#291 解決させつつ、話を聞きつつデス
SIDEシアン
「‥‥‥とりあえず、王子が治ったことは良い事か?」
「いや、流石に治ってもちょっとお見せできません状態になっているのはどうかと思う」
湖の底に空いた穴のせいで、水びだしとなったシアンたち。
何とかワゼたちの手によって塞ぎ、どうにか助かったのは良いのだが、全員びしょびしょに濡れていた。
ゆえに、衣服を乾かすまでの間、濡れて冷えた体を温める意味でも、風呂に全員で浸かる事にした。
‥‥‥一応、ここはハルディアの森の中にあるシアンの家(城)。
それなりにこだわったお風呂は広く、全員浸かっても問題ない。
まぁ、流石に客人がいる状態なので、仕切りを作って男湯と女湯にしているのだが‥‥‥
「まぁ、とにもかくにも何とかなったのは良いのだが…‥‥結局、あの王子を化け物にした心当たりってあるのか?」
「ああ、あると言えばあるかな。身内というか‥‥‥まぁ、同族のある悪魔だろう」
そう言いながら、のんびりとと浸かるゼリアスは語りだす。
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‥‥‥数百年前に先代の悪の魔王がいたが、悪魔自体はそれよりもさらに長い年月を生きている。
数千、場合によっては数万年前から生きている者たちもおり、その中でもさらにやばいレベルだと大悪魔などと呼ばれていくらしい。
ついでにゼリアスも、その大悪魔の類らしい。
それはひとまず置いておくとして、大悪魔、悪魔と言っても別に「悪」が付くからといって、悪事ばかりをするだけではない。
悪事もやれば飽きもくるし、長い年月を過ごすと少々別の楽しみを見つけたくなる。
ゼリアスの同族たちにもそういうのはいて、孤児院経営を楽しみ始めたり、どこかの国の王族に出もついて悪事暴き暴れん坊将軍道中などを楽しむのがいるそうだ。
しかしながら、そういう者たちがいる一方で、中には過激な者たちもいる。
悪事を悪事として認識しつつ、その悪の道を究めようとして、大勢に迷惑をかけるような者達がいるそうなのだ。
その中でも、今回の件で言うのであれば‥‥‥‥
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「…‥‥今回、聖剣・人体汚染などの類を考えるのであれば、おそらくある悪魔が該当するだろう」
「その名前は?」
「大悪魔の中でも、とことん腐っているというか、あの悪食野郎が見ても確実に腹を壊すレベルで度を越えたくされ野郎、『グズゥエルゼ』‥‥‥名前も言いにくい奴だ」
グズゥエルゼ…‥‥確かに言いにくい。
「というか、悪食野郎?」
「どこぞやの国に今、居る預言者ってやつだ。あれはあれで、大昔からの知り合いでもあるが‥‥‥少なくとも、関わる事は出来るだけ少なくしたほうがいい。悪魔ではないとはいえ、面倒な類なのは間違いないからな」
「まぁ、それは分かっているかな…‥‥」
とにもかくにも、今回のあの騒動の元凶は、ゼリアスいわくほぼそのグズゥエルゼというやつで間違いないらしい。
悪魔から見ても流石にドン引きするようなレベルの事をやりまくったことがあり…‥‥
「数百年前の悪の魔王時代にも、色々やっていたらしいからな…‥‥悪魔自体、そもそもこの世界に存在するには色々条件が必要なはずだが、あいつの場合は醜悪な手段でそれすら超えていたしな‥‥‥」
はぁっと深い溜息を吐くゼリアス。
なんとなく、その溜息的にかなりの苦労があったらしいことがうかがえる。
…‥‥というか、「この世界」って言い方をしているあたり、悪魔自体がなんか違う世界にいるような‥いや、今は別に良いか。
「そういうわけで、当時のそいつは悪の魔王の元で色々とやりまくっていた。少なくとも、あの悪の魔王として伝わっている悪事の4割はそいつの所業も混じっているな」
「ろくでもないな」
「ああ、悪魔という立場としても全会一致でアウト過ぎたからな」
悪魔ですらドン引きというか、悪魔にもアウトと言われるような所業ってどれほどのことをそいつはやらかしてきたのだろうか?
「所業の例としてはそうだな‥‥‥例えば…‥‥」
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SIDE女湯側
「‥‥‥あー‥兄様、その所業例は人に聞かせたら、十中八九発狂ものなんですが」
【そんな代物、何で聞かせるのでしょうか?】
女湯側にて、男湯の方の会話を聞きながらも、ハクロたちは話していた。
【まぁ、こちらとしてはレパーク殿下を国へ戻せるから良いのだが…‥‥にしても、聞こえてきたがその悪魔、ろくでもなさそうだな】
「兄様も一度、そいつを消滅寸前まで追い込むほど激怒したことがありましたからねぇ。普段怒らないというか、悪魔らしくなさすぎる兄様が、あの時はそれこそ地獄の悪魔のように見えましたよ」
あははっと苦笑するミーナの言葉に、何があったのか気になるハクロたち。
とはいえ、聞こえてくる所業例を聞く限り、あまり聞きたくないような気もするのでそこは尋ねたいことにした。
【とにもかくにもだ…‥‥騎士王国に戻ったら、その悪魔を捕えるように手配すべきか?】
「多分無理ですよ。並みの人が相手にできるような物でもないですし、基本的に関わらないほうが良いですね。最悪の場合、逆に捕らえられて実験材料にもされかねません」
【むぅ……だったら余計にどうにかしたいところだが‥‥‥】
考え込むも、聞く限りいい案は出ない。
そもそもの話として、その悪魔グズゥエルゼ自体が色々と面倒ごとの塊でもあるので、なんとか捕まえたところで何もできないそうだ。
【というか、消滅寸前までできて、消滅させなかったのでしょうか?】
「逃げられたんですよね‥‥‥最後の一撃で、完全に消し去れるはずだったのですが、あの悪魔は逃亡技術に長けてまして、最後の最後まで逃げ道を模索して、瞬時に逃げましたからね」
【厄介すぎる相手だな‥‥‥】
「ええ、しかもそこまでやらかす相手なのに、兄様の同族たちが手を打たないのはその騒動を面白がっている者たちがいるというのもありますね」
いるだけで厄災を振りまくような奴でも、あまり関わらずに傍観だけできる立場であれば、放置しても良い。
そう考えるような悪魔も多く、現状捕まえることができてないのだ。
「そもそも実体自体も掴めませんからね‥‥‥分裂とかして、本体かと思えば分身だったり、裏の裏をかいて分身の中の分身の、そのまた中の分身に小さくなった本体がいるなど、捕えどころがないような屑でしたからね」
【迷惑過ぎますよ‥‥‥そもそも、そんな悪魔がなんでそのようなことを?】
「暇つぶし‥‥‥というのもあるようですが‥‥‥兄様的には見当がつくようですね」
【どのような?】
「別の世界にいるような、悪魔ならではの発想というような、それでいて一応目的を持たねば意味をなさなかったというべきか…‥‥おそらく、その目的としては世界そのものへの攻撃でしょう」
【【世界そのものへの攻撃?】】
その言葉に、ハクロとルルは首をかしげる。
今一つ理解しにくいというか、何か大きなことに対してのような…‥‥
「‥‥‥まぁ、説明をするのであれば、おそらく神聖国の方にある、体いっぱいな預言者さんに聞けばいいかもしれません。制限されてますが‥‥‥」
【神聖国の預言者か‥‥‥聞いたことはあるが‥‥‥いや、待て、制限?】
【あったことはありましたけど、あの人(?)に制限?】
「ええ、だって多分、その悪魔の最終目的はその預言者に制限をかけている相手を消滅させることでしょうからね」
【【‥‥‥?】】
どのような相手なのか、今一つわからないハクロたち。
とりあえず言えそうなこととしては、今回の件は、その目的とやらに巻き添えにされてしまっただけのようである。
何にしても、その悪魔に関しての情報を集めつつも、更なる厄介事が増えた気しかしないのであった…‥‥
「あ、そう言えばそろそろ兄様を止めたほうがいいかもですね。あの所業例は常人ですとけっこう発狂するのですが…‥‥あれ?そう言えばそんな発狂するような気配ありませんね?」
【言われて見れば、あまり変わらないな】
【というか、そんな話が聞こえるところに、私達がいていいのでしょうかね?】
「‥‥‥皆さま、まず常人ではありませんよネ?」
魔女、アラクネ、ケンタウロス、魔王、悪魔…‥‥今この場に居る者たちで、常人と言えるようなものがいるのだろうか?
そう思いながら、珍しくワゼがまともな(?)ツッコミを入れるのであった。
‥‥‥言われてみれば、その通りなのかもしれない。
常人の定義がどういう者なのかはさておき、少なくともちょっとやそっとじゃ動じない精神の持ち主たちであろう。多分。
何にしても、敵が見えてきたところで、次回に続く。
‥‥‥というか、そんな所業の数々があっても先代悪の魔王の4割か…‥‥その悪の魔王時代の所業が気になる処である。




