#275 舞台を整えていくのデス
SIDEゲイリーとラダン
‥‥‥深夜、誰もが寝静まる闇夜の中、ゲイリーとラダンの二人は動いていた。
明後日、いや、もう日付が変わっているので、言い直すのであれば明日には、彼らはここを出て行かなければならない。
それも、彼ら自身にも覚えがない理由での、男爵に臣籍降下した上でだ。
これまでにやらかしたことが全て表に出たとしたら、極刑でもおかしくない。
ゆえに、これはまだ甘い方であり、男爵でありながらもまだ貴族であるという事は、異例の寛大な処置とも言えるかもしれないが…‥‥そんなことを、彼らは受け入れることができなかった。
「畜生‥‥‥今晩中に、どうしても決めたかったが、誰も集まらないとはな」
「ああ、まったくだ。こういう時に限ってなんでこうもないんだ!!」
自ら動かずに、誰かに頼み込んで襲撃し、夜中のうちに亡き者にして、そのどさくさで色々とうやむやにしようと彼らは図っていたのだが、どういう訳か、この時間になっても彼等に集まる者たちはいなかった。
雇おうとしても、その手の者たちとは連絡が付かず、一切手を借りられない。
ならば、できるだけ証拠などを隠しておきたかったが、こうなっては仕方ないということで、二人で協力して、寝首を掻くことにしたのである。
(まぁ、万が一にでも捕まったら、こいつに脅されてしまったとか、色々言い訳が聞くだろう)
(それでほとぼりが冷めて、戻ってこれさえすれば‥‥‥あとは一人勝ちなはずだ)
一見、協力しつつも、その万が一の時には互に罪をなすり合う気満々であった。
「‥‥っと、部屋の灯りは消えているな?」
「漏れ出てもないし、確実に寝ているだろう」
これでもこの国の王子でもあり、城内の大体の見取り図は把握しているゲイリーとラダン。
物凄く楽に警備をかいくぐり、遂にトパーズが眠っている新国王専用の部屋の前にまで、彼らはたどり着いた。
「鍵は…‥よし、かかってないな」
「油断しているな‥‥‥国王となった今、我々が襲撃することを予想してないのか?」
「まあ、そうだろうな。覚えがないが、その座を決める際に大人しく従っていた我々に対して、警戒するに値しないとか思っていたんだろう」
自分達の都合のいいように解釈しつつ、扉をそっと開け、部屋の中へ侵入する。
中へ入れば大きなベッドが置かれており、ふくらみがあった。
本来であればそのベッドは、王妃もしくは側室などと一夜を主にする使用目的もあるが…‥‥婚約者がまだこの場にいないせいか、そのふくらみは一人分。
「ふふふ‥‥顔も出さずに、深く潜り込んで寝ているようだな」
「都合がいい。姿を見られる前に、一突きで済ませられるからな」
用意してきた剣を各々で構え、そっとベッドへ近づき、乗り込む。
そして、ふくらみに照準を合わせ、剣を構える。
「じゃあな、愚弟よ。良い夢から覚めることなく、永遠に寝ろ」
「その座は、こちらでゆっくりと得させてもらうおうか」
ゲスい笑みを浮かべ、つぶやいた後に…‥‥彼らはそのふくらみへめがけて剣を突き刺した。
じゅぶっしゅっと手ごたえがあり、数秒もしないうちに赤く染まり始める。
「‥‥‥手ごたえあり。寝ている位置が把握しづらいが、多分心臓だな」
「こちらはちょっと硬めだったが‥‥‥ああ、頭かな?」
ずぶっつっと引き抜けば、確かに血の匂いが剣から漂い、肉を刺したのを感じさせる。
せっかくなので、その死に顔を見てみようかと彼らは思い、布団をめくり…‥‥そして、刺したものがなんだったのか、その答えを見た。
「さぁさぁ、愚弟はどのような死にざ‥‥‥は!?」
「ん?どうし‥‥‥ゔべぇっ!?」
その刺した者をみて、驚愕の声を上げるゲイリーとラダン。
無理もないだろう。なぜならば、その刺したものの正体は‥‥‥
「「な、な、な!?なんで我々の体が!?」」
そこにあったのは、ベッドの下の部分をへこまされ、重ねて丁度一人分のふくらみに見せるように細工されていた‥‥‥ゲイリーとラダン、彼ら自身の体であった。
「馬鹿な!?なんで目の前に自分の体が!?」
「確かに我々は生きているのに、どうしてこの体が!?」
驚愕しつつ、自分たちの体が偽物ではないと確かめるために互いに頬をつねり合い、殴って痛みを確かめる。
すると確かに痛覚などの感覚はあり、偽物ではないというのは良く分かった。
では、目の前の自分たちの体は何なのか…‥‥その正体が分からない。
「つ、作りものだよな!?」
「いや、巧妙すぎる点で怪しいが…‥我々を驚かせるために置かれた偽物だよな!?」
ひとまずは互に各々の体と思われるものを試しに触って見たが…‥‥感触的に、しっかりと肉のある人間で、自分たちの体と大差ないことを彼らは知った。
「ど、どういうわけだ!?一体何なんだこの状況は!?」
「そもそも愚弟はどこへ行った!?ここにいないぞ!?」
「‥‥‥ええ、当り前デス。もう、知ってましたからネ」
「「!?」」
混乱の極みに立たされる中、ふとかけられた声に彼らは気が付き、その声の方向へ目を向けた。
そこには窓があり、闇夜の中照らされた月が明りを放ち、月光が差しこんで、その場にいる者を照らす。
そこにいたのは、一人のメイド。
ただ、その手には特大の注射のような物が2本構えられ、その針の先は二人へ向けられていた。
「な、何者だお前は!!」
「そして何だその凶悪そうな武器は!!」
「その事を、あなた方が知る必要はありまセン。ですので、次の劇場へ、どうぞ」
そう言うが早いが、巨大な注射器が投擲される。
2本とも強烈な速度で飛翔し…‥‥盛大に、ゲイリーとラダンの股間に直撃した。
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
強烈な一撃に、断末魔のような絶叫を上げる二人。
そして、数秒後、注射器内の液体が完全に注入されたところで、倒れ込み、しばし痙攣した後ピクリとも動かなかくなった。
「‥‥安心してくだサイ。毒ではなく、ただの眠り薬デス。まぁ、そこに当てる気は無かったのですが‥ゼロツーのうっかりドジが移ったのでしょうカ?」
注射器をずぼっと抜き取りながら、そのメイドはそう口にする。
「何にしても、これで運びやすくなりましたネ」
適当に懐からぶっといロープを取り出し、二人を縛り上げ、引きずり始める。
そのまま壁の方へ向かい、そこに触れると、その部分が扉のようにパカリと開いた。
「では、次の劇場へどうゾ。あと3~4回は楽しんでくだサイ」
そうつぶやき、彼らをその先へ放り込むのであった‥‥‥
あるはずがないのに、何故かあった身体。
突き刺さる激痛で意識を失いながらも、二人は理解できないままでいた。
何かがおかしく、それでいて現実のようにも感じるような、謎が深まるばかり‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥多分、この辺りで読者の方々は察しがついていると思う。彼らに何が起きていて、どうなっているのか‥‥‥いつもとはちょっと違うところもあるけどね。今回は「見せしめ」的なところもあるからね。




