#266 たまにはこういうのもありデス
SIDEシアン
「ぐっすりと寝て一夜経ったけど…‥‥もうすぐか」
「ハイ」
ヒルドを婚約者にと突撃してきた、正々堂々なカルパッチョ商国の第3王子トパーズ。
彼がワゼお手製の箱に入って一夜が明ける。
あの箱の内部では、ヒルドを嫁に出す相手としてふさわしいかどうかを決める様々なテストが行われており、出てきた時でも彼女の事を想えるのであれば、婚約ぐらいならば許すつもりだ。
まぁ、まず突破できるかどうかだが…‥
「あ、もう出てこられるようデス」
ワゼがそうつぶやくと、箱の側面がパカッと開き、ずるぅっと何かがはい出てくる。
「ぐ‥‥‥うぐぅ‥‥‥」
「坊ちゃま、ご無事でしょうか?」
その何かは、トパーズ。血みどろ状態というべきか、中で何があったと言いたくなるような状態の彼に対して、昨晩箱を見守り続けていたセバスジャンが駆け寄った。
「じ、爺やか…‥‥ふふふふ、箱のテスト…‥‥何とか、乗り切ってやった‥‥‥ぞ」
疲労しながらも、辛うじて声を出し、答えるトパーズ。
内部で受けたテストの結果、恐ろしく体力を消耗したようだが…‥‥それでも、精神は打ち勝ったらしい。
「ははは‥‥‥この程度のテストで、我が恋が終わって‥‥‥たまるか!!」
叫び、力を籠め立ち上がるトパーズ。
満身創痍ながらも、こちらに体を向け、その意志の強い顔を見せる。
「‥‥‥へぇ、テストに打ち勝つとは…‥‥では、本当に心変わりも何もないんだな?」
「ああ‥‥‥そうだ。‥‥‥いや、一つあるな」
「ん?」
心変わりが無いかと思ったが…‥‥何かあるのか?」
「悪い事ではない…貴方の娘を婚約者に…‥‥してもらう事は、絶対に決めたこと。どのような刺客が来ようとも‥‥‥絶対に裏切ることはない!」
ぜぇ、ぜぇっと息を切らしながらも、そう言い切るトパーズ。
区切ったところですぅっと息を吸い込み、続けて言葉を発する。
「そう、愛は不滅、恋は爆炎のごとく燃え盛り、成就するその時、いや、その時すらも超えて永遠の豪華となるのだ!!」
「…‥‥なんか色々とおかしくなっているが、頭大丈夫か?」
「大丈夫だ!!ただ、そのためにはいくつもの障害もあるという事を、あの中で経験し、実感した!」
びしっと箱を指さし、トパーズはそう叫ぶ。
「ならばこそ、わたしは今ここに宣言しよう!!嫁を迎えるためにも、国をさらに心地いいものにしてあげ、邪悪なる権力を求める者どもを排し、国をまとめよう!!そう、ここにわたしは、王位継承権争いに正々堂々と宣言をいれ、打ち勝ち、新たな王となるまでに確実にやりとげてみせるのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!…‥‥がふっ!」
「坊ちゃまぁぁぁぁぁ!?」
言い切ったかと思いきや、最後の方で吐血して倒れるトパーズ。
…‥‥どうやら相当無理をしていたようだが‥‥‥それでも、意志を曲げることはしなかったのか。
「ワゼ、手当てをしてやれ。ある意味この男、娘を託すのにふさわしいというか、色々と心配になるからな…‥‥」
「了解デス」
ここまでやりきってみせると宣言し、倒れた王子。
だが、その姿勢には敬意を表しよう。その信念はまさに鋼のごとく硬く、折れるどころか真っ直ぐに成長したようだ。
人として一皮むけたというか、恋は猪突猛進ゆえに爆走し始めたというべきか‥‥‥‥うん、多分大丈夫だと思いたい。何かこう、違う所へスイッチを入れた気がしなくもないが、気にしないでおきたい。
ある程度の治療を終え、セバスジャンによって彼は運ばれていった。
正式な婚約‥‥‥あの様子だと裏切る様子などもないが、念には念を入れて将来的にヒルドの心にゆだねるものにしつつ、その契約を交わす。
「一度言ったことだし、約束は守らないとね。‥‥でも、やっぱりまだ生まれたての娘に対しての、婚約者ってのは抵抗あるなぁ」
【わかりますよ。でも、あの様子なら多分大丈夫だとは思います。‥‥‥ヒルド、あの人が嫌になったら、いつでも言って良いんですよ】
【ふみゅぅ?】
ハクロの言葉に首をかしげるヒルド。
まだまだ良く分かっていないようだが、これからきちんと学ばせていけばいいか。
何にしても、現状暫定的に娘の嫁ぎ先が一人、決まったようであった…‥‥
【ところで、箱の中のテストって何があったんですか?】
「ん?一応、それ相応の試練。といっても、こういうのがあればいいなぁ程度の構想で、ワゼに任せただけなんだよね」
「ええ、ですがその受注通りに仕上げまシタ。そして、あの者はそれを乗り越えましたからね‥‥‥自信作でもあっただけに複雑ですが、あの意志の強さはめったに見ない、面白いものでシタ」
「中身が気になりますわね‥‥‥ちょっと入ってみてもいいですの?」
「やめておいたほうがいいでしょウ。覚悟がなければ発狂ものデス」
「さらっと恐ろしい言葉が出たなぁ…‥‥」
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SIDEトパーズ
「ふふふ‥‥‥ついに、婚約者を手に入れることになったか」
「ええ、坊ちゃまは良く頑張りました」
改めて、彼らが泊まる宿屋にて、トパーズたちはそう話し合っていた。
「しかし坊ちゃま、あの箱とやらの中ではどのようなテストがあったのでしょうか?」
「それは、口に出すのもおぞましいというか、確かに物凄いテストであった‥‥‥だが、語彙が足りないゆえに、言い尽くせない」
セバスジャンの問いかけに対して、体を震わせながらもトパーズはそう答える。
「この世の地獄というか‥‥けれども、あの程度ならば耐えられる。恋に生きるのであれば、それを拠り所にしつつ、折れぬ信念で立ち向かえばどうとでもなるものだからな!!」
「おお、何やら熱く燃えたぎりましたな」
「ああ、あのテストのおかげで、むしろ心に火が付き、何もかも今ならば成しとげられよう。だが、婚約だけで済ませてはいけない。何しろ、商国自体にも様々な問題があるだろうし、大金視床となるのは間違いない。ならば‥‥‥兄たちを退け、王となろう!!そして自ら動き、すべてを制し、ようやくそこで愛をささやけるのだぁぁぁぁぁ!!」
熱く語るトパーズ。
その燃え様は、以前の彼のものとは全く違うとセバスジャンは思った。
第3王子という立場上、権力争いにもそう興味はなく、兄たちの愚かさを笑い、それを楽しみつつも何処かつまらなそうにしていた彼が、今まさに、恋の炎で燃え上がっているのだ。
「ただ、ここで問題になるのが有象無象の甘い汁目当ての輩共だ。兄たちはどうでもいいが、奴らを担ぎ上げる者たちが一番の邪魔…‥‥ならば、まずはそこから排していかねばな」
「ええ、そうでございましょう」
そう答えつつも、ふとセバスジャンは思った。
…‥‥ここで燃えなくても、この王子ならば権力争いを独り勝ちしそうだと。
いやまぁ、確かに第1,2皇子はどうしようもないし、甘いするを吸う目的の者どもも流石にそこまで愚かではないだろうし、一緒にいたら破滅の道連れになりそうならば、直ぐに手を切るだろうし‥‥‥
(‥‥‥あれ?もしかして、もうすでに坊ちゃまの勝利確定?)
そう思いつつも、トパーズの支援を行う事をセバスジャンは心に決め、そのために動き出すのであった。
「っと、その前にあと数日は滞在しないとな。さすがに王位継承権選挙の行方は気になるからな」
「それでしたら坊ちゃま、ついでに仕入れた情報で一つお知らせが」
「というと?」
「現状、誰が有利なのか全くわからないそうです。課題とやらがあるようですが、それを成し遂げようとして逆に余計にやらかしているのだとか‥‥‥」
「‥‥‥どこの国の王族も、大変だなぁ」
思わず、トパーズは心の底から、物凄く同情をするのであった‥‥‥
試練を乗り越え、ヒルドの嫁ぎ先となったトパーズ王子。
何やら色々と火をつけてしまったようだが、悪い方向へ行かなければ多分問題はないだろう。
だがしかし、そういう中で愚者は‥‥‥‥
次回に続く!!




