閑話 温かく、ほのぼのしているある日の光景デス
【ふみゅ~♪ふみゅふみゅ~♪】
「み~♪みみみみ~♪」
【ふみゅ~、ふみゅみゅみゅ~♪】
「みー♪みー♪みー♪」
適当に口ずさみ、ご機嫌に歌うヒルドとオルトリンデ。
その下では、彼女達を乗せて動く者がいた。
【ガウガーウ?】
【ふみゅ、ふみゅふみゅ!】
「みー!」
【ガウッ!】
先日のオークションで購入され、野生に返されるまでに、色々と処理する事情があり、一時的に家族に加わっている、神獣フェンリルの子供、クロである。
本名はもう少し長いのだが、呼びやすさなどから考えてクロと呼ばれるようになり、既に数日。
過ごしている間に何かできないかと動いた結果、ヒルドとオルトリンデの二人を監視しつつ、彼女達の足となる仕事を与えられたのである。
何しろ、この二人は好奇心旺盛すぎてあちこちを探索しまくり、監視の目であもあるシスターズが追跡してもいつの間にか振り切られていたり、巻き込まれて遠ざけられたりなどされ、色々とてんてこまいな目に遭っていたのだ。
そこで今回、クロが彼女達の足にあえてなることで、お目付け役も兼ねてしっかりと見張れるようにされたのだが、これが思いのほか大当たり。
まだ成獣の状態になり切っていないゆえにサイズは超大型犬ほどではあるが、その毛並みは良く、ふさふさとしており、埋もれるかのような触り心地に、二人は夢中になった。
そのおかげですぐに離れるようなことはなく、ぴっとりとその背中に潜り込むようになったのだ。
【ふみゅ~ふみゅ!】
「みー!」
【ガウガーウ!】
小さな娘たちが獣に乗り込み、駆け抜けるその様子は何処か微笑ましく、城下街に勝手に出ても皆温かい目で、孫たちを甘やかすような感覚で見守る。
一部に良からぬことを企て、接触するような輩もいたのだが‥‥‥そう言う類は、触れる前にその場から連れ攫われていたり、消し飛ばされていたので、危険な事も特に起きなかった。
まぁ、そもそもまだ子供のような物とは言え巣立った神獣フェンリルの子供に、魔王の娘二人という時点で、襲おうと考える輩はまずいないのだが。
知らなかったとしても、そのほのぼのもふもふのんびりとした癒しの光景に、むしろ浄化され、悪行に対して後悔して、償いをするために善行を働くような者が出たぐらいである。
人知れずに、王城周辺の治安を向上させていたのだが、娘たちは知る由もなかった。
なお、本日はシアンたちはミスティアの仕事の手伝いと、他国からの使者などに対してきちんと話し合うためにこの場にはおらず、彼女達が好き勝手出来る状態にもなっていた。
一応、魔法屋としての仕事もこなしているので、仕事でいないようなものだが‥‥‥それでもきちんと、家族として接しているので、文句はない。
しいて彼女達が文句を言うのであれば、自分たちも色々とやってみたいのだが、色々と危険なことが多すぎて許可が貰いにくいという事ぐらいである。
【ふみゅふみゅー!】
「みー!」
【ガウガーウ!】
城下街の散歩も終え、王城内に戻ったところですぐに休まない。
中庭にて、蜘蛛の糸に乗って颯爽と滑り、翼を広げて滑空し、地面を駆け抜けて、それぞれ競争を楽しむ。
そして、城の地下通路を利用して森の方へ出向き、湖に向かって飛び込み、今度は競泳で楽しく競い合う。
【ふみゅふみゅ~♪】
「みー!!」
【ガウーッ!!】
‥‥‥まぁ、泳ぐという行為というよりも、ヒルドは蜘蛛の糸を工夫して編みこんでつくったアメンボのように動ける靴を履いて水面を滑り、オルトリンデは翼をはばたかせつつ水面を蹴るように駆け抜け、クロは超高速で駆け抜ける事で水の上を走っていたが。
【シャゲシャゲ~!】
【ふみゅ?】
「み?」
【ガウ?】
っと、ある程度遊んでいたところで、お昼近くになった頃合いに、ドーラがやって来た。
シュルシュルと蔓を伸ばし、しっかりと皆を巻き付けて釣りあげる。
どうやら昼時になったので、昼食のために連れ戻しに来たらしい。
できればまだ遊びたいところであったけれども、お腹の音が鳴ったので、大人しく従うことにしたのであった。
【‥‥‥今日はもう仕事は切り上げましたけど…‥‥皆、もうお眠でしょうか?】
「いっぱい遊んでいるからなぁ‥‥‥帰って来たのは良いけど、熟睡しているね」
王城にて、昼には帰って来て、シアンたちは娘たち過ごそうとしていた。
が、お腹いっぱいになったせいなのか、それとも遊びづかれたのか、スヤスヤと彼女達は寝息を立て、中庭に植えた木の陰でクロの毛皮の上で眠っていた。
なにやらちゃっかりロールも加わっており、妹たちを抱いて満足げにしているようだ。
【‥‥‥私たちも一緒に昼寝しましょう】
「そうだね。こういうのも悪くないからね」
「あ、わたくしはまだ仕事がありますけれども‥‥‥時間はとれますし、一緒に寝ますわ」
…‥‥心地よい風が吹き、木漏れ日によってちょうどいい具合に光が閉ざされ、互に寄りかかり、その温かさに身を任せ、全員一緒に眠りにつく。
この国の思いっ切り重要な人物たちではあったが、その一緒に昼寝する光景は、温かい家族の眠りの一家団欒、そのものであった。
なお、その光景を見て後日、王城勤めをしていた者たちで家族と過ごしたいと思うような者が続出し、やや休暇届が多めに出されたのは言うまでもない。
そして独身の者たちに関しては、故郷の方へ帰ってみたり、自分たちもあのような幸せな家庭を築き上げたいと思い、婚活が一層激しく開催されたのも言うまでもなかった。
「‥‥‥ふぅ、睡眠を邪魔しない心地い風というのも、なかなか難しいものデス」
【シャゲシャゲェ】
「ええ、木の角度はそのままでお願いいたしマス。ご主人様方が心地いい眠りにつくためにも、きちんと調整をしないといけませんからネ」
元々のんびりほのぼのちょっと甘めな話なので、今回はそれを強めてみました。
ゆったりと仲良く昼寝し、過ごす親子。
そしてその傍らで、メイドたちが心地居眠りを提供するために動いているのであった‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥というか、気が付いたんだけど、この時点でクロってポチ以上の好待遇を受けているよね?




