#335 たまには珍しく、離れてみるのデス
SIDEワゼ
「ふむ、流石に廃れているとはいえ、これはこれで中々すごい量ですネ」
ディングルア王国、王城内。
いつもであれば、シアンたちの側の方にワゼはいるのだが、今回ばかりは少しだけその傍を離れていた。
今はシスターズをシアンたちの守りへ派遣し、観光を見守りつつ、この国にある目的の内、とある方を優先したのである。
「こちらの設計図及び、この巻などは機密扱いされていないのでしょうカ?」
「ここにあるのは、外部公開が許可されたものだからね。本当に不味い類であれば、別の部署の方にあるはずだ」
王城内にある、お抱え錬金術師たちが務めている場所。
そこに今、ワゼは訪れており、様々なモノを見せてもらっていた。
「しかし、王太子妃様の妹鵜の夫‥‥‥魔王様だったか。その付き人にメイドがいるらしいという話は聞いていたが、ここまっで精巧なゴーレムとは思わなかった」
「ああ、失われた技術が詰め込まれていそうで、非常に気になるのだが‥‥‥分解して調べてはダメかね?」
「ダメデス。流石にそこまでされるのは嫌デス」
「そうか‥‥‥」
はぁぁっと落胆したように落ち込みつつも、この部屋にいた錬金術師たちはワゼへの視線を外さない。
元々、このディングルア王国は錬金術が栄えていた国であり、それが今では衰退しているとはいえ、その復興を目論む者たちも多い。
ここにいる錬金術師たちも新しい錬金方法などを模索しつつも、過去の技術を復活させられそうなものがあれば、興味を示してしまうのだ。
「‥‥‥ふむ、ですが、ここにある文献などには、ルーツは無いですネ。私自身への繋がるような物がないかと興味を持っていたのですガ」
「多分、それがあったとしても機密扱いの方にある可能性があるな。国王陛下からの許可などがなければ、そこには立ち入れません」
「なるホド」
今、ワゼが求めているのは、自身の製作者につながるかもしれない情報。
錬金術師を多く抱えているのであれば、自分につながるような者がいたとしてもおかしくないと思っていたのだが…‥‥今あるこの閲覧可能な情報からは見つからず、期待外れである。
「とはいえ、無理に探す必要性もないですネ。求めていたら、代価として体を求められそうですし、そこまでする必要もないでしょウ」
「言葉だけを捉えるといかがわしいんだが」
つぶやきが聞こえた錬金術師のツッコミに、同じく思ってしまった者たちが頷き合う。
ここにいるのは主に錬金術師でも錬金馬鹿と言える類だが、まだまともな方が多い場所のようだ。
より深く踏み込めば踏み込むほど、それこそ倫理観の外れたような危ない奴もいる可能性があるので、これ以上探る事はしない方が良いだろう。
(…‥‥シスターズの派遣も考えてましたが、ここですと悪手ですネ)
メイドゴーレムとは言え、その機能にも限界はある。
こういう場所に特化したシスターズを作製し、送り込み、探らせることもできたであろうが‥‥‥錬金術師が多い場所であれば、その分工作などを見破られる可能性も高く、リスクが大きいのだ。
「とりあえず、ワゼさんだったか。数日間は滞在するだろうし、機会があれば何とか奥の蔵書などを見せられないか、頼み込んであげようか?」
「対価はありませんカ?」
「出来れば、本当にちょっとでもイイから何かこう、技術が欲しい」
…‥‥ここの錬金術師たち、素直過ぎるような気がする。
だがしかし、今目の前に入る者たちの方は悪意などもないようだし、できる部分であればやってあげて見た方が良いのかもしれない。
「‥‥‥でしたら、これをドウゾ」
そう思い、対価になり得そうなモノをポケットからワゼは取り出した。
「…‥‥何だこの布は?肌触りが違うぞ」
「つるつるしているような‥‥‥それでいて、不快感を覚えないこれは…‥?」
「『防水・防火加工』の技術を施した布デス」
技術そのものではなく、それを施した特殊加工の布。
それだけでもどうやら対価になり得たようで、錬金術師たちが騒ぎ出す。
「本当だ!!水を一切通さないぞ!!」
「しかも火であぶっても、全然燃えねぇ!!」
「元からその性質を持つ鉱石を糸状にして練り込む手法もあったが、これは使われていない!!この技術はかなりのものに応用できるはずだぁぁぁ!!」
「ありがとうありがとう!!では今すぐにでも機密扱いを見られるように交渉してくるぞ!!」
「「「おおおおおおおお!!」」」
歓喜し、興奮し、駆けだす錬金術師たち。
どうやらさっさと許可を貰いに向かい、我先にと布の方を解明したいらしい。
ワゼにとっては既に古い技術でもあるのだが、どうやら彼らにとっては違うようであった。
「‥‥‥ちょっと、怖いデス」
研究目的に興奮する様に、流石のワゼでも少し引くのであった‥‥‥‥
――――――――――――――
SIDE錬金術師長
「錬金術師ぅぅぅぅぅぅ!!禁術・機密書庫への立ち入り許可を速攻でだしてくださぁぁぁあぃ!!」
「今すぐ研究するためにも、許可が、許可が必要ですぅぅぅ!!」
「一刻も早く、やらなければ他の奴に先に解き明かされてしまいまぁぁす!!」
「おおおおおおぅ!?」
王城内の錬金術師たちを束ねる、錬金術師長ドワール。
派閥が幾つも分かれている中で、どうも最近きな臭い動きをしている輩たちの調査をしており、少々嫌な予感がひしひしと感じられ、頭を抱えたくなっているところへ、急に錬金術師たちが押し掛けてきた。
「どうしたどうしたお前たち!!鼻息荒いし目が血走っているのだが!?」
「どうしたもこうしたもないですよ!!未知の技術を調べるチャンスです!!」
「合法的に、同意を得た形での提供を受け、それを調べるためには時間が惜しいのです!!」
「だから許可を、どうかどうかどうかどうかどうか!!」
座っていた場所に詰め掛けてくる様子に、ドワールはひぇぇぇっと思わず後ずさる。
ドワールもまた錬金術師であり、研究馬鹿でもあるが、実はまだここの中ではまともな部類であり、ここまで興奮することが無いのだ。
冷静な判断をそうやすやすと失わない点から、錬金術師長となったともされるが‥‥‥今の周囲の興奮状態には、正直ドン引きしていた。
「と、とりあえず落ち着いて話せぇぇぇぇぇ!!」
かくかくじかじかと話を聞くと、どうやら彼らはある技術を手に入れ、その研究をしたいらしい。
その対価としてこうして説得しつつ、早急に研究をするために押しかけてきたらしいと、ドワールは結論付けた。
「なるほど…‥‥そうか、王太子妃さまの妹の夫についていたメイドか…‥ゴーレムと聞いていたが、何かと判断する能力も高そうだな」
「それはそうとして、さっさと許可を!!」
「今なら勢いでもう少し出せそうなのです!!」
「そ、そうなのか」
落ち着かせて話をさせていたはずが、再び燃え始める同僚たちにドン引きを隠せない。
「わかった、許可しよう。ただし今、書庫の方には少々きな臭い奴らがいるからな。そちらに近づけないように、注意をし、」
「「「「わっかりましたぁぁぁぁ!」」」」
「話を最後まで聞けぇぇぇぇ!!」
速攻でその場から去る術師たちに、そう叫ぶドワールであったが、すでに遅かった。
「‥‥‥ああもぅ、何やら問題が起きそうな中で、火に油を注ぐ様な事はするなよ」
胃がキリキリと痛んだような気がして、新しく作った胃薬を飲み始めるのであった‥‥‥‥
たまにはシアンたちと完全別行動に出るワゼ。
興味をひかれたので、自由行動をするようである。
しかし何やら、きな臭い話などがあるようで‥‥‥面倒ごとの引き金にもなりそうだ。
次回に続く!!
‥‥‥錬金術師長、漂う苦労臭。
もしや、その胃薬を開発するためになったのではなかろうか。




