#304 時間がとられればデス
SIDE悪魔グズゥエルゼ
‥‥‥失敗作の、神獣たちを合成して作った怪物は、容易く倒された。
いい感じに行けていたとは思っていたが、やはりそうやすやすといかなかった。
「まぁ、その分研究が進んだから、文句もないな」
どうせ扱えない失敗作だったし、むしろ処分の手間を省いてくれたのは感謝して良いと、グズゥエルゼは思っていた。
また、ついでにあの場所へアンデッドたちを誘導し、ここまでの進撃の時間を稼いでみたが、目論見通りどうもその討伐隊らしい者たちはその場から動く気配はない。
いや、先ほど怪物の気配が消え、神獣の気配に切り替わったようであることから、何か復活でもやっているのだろう。
「何にしても、十分すぎるほどの時間稼ぎにもなったし‥‥予想以上の収穫というか、都合よくいったな」
ニヤリと笑みを浮かべ、その室内にセットしてある装置を見ながら、グズゥエルゼはそうつぶやく。
前に、一度アンデッドを生み出したこの小国へ、再び舞い戻って来たのは、これを熟させるため。
いや、元々は単純明快に負の感情などを集めるためだけにやっていたりもしたが…‥‥利用できる物であれば、利用しまくればいい。
「さてと、もう十分でもあるが‥‥‥あとは、この場所をどうするかだな」
この地でやろうとしていた用事はほとんど済んだ。
あとはさっさとここからおさらばするだけだが、この地下室を残すのはあまりよくないだろう。
何しろ、ここにあるものはあちこち様々な技術の結晶でもあり、迂闊に残しておいて、分析されるのは好ましくないのだ。
「となれば、やっぱり盛大に証拠隠滅のための爆破の方がいいか‥‥?自爆装置は流石にうっかりでやらかすのが怖いし、付けなかったが‥‥‥まぁ、今から設置していけばいいか」
まだ生産し続ける装置などもあるが、もはや用済みである。
放置しても培養され、増殖し、アンデッドを生み出す装置のデータとかは覚えているし、壊したところでまた別の場所で作れるから問題もない。
ならば、あとくされの無いようにという事で、グズゥエルゼは証拠隠滅のために、爆薬を用意し始めるのであった‥‥‥‥
「‥‥‥あ、しまった。火薬の材料切らしていたか。魔法でもできるけど、逃亡用の魔力は残したいからな…‥‥仕方がない、ちょっと弄って爆発生物でも大量に増殖させるか」
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SIDE 05&10&11
…‥‥気が付けば日が暮れており、夜となっていた。
砂漠の小国があるココもまた砂漠地帯であり、夜間の気温は急激に下がる。
昼間は太陽のギラギラした日差しで蒸し暑くもあるが、それとは正反対の、凍てつくような寒さとなるのだ。
そんな中で、シスターズは用意してきた簡易的なテントを設置しつつ、作業を行っていた。
そして今、ようやくその作業は終わりを迎えた。
「ファ‥‥‥よ、ようやく縫合し終えたファ」
「あとは、意識が戻るのか待つだけデース」
「このまま放置でもイイ?」
ぐでぇっと、絵面がひどすぎる作業に精神的な疲労を覚えつつも、彼女達には与えられた任務がある。
ここで作業をして戻してやったのは、後々怪物が復活して面倒事を再発させられるのは大変なので、防止のためにわざわざやったが‥‥‥思った以上にてこずり、夜中になってしまったのだ。
時間をかければかけるほど、目的、悪魔グズゥエルゼの討伐をする前に、肝心のターゲットが逃亡してしまうだろう。
「にしても、あの大きさで数体ほど混ざっていたにしては、サイズが小さかったような‥‥‥ファ」
「今は再生させつつデース。千切れて小さい分、収まっていたのデース」
何にしても、精神的疲労もさっさと回復させ、先を急がなければならない。
このテントは仮医療施設のような物で設置しているだけで、別に放棄しても大丈夫な類でもある。
「それに、アンデッドたちもようやく近寄らなくなった感じがするイ?」
「腐っても神獣、いや、あの中の一体の毒液が、周囲の方へ警告を出して、近寄らせないように威圧になっているような気がするデース」
そう言いながら、彼女達は先ほどの怪物であった、神獣たちを見てそうつぶやいた。
…‥‥つぎはぎだらけでありつつ、その再生力や手当によって、各自の状態は快復へ向かっている。
既にほかのシスターズなども動員して調査して、それぞれがどの様な神獣であるのかも、調べは着いた。
無意識的に周囲を毒を生み出し、自ら外界とは異なるとある場所を安住の地として静かに過ごしている、大いなる巨大蛇のような神獣『ヨルムンガンド』の『グラタン』。
調査前に、戦闘データが残っており、治療はしたが、治療場所の確保のために塩をたっぷり撒いて小さくした、元巨大、現在手のひらサイズの羽付きナメクジ『グルーン』の『グルツゥス』。
普段は雲に擬態しつつ、大空を漂う空クジラ『クラウドホエール』の『ダイキ』。
再生せず、材料に使われたのかそれとも元からそうだったのか、本来は8本足、今は2本足の大きな馬の神獣『スレイプニル』の『プルルン』。
種族と名前が分かったのは他にもおり、このほかにも小さい者や、大きい者など、合わせて十数体ほどの神獣が混ざっていたようであり、再生能力や治療によってある程度復元はできたが、調査によって得たデータとは姿が異なる者などもいくつかあった。
何にしても、あの一体の怪物のために、これだけの神獣が囚われ、利用されていたのは衝撃である。
『あー、こちらワゼ。ハルディアの森の方へ向かい、フェンリル一家の中にいた、ヴァルハラ氏からのデータも届きましたが、やはりというか、そこにいる面々は行方不明になっていたそうデス。ただ、全部が一気にではなく、数年、数十年、数百年前など、バラバラだったようデス』
「一度に攫って来たのではなく、積み重ねてやって来たのかファ‥‥‥」
何にしてもこの様子だと、この先悪魔の元へ向かう道中で同じようなものが用意されていてもおかしくはない。
というよりも、ここ最近で作ったものというより、長い時間をかけて作り上げたものが多く出そうな気がして、いやな予感を覚える。
「ひとまず、治療はこんなものイ。後は、放置しても大丈夫かも?」
「それじゃ、さっさと出発したほうが良さそうデース」
凍てつくような真夜中の砂漠とはいえ、ここで足を止めるわけにもいかない。
時間が経てばそれだけ相手の余裕もできるだろうし、当初の予定よりも遅れている。
そのため、素早く彼女達はテントから飛び出し、先を急ぎ始めるのであった‥‥‥‥
神獣たちを復元し、急いで向かうシスターズ。
だがしかし、時間の経過によって相手の余裕を与えてしまう。
待ち受けるのは、悪魔か、それとも…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥さてさて、時間をかけすぎてしまった砂漠の方も、そろそろかな。




