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#337 起さないようにデス

SIDEワゼ


‥‥‥深夜、ディングルア王国では、誰もが寝静まっていた。


 シアンたちも客用に用意された王城の一室で眠っており、やや広めのベッドで仲良く一緒に入っていた。


 ロール、ヒルド、オルトリンデも入り込めるような、キングサイズよりも大きいベッドではあるが…‥‥それでも、快眠できているので誰もツッコミを入れることは無かった。



「‥‥‥ン」


 シアンたちのベッドのそばで、ワゼは周囲の警戒を怠らずにいたのだが、ふとある気配を感知した。



コロン、コロン‥‥‥ぶっしゅぅぅぅ……


 何かが投げ込まれ、ガスのような物が放出される。


 既に眠っている相手に対して意味のない睡眠ガスかと思いきや、センサーで軽く分析したところちょっと不味い物。


「掃除機、作動」


 音もなく、静かに右腕を変形させ、そのガスを彼女は吸引し始める。


 起こさないように注意を払いつつ、ガスそのものを留めずに、窓を開けてそちらへ放出されるようにしておく。


 

 作動していた掃除機が、ある程度ガスを吸引し、外部へ放出したところで、彼女はすぐに変形部位を切り離した。


 それと同時に、右腕の状態に戻った腕は床に落ち、直ぐに硬直し、動かなくなる。


「‥‥‥ゴーレム殺しともいえるような、特殊なガスですカ」


 そう、そのガスはどうやら、ゴーレムにだけ効果のある、やや石化に近いような作用もある物らしいと、分析結果に出た。


 かつては錬金術で繁栄していた国でもあり、あの禁書庫の蔵書を元にすれば、なんとか作れないと思われる特殊なガス。


 機能を停止させ、硬直させて動けなくする作用があり、効果が及ぶ前に切り離した判断は正しかったようである。


「少々、不味いですネ」


 シスターズへ素早く通信を取り、ワゼはすぐに動き始める。


 ガスそのものはシアンたちへ害を及ぼすものにはならないが、どうも相手の狙いは自分。


 そう思い、狭い場所では不利だと思い、月明りのある城の中庭の方へ、彼女は移動した。



「‥‥‥探知、17名。ガス及び強制停止道具など‥‥‥ですカ」



 広い中庭に出たところで、ぐるりと囲む気配を感知する。


 姿は見えないが、センサーから得られる情報では、姿を隠すような道具を使っているらしいが‥‥整備不良なのか、それともそこまでの技術がないだけか、隠しきれていないようである。


 隠蔽の道具を使っても、その道具をうまく扱えていなかったり、道具そのものが機能をほぼ無くしているような状態なので、バレバレすぎる。



 

 相手側から叫ぶなどの行為もなく、既にワゼを捕えるための作戦を展開しているのだろう。


「これでも私、ご主人様のメイドですが、その意味をあなた方は分かっていますカ?」


 軽く問いかけてみるが、誰も返答がなく、分かっていないだけか、あるいはその事を百も承知か。



ポイポイ!!


 数秒後、様々な道具が投げつけられ、周囲一帯をガスなどが覆っていく。


 中にはワゼの動力に関して独自の考えをもっているのか、各自でゴーレムの停止方法を利用しているものもいるようだが、ここまで堂々とした奇襲に対しては、既に対策を練ることができていた。


「まだ実験段階ですが、ちょっと魔法の真似事でも致しましょウ」



 メイドゴーレムである彼女は、シアンの魔力を受けて動いてはいるものの、魔法を使う訳ではない。


 れっきとした錬金術、科学などの技術を利用して、火炎放射や電撃などを放つことができるだけである。


 けれども、進んだ科学は魔法とも大差ない。




「『ショックウェーブ』!」


 そうワゼが告げると、彼女の周囲に波紋が産まれる。


 水面に水滴を落とした波のように、空間そのものに光の波紋が生まれ、周囲へ広がり、ガスをその場から払いのけ、消失させる。


 そして残った波紋は、周囲を囲む者たちへ直撃し…‥‥


「「「「「うげぶ!?」」」」」

「「「げそっぷ!?」」」

「「「「「「ごるぶっばぁ!?」」」」」」


 距離によって違いはあれども皆痙攣し、その場に倒れ込んだ。


 特殊な電磁波によるガスを誘導して払いのけ、そのついでにたっぷり流した電撃を混ぜ込んだ攻撃。


 広範囲無差別専用の技であり、安全性に少々難があるので実験しづらかったが、今は都合が良かった。



「さて、まだ残ってますネ」

 

 かろうじて避けて、数名残っているようだが、問題ない。



だんだんだんっ!!


 ガスによる攻撃は無意味だと判断したのか、遠距離攻撃を仕掛けてきたようで、こちらもゴーレム関係を停止させるような道具なのは間違いないだろう。


 だが、その攻撃をワゼは全て避け、発射方向に相手がいる事を確認し、パチンコを構える。


「こちらの方が、なにげに精度が高いデス」


 そうつぶやきながら、狙いを定めて装填した球を発車する。


 それらは全て飛んでいき、狙った相手の口の中へお届けし…‥‥


「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」


‥‥‥先ほどの、絶叫を上げた者たちよりも酷い断末魔が上がりまくった。


「…‥‥こちらの方が威力が高いのは納得できまセン」


 本日、ディングルア王国へ訪れたついでに、王太子の体の脅威に驚きつつ、残されていた料理を少々拝借し、作り出したもの。


 進んだ錬金・科学的な攻撃よりも、原始的な攻撃の方が効果が高いことに、彼女は納得いかずに不満そうにつぶやくのであった。



「あ、縛り上げてしっかりとらえ上げようとしたのですが…‥‥この方々、完全に逝ってしまわれまシタ。どうしましょう、コレ」


…‥‥原材料をちょっと固めただけのものなのに、完全に逝かれてしまった。


 珍しく、ちょっとした失敗をしたようでもあった‥‥‥‥


夜の奇襲とはいえ、相手では無さすぎた。

個人的に納得がいかない結果ではあるが、とりあえず尋問である。

…‥‥尋問よりも酷いことになったような気もしなくはないのであった。

次回に続く!!


‥‥‥馬鹿というか、何と言うか。痛い目を見ているなぁ。

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