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#359 ころんころりんっと時が来るのデス

SIDEシアン


‥‥‥ハクロの産卵から、2週間ほどが経過した。


 ヒルド、オルトリンデの例から考えると、もう間もなく2つの卵は孵化の時が来る。


 ゆえに、気が抜けず、孵化するその瞬間を逃さないようにシスターズが四六時中交代で見張るようになり、娘たちも新しい妹か弟の誕生を待ちわびてそわそわし始める。


「んー、気になるにょ、早く生まれて欲しいにょ」

【ふみゅ~、お姉ちゃんの座、受け取りたいな~】

「みーみーっ、早く、早く出てきて♪」

【ガウガーウ】


「‥‥‥卵の周りをぐるぐる回って、落ち着きないなぁ」

【でも、気持ちは分かりますよね。子供が生まれるまで本当に待ち遠しかったですものね】

「わたくしのほうは、まだ流石に早すぎるので無理ですが…‥‥まずはこっちが気になりますわね」


 てとてとぱたぱたっと落ち着きなく卵の周囲を回りながら、歌いながらクロに乗って見守る娘たち。


 その光景は微笑ましく、自然と笑顔になるだろう。ところでクロ、お前まだ野生に帰る気はないのか?


 卵の方を見れば、エメラルドのような薄い緑色の宝石のような卵はぴくぴくんっと動いており、真っ赤に燃え上がるような真紅の卵の方はゆらゆらと揺れている。


 中身もだいぶ出来上がっており、後は殻を割るのを待つだけのようだが…‥‥中々こう、もどかしさも感じさせる。


「もうちょっと、あと一息で出てきそうなのに、焦らしてくるね」

「適切な時があるのでしょウ。今もなお、内部の分析ができませんので、中身の正確な情報は産まれないと分かりませんしネ」

【シャゲシャゲェ】


 ワゼはまだ分からない中身が気になっており、ドーラの方は同意しているのか深く頷く。





 まだかなまだかな、と見ている中で‥‥‥‥ついに、その時が来た。



ココン、ピシッ!

「【!!】」


 なにやら音がして、皆で一斉にその音がした卵の方を見た。


 どうやらまずは、真っ赤な真紅の卵の方から孵化が始まったらしい。


ココン、ビシッ!


「あ、もう一つもか!」

「同時に生まれそうですネ」


 っと、エメラルドのような卵の方にもひびが入り始め、こちらも孵化のタイミングが来たらしい。


 ビシビシ、パキッっと音を立てつつ、ひびがどんどん両方とも大きくなっていく。


「いよいよか‥‥‥どっちの方が早いかな?」

「見た感じ、同じぐらいですわね」

「正確に探るために、確認していマス」


 ひびがどんどん大きくなり、僕らはその様子を見守る。


 どっちが先か、娘か息子かどっちなのか。


 その謎はいよいよ解き明かされる。




 そしてついに、先に卵の殻が割れ切ったのは…‥‥


【ぴゃーい!!】

「にゅー!」


 先に割れたのは、赤い卵の方で、すぐ後に二つ目の卵も割れた。


 素早くワゼが動き、色々と確認してその容姿、性別、種族を判明させる。


「‥‥‥どちらも女の子ですネ。また、両方とも種族が異なっていマス」

「‥‥‥こっちはヒルドのようにアルケニーっぽいけど…‥‥殻の色同様の赤だな」


 先に生まれたのは、小さなアルケニーのような女の子。ハクロの容姿に近いが、足の先が丸みを帯びており、小さめ。真っ赤に燃えるような真紅の髪と眼の色を持ち、触り心地はヒルドとは異なり、ちょっと艶々している。蜘蛛部分の腹には稲妻のような模様もあるな。


【こっちもヒルドのようにアルケニーではないようですけれども…‥‥なんか生えてません?】

「にゅぅ?」


 抱きかかえるハクロの言葉に、首をかしげるのは、エメラルドとはちょっと変わった色合いになった、翡翠色の髪と眼の色をした女の子。

 

 耳が少しとがっており、顔つき的にも整っている方でありつつも、幼さを感じさせる。

 

「ふむ…‥‥データ照合‥‥‥該当種族を確認いたしまシタ」

「で、その種族は?」

「記録は少ないですが、『ファイアボルト・プリンセス・アルケニー』と『グランドエルフ』デス」


―――――――――――――――――――

『ファイアボルト・プリンセス・アルケニー』

稲妻の模様を胴体部分に持つ、真っ赤な色合いをしたアルケニー。

火を吐き雷のように素早く動き、情熱を持つ芸術思考が高いとされるアラクネへと変化する。

突然変異種でもあるのだが、燃費が非常に悪かったらしく、数もさほど増えないまますぐに絶滅したとされる。


『グランドエルフ』

エルフと呼ばれる種族の中でもトップのハイエルフよりも、さらに上位の種族に位置する存在。

魔法の力に長けつつ、自然と非常に調和しあい、共に生きる種族でもある。

分かりやすく言えば、人里離れた秘境に住む仙人のごとき種族でもある。

―――――――――――――――――――



「‥‥‥‥何と言うか、うん、もうツッコミどころが多すぎて、何もできないんだけど」

「まぁ、普通の事は精神的に変わりまセン」


 そう言われても、また滅茶苦茶な種族で生まれてきたなとしか言いようがない。


 考えたら負けのような気もするが…‥‥気にしない方が良いか。娘たちが無事に生まれたのだから、それで良いとしよう。


【ふみゅふみゅ~!妹♪妹♪】

「みー!生まれてきておめでとー!」

「新しい家族だにょ―!」


 子供の種族に大人が頭を悩ませるけれども、娘たちはそんなことは関係ないとばかりに、自分の家族内での地位が変動したことも加わって、喜びの舞を踊っている。


「国を治める立場としては、頭が痛くなりそうですけれども‥‥‥うん、気にしない方針でいきましょう」

「そうした方が良いかもね」

【あのシアン、ところで名前どうしましょうか?】


 ふと、ハクロがそう口にしたので、僕等はそのことに気が付いた。


 新しい命だし、名前を付けないとね。


「それじゃ、赤い子の方は『ノルン』、もう片方は『エイル』にしようかな?これで良いよね?」

【ぴゃい?】

「にゅぅ?」


…‥‥名前を付けてあげたが、流石に生まれたてな今はまだ理解してないのか、娘たちは首をかしげる。


 けれども、ハクロたちからの反対もなく、この子たちの名前はノルンとエイルに決定したのであった。


【ぴゃーい!ぴゃーい!!】

【あわわっ!?急に泣き始めるってどうしたんでしょうかノルン!】

「お腹が空いているようでスネ。通常は孵化後も栄養はあるのですが‥‥‥ああ、燃費の問題ですカ」

【それならすぐに、飲ませてあげますからね!】


…‥‥泣き始めたノルンに対して、直ぐに服を脱いで母乳を与えようとするハクロ。



 だがしかし、数分後には代用のミルクを用意する必要が出てしまうのであった。


【か、体中から栄養が‥‥‥‥】

「…‥‥ハクロ、大丈夫?」

「凄い勢いで飲んでいましたわね…‥‥」


 



ほぼ瞬間的に、色々と吸い尽くされたらしい。

直ぐに食事をとらせて栄養を補給させると元に戻ったけど、これはこれで、子育てが大変そうである。

栄養価の非常に高いものとか、用意しないとなぁ…‥‥

次回に続く!!



…‥‥この時点で、ノルンの必要とするカロリー量を例えるのであれば、某電気ネズミゲームに出る、笛の音で起こす必要あるやつ並みだったりする。わかる人には多分わかるだろうけど、それだけの栄養が必要らしい。

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