#281 たまには激突したくもなるのデス
SIDEシアン
‥‥‥地下から出て来た聖剣の情報が既に出ているらしい。
だが、それはまだ一部のところのようで、ワゼたちに調査してもらうことにした。
「まぁ、今のところ僕以外には全然効果ないのは良いけど…‥‥なーんか嫌な予感しかしないんだよなぁ」
【シアンがそう言うと、かなりの確率で当たりそうですよ】
ずずっとお茶を飲みながらつぶやくと、ハクロがそう答える。
当たってほしくないなぁと思いつつも、現状対策としてはワゼのポケットに保存するぐらいであろう。
「でも、一応危ない人とか来るかもしれないし、ヒルドたちも守れるようにしておかないとな」
今代の魔王でもあるらしいが、自分としてはさほど考える事もない。
魔王を倒しに勇者が来るとか、そういう王道展開はちょっと考えたが、今回の件は邪道展開となりそうだし、用心するに越したことはないだろう。
とすれば、万が一に備えての鍛錬として…‥‥
【‥‥‥ふむ、まさか今代の魔王に模擬戦を挑まれるとは思わなかったな】
「すいませんね、ヴァルハラさん」
ハルディアの森のフェンリル一家の巣。
その巣に、久しぶりに訪れていたヴァルハラさんに頼み、ちょっとばかり模擬戦を申し込んでみた。
神獣フェンリルの中でも呼んでもない強さを誇ると聞くし、確実にポチ以上の力はあるだろう。
そして、その肝心のポチと言えば、先ほどから大木に半身埋まって気絶していた。
【まぁ良い。久しぶりにあやつに鍛錬を施したら、ここ最近たるんでおったのか一撃でああなったからのぅ。魔王相手なのも悪くはないのかもしれぬ】
「まぁ、確かにたるんでいたと言えばたるんでいた……か?」
考えて見れば、最近ポチ自体が動くことは減ったな。馬車の牽引として働いてもらってもいたが、ここ最近ワゼが新しい移動手段を開発しているし、ポチ自身が動くことはなくなってきた。
ゆえに、ちょっとばかり緩んだ生活になったらしく‥‥‥その結果が、あの大木埋まり姿なのだろう。
【あたしの夫だけど、物凄く情けないねぇ…‥‥むしろ弱くなってないかい?】
【んー、ポチが弱いのか、ヴァルハラさんが強すぎるのか、わかりませんね…‥‥】
ロイヤルさんの言葉に、ハクロが苦笑いをしてそう答える。
ついでに、本日ヒルドたちも一緒だが、現在コチラはコチラで、子フェンリルたちとついてきたドーラと共に、遊んでいた。
【ふみゅ~♪】
「みーみーみー!!」
【ガウガウガーウ!!】
【ガウッ!!】
子供は子供同士、何か通じ合うものがあるのか仲が良さげである。
ただ、子フェンリルたちはもう間もなく巣立ちの時期だとかで、体のサイズもずいぶん大きくなってきており、なんか大型犬に娘たちが戯れているようにしか見えないなぁ‥‥‥
「まぁ、とりあええず模擬戦の相手お願いします」
【ああ、こちらとしても貴重な経験でもあるし、いつでもいいぞ】
それじゃ、互に改めて挨拶も交わしたし…‥‥やってみますか。
――――――――――――――――――――
‥‥ほのぼのと、のんびりとしていた空気。
突き刺さっているフェンリルに対してドーラたちで色々からかって遊ぶ空気もある中、その一角の空気が切り替わった。
互いに緩んだ空気から一転し、模擬戦と言えども真剣なまなざしで互いに構え始める。
ヴァルハラの真紅のような毛が逆立ち、周囲に燃え盛るような熱量が生じると同時に、シアンの周囲にも魔力の衣が顕現し、様々な属性の魔法が出現し始める。
「‥‥‥それでは両者とも、構えてくだサイ」
現在調査中とはいえ、この模擬戦の審判として一旦この場に舞い降りたワゼがそう言葉にすると、ビリビリと空気が震え始め、地震が起きているかのような錯覚もありつつ、両者ともしっかりと向き合う。
「では…‥‥開始!!」
ダァンっとワゼが合図を行うと共に、大きな音が響き、両者の地面が砕け散り‥‥‥次の瞬間、巨大な力同士で衝突しあう。
ぶつかる瞬間に、ヴァルハラは炎を纏い、シアンは氷の拳を纏い、互にぶつけ合うと同時に、衝撃波が発生しあった。
ドォォォォォォン!!
「‥‥‥まずは」
【小手調べからだ】
互にぶつけ合い、素早く技量を図ると共に、無駄な動きを少なくして距離を取る。
「『アイスランス』!!『サンダーストーム』!!」
【『業火の咆哮』!!】
シアンの氷の槍と雷の嵐が生み出されると、ヴァルハラも負けじと炎を吐き、両者の技が激突しあう。
【ぬぅん!!】
技がぶつかり合うと同時に、その瞬間に素早く背後へ回り込み、ヴァルハラの前足が振り下ろされたが‥‥‥
ガァァァン!!
「‥‥‥セーフ」
シアンの魔力の衣が動き、前足を正面から受け止める。
さらに新たな攻撃を繰り出すが、その動きを読み切ってヴァルハラは回避した。
それと同時に体を回転させ、尻尾を叩きつけ、シアンは衣で受け止めたが、重量差でふっ飛ばされる。
だが、木々へ激突することなく、その勢いを利用して魔法で細い糸のような物を生み出し、ハクロの立体起動さながらに木の枝へ捲きつけ、勢いを利用して大きく遠心力で攻撃を試み、直撃させる。
ガァァァン!!
【ぐっ!!なかなかの威力だな!!】
「そちらもだよね。こっちが吹っ飛ばされたもん」
受け身を取り、ある程度の威力軽減をしてヴァルハラがそう吠えたので、シアンは答えてあげた。
互いの攻撃に、技量を認め合いつつ、模擬戦という範疇に収まるように加減もしているが‥‥‥両者とも、ここから戦闘を楽しみ始めた。
片や、フェンリルの中でも最強の一角ともされる真紅のヴァルハラ。
片や、中立の魔王とされているシアン。
両者ともに力はあれども、そう振るう機会はない。
精々、何かしらの邪魔者が来た際にやる程度だが、その機会も多いわけではない…‥‥と思いたい。
何にしても、模擬戦という建前がある以上、互に力をできる限りかげんしつつも、振るういい機会。
「はははははははは!!なんか楽しくなってきたぁぁぁぁぁ!!」
【フハハハハハハハ!!先代の魔王と死闘したことがあったが、あの時より実力は上がったとはいえ、今代もすさまじいなぁ!!】
いつしか互に笑いながら、模擬戦という建前を忘れ始め、暴れはじめる。
互いの攻撃は一撃一撃が凄まじく大きく、周囲が次第に暴風雨のごとく、いや、それ以上の災害のように荒れていく。
【‥‥‥あー‥なんか、変なスイッチ入ったか?】
【シアンが楽しそうにしてますが‥‥‥これ、ちょっと止めたほうがいいような…‥‥】
ロイヤルもハクロも、この状況はちょっと不味そうだなと思ってつぶやくが、流石にあの二人の激闘に止めにはいる勇気はない。
魔王と神獣がぶつかり合っているその現場に誰が突撃できようか?
「‥‥‥ご主人様も、何かと暴れたい時があるのでしょうカ?」
【そうかもしれないですよね。シアンの力は大きいですし、ちょっと隠れた衝動があっても‥‥‥あ】
【‥‥‥ああ、夫が流れ弾で巻き添えに】
【ぎゃあああああああああ!!】
運が悪いというか、何と言うか。
そこらへんの大木に突き刺さっていたポチに、二人の激闘の余波が直撃し、ポチはなんとかその衝撃で木から抜けた。
だがしかし、運悪く転がった先にあったのは、シアンとヴァルハラの激突の場。
逃げようにも飛び交う魔法やら火やら拳やら爪やらで迂闊には動けないし、じっとしていても巻き添えを喰らっていく。
哀れなぼろ雑巾のようになっていくポチがありつつも、二人の激闘は収まらない。
関係ないというか、気が付かれていないというか‥‥‥‥
【‥‥‥あー、ポチ、今度は結構高くまで吹っ飛びましたね】
【星に‥ならないな。落ちてきたところで‥‥‥おお、今度は流星群で叩き潰されるうえに、地面からの杭で上空にまた飛ぶか】
【あれでよく生きているというか、何でしょうかねあの生命力?】
【夫ながらも、あの打たれ強さというか、しぶとさには感心するわ…‥‥】
【ふみゅ~!ふ、みゅ、う~!!】
「みー!みー!!」
【ガウガウガーウ!!】
【ガウッガ―――――!!】
一方で、いつの間にか観戦に入っていた子供たちには、その激闘の様子は好評なのであった‥‥‥
面倒事対策の模擬戦のつもりが、なんか互に熱くなっていた。
ポチが飛び交い、吹き飛び合い、焼かれあい、はじけ飛び合い…‥‥されども犠牲はそれだけで済むあたり、まだ加減しているのだろうか?
何にしても、次回からちょっと動き始める……かも。次回に続く!!
‥‥‥ポチの平穏な時。終了。ギャグ要員として戻って来てくれたか。
にしても、この争いを生き延びれている当たり、生命力だけならすさまじいな。黒いGとか、某妖怪よりも生き延びているような気がするのだが、気のせいか?




