#354 削ぐ剥ぐ切るなど用意はあるのデス
SIDE???
ボラーン王国の女王懐妊。
その知らせは国中に巡りつつ、めでたい祝い事として、人々は活気に沸いた。
魔王との子供だというが、そんなことはどうでもいい。
その魔王は中立の立場でもあると言うし、子どもが魔王になるという訳でもない。
むしろ、その子供がいる分だけ魔王の方も愛情があり、国の守りがより固まり、安泰になると推測できて人々は自分たちの安全性の向上に喜びまくる。
‥‥‥だがしかし、その一方で喜ばない者たちもいる。
女王の元へ自分の子供を婿入りさせて利権、権力狙いなどを考えていた類である。
ただしその数は、つい最近激減しており、数えるほどしかなかったが。
「‥‥‥女王懐妊、となると今の段階で新しい子をなさせるのは無理か」
「ああ、送り込めたとしても、確実に意味がないだろう」
目的は同じであり、互に敵対している者たちでもあったが‥‥‥この日は一旦争いをやめ、その話しをするためだけに集いあっていた。
「魔王の子か‥‥‥娘、息子であれば、こちらの孫の方で婚約を結び付けられればいいのではないか?」
「いや、ダメだろう。政略結婚が多いとはいえ、調べた限りは恋愛とかでない限り難しそうだ」
「我々に孫がいたとして、それが結べると限らないだろう?」
女王が懐妊したという事は、新しい子供を為させようにも今は無理だろう。
いや、そもそもそのような行為に至るまで程の関係性もそもそもない。
「とはいえ、この知らせはどうするべきか‥‥‥後継ぎが出来たという話にはなるが、それは魔王との子だろう?」
「実質、魔王とやらに国を母子ともども乗っ取られているようなものだと考えて良いだろう」
「それで良いのか?国の運用は我々のような純粋な貴族がすべきであろう?魔王とて、王という部分が付くが王族出身でもあるまいしなぁ」
そう言いつつも、彼らになせる手段はない。
というのも、ここで偉そうにふんぞり返って話し合いつつも、権力をあまり持っておらず、自身の無能さを曝け出しているようなものであるからだ。
一部はもうじきとある国へ出荷予定だとは思わずに、話を続けていく。
「ならばこそ、今の子はふさわしくあるまい。亡くしてしまうのは惜しいかもしれないが、まだ妊娠間もない」
「となれば、当然流させる時期も今でしかない」
「ああ、それで失った悲しみに対して、我々が手厚く助ければ‥‥‥行けるかもしれないなぁ」
悪だくみを考え、その企みをより確実なものにしようと彼らは動き出す。
ただ、彼らは知っているのだろうか。
捕らぬ狸の皮算用、卓上の理論、夢物語…‥‥なしたつもりであっても、実際に話せていない言葉を。
そして、更に言うのであればここはボラーン王国であり、国内に関してきちんと目や耳が行き届いていることを。
「‥‥‥ふむ、コレ、アウトですネ」
そして、王城でその情報をばっちりととらえ、しっかりと適切に潰される手段を練られていることを。
何にしても彼らは今、決して得ることができない素晴らしき未来に対して思いをはせるだけであった…‥‥
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SIDEシアン
「んー、ハクロ、卵の感じは?」
【なんとなくこう、温かいというのは分かりますけど、まだまだですよ】
王城内の卵専用部屋。
そこに今、僕等は2つの卵に対して確認をしていたが、やはりまだ孵化する時ではないようだ。
【ふみゅ?私たちもこんなかんじだったのー?】
「ああ、こんな感じだったかな」
ヒルドが首をかしげてそう尋ねてきたので、シアンはそう答えた。
まだまだ孵化までの推測できる予定日にはなっていないし、中身が出来上がっているわけでもなさそうである。
どのような我が子が産まれるのか、非常に気になるのだが…‥‥この待っている感じが、本当に待ち遠しいのだ。
「割らないように、丁寧に。しっかりと見ておかないと、卵が駄目になっちゃうからね」
「み!しっかりするみー!」
大事そうに卵にすり寄ってその羽で温めながら、オルトリンデがそう答える。
まだ生まれていないようだが、娘たちは次は自分が姉になる番だという想いからか、母性というより姉性のようなものを発揮し出したようで、卵の面倒をよく見まくっている。
「ロール的には、できれば弟が欲しいけれども‥‥‥妹でもいいにょ」
そして今現在、立派な姉をしているロールも卵を気にかけ、妹たちと一緒に卵を見てくれているようだ。
「ふふふ、わたくしのほうも気になりますわよね」
「「【うん!】」」
「そりゃまぁ、そっちもそっちで気になるからなぁ」
【私と違って、お腹に持ち続けるのも大変そうですけれども‥‥‥こっちはこっちで気になりますよね】
ミスティアの言葉に対して娘たちは元気よく返事しあい、僕等はそうつぶやく。
生まれるのは卵の方が先だとは思うけど、こっちも気になるからなぁ…‥‥
「こういう時に、何もできていない様な父親の立場は辛いなぁ‥‥‥」
【そんなことないですよ。シアンだって、子どもたちの親ですからね】
「それに、わたくしの方も初めてですし、そう気に病むこともありませんわ。今はまず、書類仕事の手伝いなどもしていただければそれで良いですわ」
‥‥‥まぁ、そう考えればいいか。
でもなんか今、さらっと仕事の巻き添えを喰らったような気がしなくもない。
何にしても、孵化及び出産予定日まで時間がかかりそうである。
安全に、全員無事に生まれるまで、気が抜け無さそうであった‥‥‥‥
「ご主人様、報告デス」
「どうした、ワゼ」
「懲りず理解せず根絶できずの類が動き出しているようデス」
「何だろう、その早口言葉っぽい言い方…‥‥いや、それはそうとして、その類が確認されたか」
「ハイ。で、どうしましょうかと思いまシテ。排除するのは決定ですが、こちらの新しい部隊を試してみたいのですが、よろしいでしょうカ?」
「家族に手を出すような輩には、容赦しなくていい。‥‥‥しかし、これ、また変わったやつらを作ったね」
ハクロたちに対して害をなすような馬鹿共は根絶して良いけど‥‥‥何だこの部隊。
「ホムンクルスとか錬金術とか入り混じったなぁ‥‥‥」
「何事も、役者がいないと成り立たないこともありますからネ。個人だけというのも大変デス」
まぁ、これはこれで使えそうだからいいか。
今はまだ敵の排除のみに使用されているそうだが、最終的には平和利用兼ワゼの情報収集手段になるようだし、人々を楽しませるような事もできるのならば文句もあるまい。
楽しませる人は、あくまでもきちんとした人たちであり、処罰予定には地獄を見せるからね。
ひとまずは、この案は採用ってことで良いか…‥‥
「ついでに、別部隊にこれもありマス」
「どれどれ、『前国王の妻たちとの生活をモデルにしたド‥‥』…‥‥情操教育に悪そうだし、これは却下で」
…‥‥うん、きちんと目を通さないとヤヴァイやつが混じってました。だから自然にそう言うのを混ぜないようにして欲しいなぁ…‥‥命令しても意味あるかな?
あかんやろ、それもでるにしたらあかんやろ。
っと、思わずその構想されていた部隊に対して、似非関西弁のようなツッコミが出てしまった。
まあ、さっきの奴なら利用手段多いし、国の名物にもなるかもしれないからね。こっちなら良いよ。
というわけで、次回に続く!!
‥‥‥なお、交渉の末に部隊編成構想は認められらたらしい。
取引した中で、密かに特注のものがいきわたり、温泉街に再び前国王の声が上がったが‥‥‥今度は防音の湯ゆえに、響き渡りはしなかったそうな。




