろうなぁ…‥‥

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