閑話 一人になって、考える時もあるのデス
SIDEワゼ
‥‥ゆらゆらと揺らめく海上。
月明りに照らされ、ボラーン王国へ向けて深夜航行をしている中、ワゼは甲板に出ていた。
「ふぅ‥‥‥こういうのも悪くはないですネ」
ディングルア王国の禁書庫で得た技術の山。
それらもすべて新しく船に搭載したが、その効果は帰国後に試す予定である。
今はただ、大事な主を無事に帰国させられるように、安全性の方を優先したのだ。
「にしても‥‥‥賢者の石ですカ」
今回の騒動で耳にした、いや、実際に目にした賢者の石。
ただ、あの元王子が作成したのは、確かに作成手段としてはあっていると思われるものを利用していたのだが、いささか技術も材料も不十分であり、暴走し、賢者の石とは程遠い代物へと変わり果ててしまっただが‥‥‥
「‥‥‥作成パターン0。それが、この私にある石の生成方ですネ」
そうつぶやき、彼女はそっと自身の胸に手を当てる。
そして、いつものように変形させることなく、水に手を差し入れるかのように入れ、中からソレを‥‥‥完成品いや、成長途上の、赤く輝く宝石…‥‥本当の、賢者の石を取り出した。
‥‥‥ワゼの動力源は、元々はシアンの魔力。
初めて起動したあの瞬間から、その魔力を受け取りつつ、動力源の火種としても利用し、この賢者の石を稼働させているのだ。
あの愚かな元王子が巨大なゴーレムを動かしたように、確かに、賢者の石はエネルギー源として扱える。
それも、火力、水力、風力、原子力‥‥‥そのどれらよりもはるかにエネルギー変換効率が高く、膨大なエネルギーを生み出せるのだ。
その他にも、水に浸けてかき混ぜれば、寿命を延ばす水となり、金属加工に使用すれば使用したい金属へ変換できるなど、様々な無限の可能性を秘めている宝石…‥‥それが、賢者の石の、本当の機能。
その賢者の石の作成方法はいくつもあるが‥‥‥‥あの愚か者は人を材料にして無理やり作ったようだが、ワゼのものは異なる作成方法。
いや、完成したものを創り出す方法ではなく…‥‥成長し、高みへ上る賢者の石。
多くの経験を吸収し、積み重ねていくことで石はどんどん研鑽されていき、その輝きや能力を増、そして、ある程度できたところで、自己増殖を行い、自身のある程度のデータを軽量化した分身とも言えるものを生み出す…‥‥その分身は、シスターズの方に使われているのである。
増殖し、吸収し、自らを高め続けていく、賢者の石。
しかも、それは、シアンの前世に存在するコンピューターのような役割も果たし…‥‥言ってみれば、今のワゼの、真の本体ともいえる部分でもあるのだ。
「…‥‥今回の件で、多くの情報を入手できましたし、そろそろ増え時ですネ」
そうつぶやき、月明かりに照らされて輝く賢者の石をそっと磨き、再び自身の中へ彼女は戻した。
…‥‥あの賢者の石の作成方法が記された本…‥‥今はもう、二度とあのような馬鹿がでないように焼却処分され、作成方法を知ってしまった者たちも、ちょっとばかり記憶を弄って忘却はさせている。
その本の中にあった内容の中には、一つある文があった。
『賢者の石は、確かに様々な可能性を秘めた万能の石とも言えるだろう。だがしかし、その分所有する者の扱いによって、使い道も変わり…‥‥その者の心を反映する石ともなり得る』と。
言うなれば、賢者の石は心の鏡であり、だからこそ、あの元王子が創り出した石はその心を反映し、怪物へとなり果てたのだろう。
そして、ワゼの石は、彼女自身の想い…‥‥仕えるべき主への徹底的な忠誠心によって、自らを真に高め続けるものになっているのである。
ゆえに、時たま少々黙ってやらかしてしまうことがある程度で済んでいたりもするのだ。
「さてと、そろそろ航海中の船のデータを取っておきましょウ。真夜中の航行には、どの様なデータが得られるのか興味ありますからネ」
そう言い、彼女はデータを収集し始めた。
‥‥‥起動し始めた当初から、彼女の基本的な部分は変わっていない。
どれだけ強大な力だとしても、私利私欲に走る事はなく、自身の仕える主に対して、奉仕するだけ。
メイドゴーレムとして、一介のメイドとして、ずっとシアンの側でメイド業を続け、自らを高めていくのだ。
ついでに、自分の分身のような機体も増やすが、それらもデータを集め、自分たちの向上を目指すため。
世界を征服できるかもしれない、とんでもない代物の賢者の石ではあったが、ワゼの前では、ただの自己改良・向上のための道具でしかないのであった…‥‥‥
「‥‥‥しかし、胸が大きくならないのは、どういう訳なのでしょうかネ?」
…‥‥膨大なエネルギー源、心の鏡、万能の石などと呼ばれる賢者の石でも、流石に無理な事はあった。
どんな代物だとしても、ワゼの目の前では役に立つ程度として認識されるだろう。
自身の本体とも言えるかもしれないが、それでもシアンの役に立つのであれば、利用するだけ。
けれども、きちんと暴走しないように注意を払っていたりもするのであった…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥いやまぁ、賢者の石でも流石に無理なことは無理なんだよね。だからこそ他の機体がワゼ以上のものを持っているのは、その心の鏡を反映していたりするわけであり、それなのに彼女自身にはどうも反映し切らないからこそ、あの断崖ぜっ
(‥‥‥‥ここで、周囲に赤い血痕を残しながら、文章は途切れている)




