#302 目を隠してもできて良かったデス
SIDE 05&10&11
…‥‥じゅうじゅうじゅぅっと音を立て、周囲の液体が迫りくる。
けれども、その液体はその境界線を越えようとしても、すぐに蒸発して霧散し、それを溶かすことができない。
『ぎ、ギリギリセーフ…‥‥なのかな?』
その光景を見て、自身の周囲に境界線‥‥‥光の結界を纏わせながら、彼女はそうつぶやいた。
頭上からキメラにばくりんちょとされる寸前に、合体していた紅忍はすぐに解除し、元のフンフ、ツェーン、エィルフの3人に分かれた。
けれども、その時にはすでに口内へ入り込んでおり、直ぐに脱出ができない状態。
続けてやって来た溶解液から逃れるために、大急ぎで順番をかえ、当初の予定であったフンフメインから、この状況を考えてエィルフメインの合体フォルム‥‥‥「エンジェ」に切り替えたのである。
そのフォルムの特徴は、聖なる力を増幅し、自身に纏わせること。
放出して周囲を癒すのでなく、殴って癒すようなスタイルになっているのだ。
‥‥‥本来であれば、シスターの役目を持つエィルフメインなので、ヒーラーとでもいうべき合体になるはずであったが、このメンバーだと打撃面を強化してしまうらしい。
それでもなお、自身に聖なる力を纏わせ、結果的にバリアのような感じになり、溶解液から自身の身を守ることに成功していた。
『まだ油断できませんが‥‥少なくとも、難を逃れたようです』
キメラの中の、溶解液の中に浸かりながらも、溶かされていない状況に彼女は安堵の息を吐いた。
けれども、状況が好転したわけではない。
このバリア自体も無限という訳でもないし、今は平気でもそのうち溶かしきられる可能性もある。
その前に、何としてでもこのキメラの中から脱出するか、あるいは倒してしまうかしなければいけないのだが‥‥‥
『‥‥‥うう、進みにくいです』
溶解液の中は粘りが強いのか動きづらい。
光を纏い、溶解液を霧散させるのは良いが、それでもある程度の抵抗力はあるらしい。
とにもかくにも、なんとか脱出の糸口を図ろうと、彼女は前進し始める。
口から入ったのであれば、出るところも多分あるだろうが…‥‥まぁ、それは避けたい。
できれば何処か、体の薄い所へ辿り着き、そこをぶち抜いてしまえば良いと考えたのであった。
ある程度進み始め、途中で道が分岐していた。
『‥‥‥器官、ぐちゃぐちゃですものね』
このキメラ、様々な神獣が混ざっているせいか、内部構造も混とんじみたものになっているようである。
胃だと思えば腸、肺だと思えば肝臓など、内部自体も色々おかしいようだ。
『ん?』
っと、ここでふと、彼女の耳は奇妙な音を捉えた。
『…‥‥もしかして』
その音の方へ向かい、歩みだす。
それから数分もしないうちに、その音の原因へ、たどり着いた。
『うわぁ‥‥‥』
そこにあったのは、いくつもの神獣を混ぜた影響なのか、脈打つ巨大な心臓。
いや、口からどこをどうやって心臓までの道ができるのかは分からないが、キメラ化しているからという理由で、どうにかなるだろう。
『反応確認…‥‥複合心臓でしょうか?』
いくつもの神獣の心臓が混ざり合い、ひとつになって肥大化した心臓。
その動きは荒々しくもあり、落ち着きがないようだが‥‥‥別の感情もあるようだ。
嘆くような、悲しむような、そんな気持ちがそこから出されているようにも感じ取れる。
『材料にされた、神獣たちの魂でもあるのでしょうか…‥‥何にしても、どうにかしたほうが良さそうです』
ここを一突きにやってしまえば、おそらくこのキメラはあっさりと逝くかもしれない。
とはいえ、心臓がある場所なのに、周囲は溶解液であふれており、攻撃しようにもうまくできない。
いや、そもそもあの心臓が溶けていないのは、何かこう特殊な筋肉で出来ている可能性もあるが‥‥‥
『‥‥‥よし、分からなければ、殴りましょう!』
‥‥‥シスターであるエィルフメインの合体、エンジェ。
本来であれば奥ゆかしい性格のはずでもあったが、この合体故か、少々力づくで物事を収める方針にしているようであった。
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SIDE悪魔グズゥエルゼ
「‥‥‥ありゃりゃ、あっさり喰われているのか?」
小国の王城の地下から、分身を派遣してその光景を見ていた悪魔グズゥエルゼ。
アンデッドたちを撲殺し、進撃している者たちへ、妨害や処分も兼ねて、このキメラを送り込んだのだが‥‥‥どうも相手は、あっさりと食べられてしまったらしい。
まだまだ暴れたりないというか、収まりがつかないというか、キメラが周囲に溶解液をまき散らしながら、アンデッドたちを敵をみなして貪り食うさまを観察していた。
「まぁ、こんなに早く片付くのも楽と言えば楽か。倒してくれた方が都合がいいし、処分できなくともまだ利用‥‥‥ん?」
【ぶげぼじゅわァァァァァァ!!】
ひとまずはここから離れ、作業へ集中しようとした中で、悪魔はその異変に気が付いた。
突然、キメラが胸元らしい部分を抑え始め、叫び声を上げ始めある。
【ぶじゅ、ぶじゅ、ぶじゅげあっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあぁ!!】
「‥‥‥何だ?」
ゴロンゴロンと、悶え苦しむようにのたうち回るキメラ。
周囲に余計に溶解液が飛びちり、アンデッドたちが巻き添えになってく。
【ぶじゅっぐ、ぶじゅっげぇ、ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!】
びたんびたんとまな板の上のコイのごとく、暴れまくるキメラで、収まる気配はない。
その光景を見ているうちに、悪魔はある可能性に気が付いた。
「まさか‥‥‥生きて攻撃しているというのか?あの溶解液まみれの中で?」
【ぐげばぁぁぁぁっぁぁぁ!!】
そうこうしているうちに、キメラが断末魔を上げ、‥‥‥次の瞬間、動きを止め、その場に倒れ込んだ。
黙々と大きな土煙を上げる中‥‥‥その抑えていた胸元が膨らみ始める。
ばあん!!どぉん!!どっごぉん!!
明らかに色々とやばそうな音が聞こえるが、本体が無事ならば良いので、分身を向かわせ、間近で観察を試みようとした…‥‥その時であった。
ぐぐぐぐぐぐぐ‥‥‥‥‥ばっりぃぃぃぃぃん!!めっごう!!
「ぐげっつ!?」
何かが突き破り、近づいていた分身体の顔面に強くめり込んだ。
潰れたパンのごとく顔がひしゃげ、そのまま分身は消滅する。
何が起きたのか、今の一瞬で理解しがたかったが…‥‥
「‥‥‥もしや、腹を突き破って来たのか?その拳が飛んで来た…‥‥のだろうか?」
唖然としつつも、その推測が当たっていると思うしかないのであった
‥‥‥言えることとすれば、おそらくその場は今、目も当てられない惨状であろう。
何しろ、キメラの腹が突き破られ、その内部の溶解液が流れ出しているから‥‥‥‥
‥‥‥想像するだけでも、結構えげつないと思う攻撃。
何にしても、難を逃れたと言えるだろうか?
哀れな犠牲者を出しつつも、悪魔の元へ行かなければ!
次回に続く!!
…‥‥なお、書いていてふと気が付いた。この鉄拳聖職者、某スマホゲの竜を殴って収めた聖職者に似ているな。
いや、意識したつもりはないが…‥‥影響受けちゃった?




