#265 うん、たまにはねデス
SIDEシアン
‥‥‥今代の魔王とか、そう言われている僕自身にとって、魔王という自覚は薄い。
いやまぁ、魔力とか膨大だとか、そう言う部分は別に置いておくとして、中立という立場上、特に何もやる事は無いのだ。
そう、あくまでも「中立」であり…‥‥家族とかに何かを起こされなければの話だが。
シュウウウウ‥‥‥‥
「‥‥‥うん、とりあえず要件については、これで全部だとは思うよ」
若干吐く息が白くなったので、室内の温度を温めるためにワゼに温度管理を頼みつつ、今聞いた事柄を再確認する。
「その商国の第3王子様とやらが、わざわざ警戒するべきことを教えてくれたことは、結構有用な情報でもあるし、権力とかそういうものなども使わず、その執事らしい人を通してからだけど、それでも真正面から来たのは敬意を表するだろう」
室温が上がり始め、吐いていた息もすぐに普通に見えなくなり、常温へと変わっていく。
「でもね」
そこで言葉を区切ると、再び室内の気温が下がり始める。
「‥‥‥まだ生まれて一年も経たない娘に対しての、その求婚はどうしたものかなぁっと、ちょっと考えさせられるな」
「ううっ…‥‥」
僕の言葉に対して、目の前の相手‥‥‥カルパッチョ商国の第3王子というトパーズは、寒さに身を震わせながらも、必死になってこちらを見ていた。
「ご主人様、少々落ち着いてくだサイ。室温がこうも上下すると調整が難しいデス」
「ああ、ごめんごめん。僕としては娘に関しての事だったから‥‥‥つい、ね」
無意識的に攻撃的な形状に変化して顕現していた魔力の衣を引っ込め、火の魔法で周囲に張り付いた氷を溶かし、乾燥させていく。
…‥‥こうなったのは、数分前の事。
宿屋に訪れてきたのは、どうもある国の王子のおつきだと名乗る人物であり、その人物から僕らに話したいことがあるらしい。
セバスジャンとか言う、なんか惜しいような気がする執事ではあったが、その話し方とかは真摯なところがあり、僕等もその王子とやらに面会する気にはなった。
で、その内容というのはその王子の国の国王や駄王子というべき様な存在への警戒の呼びかけとかで、万が一に備えての対策は取りやすくなったが…‥‥
【‥‥‥まだ幼いヒルドに、求婚ですか?いささか早すぎますね】
「むー、お姉ちゃんにとっても大事な妹の相手にするには、まだ早すぎるにょ!」
「あのー、わたくし国同士の親交とかでお会いしたことがありましたが‥‥‥貴方、幼女趣味ありましたかしら?」
王子がついでに出してきたのは、僕等の娘の一人、ヒルドに対しての求婚。
いや、流石にまだ年齢が幼すぎるために婚約という形にしたいそうだが‥‥‥‥生まれてまだそう経ってもないわけだし、早すぎる。
大事な娘でもあるし、そう簡単にやれるわけでもない。
「正直言って、父上や兄たちの話は別で、わたしとしては本気で彼女に婚約を申し込みたいのです!!街中での見たあの姿に、一目惚れというのを味わされたのですか!!」
寒気で震えながらも、真剣にそう言い切るトパーズ。
その横では、面会を申し込んできた王子の執事らしいセバスジャンも、真面目な表情でこちらを向いている。
「一目惚れねぇ…‥‥それじゃあ聞くけどさ、それが本当に変わらないって保証はあるのか?」
「あります!!不確定だとか、将来的に変わるかもしれないと言う言葉もなく、本気でそう思っているのです!!」
‥‥‥‥正直言って、この王子に目とかに嘘や偽りはない。
だが、ヒルドは今はまだ幼いし、将来的に彼女自身に決めてもらうことになるだろう。
それに、この王子がいかに言葉で言えても、心からそうなのかは確実ではない。
「そこにおられます第2王女様の相手が貴方で、そこから導き出せるのは今代の魔王!けれども、彼女が魔王の娘であろうがなかろうが、それでも恋をしたのです!!身を焼こうが凍てつかせようが、好きにしようとも引き下がる気はありません!!」
ミスティアがいることで、僕が今代の魔王ということも推測しているようだし‥‥‥仮にここで否定しても、引き下がる様子は無さそうだ。
王位選挙の面倒さもあったのに、ここにきて娘への求婚か‥‥‥‥何でのんびりとさせてくれないことが立て続けに起きるのだろうか。
とにもかくにも、この様子だと本気で引き下がる気はないだろう。
でも、流石に…‥‥
「まだ娘は幼いし、大人になるまで時間はかかるだろう。その年月の間にどうしようもない事が起きたら、本気でどうする気だ?害するようなことがあれば…‥‥自ら出向き、本気で滅ぼしても良いんだぞ」
魔力の衣が出てきて、自然と威圧を出してしまう。
感情の高ぶり故か周囲に勝手に魔法を展開しそうになり、抑えるのに少し苦労する。
「うっ‥‥‥で、でも、それでもこの身が持つ限り、出来る限り、いや‥‥‥できる以上、限界突破してでも守ってみせましょう!!」
少しひるんだかと思ったが、それでもすぐに立ち直り、引き下がらないトパーズ。
…‥‥うん、口だけならそう言えるとは思うし…‥‥でも、本気なのは間違いないかもしれない。
ならば…‥‥確かめるか。
「‥‥‥そこまで本気ならば、テストしようか?」
「テスト‥‥‥ですか?」
「ああ、その意気込みは良いだろう。だが、本当に変わらないのか、こちらとしても分からない。ならば、そのテストを受けてもらい‥‥‥合格すれば、娘との婚約を許そう」
「!‥‥‥ですが、不合格であれば」
「当然、許す気もないし、一度きり。それに、将来的に成長して娘の方から心変わりをした場合も、その婚約が途切れても良いのであれば‥‥‥どうする?」
「…‥‥いえ、悩む意味もありません。その時はその時、心が手に入れらえないのであれば諦める引き際も見極めるしかないでしょう。ならばこそ、この機会にそのテストを受け、この身を亡ぼすような事があれども、絶対に合格してみせましょう!!」
ふんすっと鼻息が荒くも、覚悟を決めたらしい様子。
ならば、テストを行えば良い。
「‥‥‥ワゼ、箱用意」
「了解デス」
…‥‥うん、実はこういう輩なども、僕はちょっと想定していたことがある。
まぁ、流石にまだ早いからないだろうし、もう少し成長してからと思っていたが…‥‥それでも、ちょうどいい機会なのかもしれない。
箱…‥‥ワゼの用意するそれは、人を中に入れ、その中の空間を過ごさせる道具。
ホラーだったり、グロ系だったり…‥‥尋問等にも使えるが、滅多に使う事はない。
そして今回は、その箱を使用して、テストを行うのだ。
この目の前の王子様とやらの心…‥‥本当に持つかどうか、入ってもらい、そこで試してもらおう。
そうこうしているうちに、ワゼが準備を整えるのであった…‥‥
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SIDEカルパッチョ商国のとある王子たち
…‥‥シアンたちに警戒するように伝えつつ、試練を受けている第3王子がいる一方で、別の第1,2王子たちは、彼らが感じていた嫌な予感通り、実はすでにボラーン王国内へと入国していた。
各自既に国王によって国にいるようにとされたとはいえ、互に相手を出し抜きたいがゆえに、同時に脱走。
別地点を経由して互に同国内にいるとは知らぬとは言え、それでも目的は同じだった。
それは、ボラーン王国で新しい国王が誕生するのであれば、その王となんとか面会したりして知り合いぐらいにはなっておき、自身の王位継承権を優位にするために何かしらの功績を残そうとすること。
とはいえ、すでにカルパッチョの国王が出向いているので、こうして出向いても意味はないのだが…‥‥そこにすら頭が回らないのは、愚者というべきであろうか。
いやまぁ、王位継承権争い自体、彼らの身の回りの人達が甘い汁を吸おうとして協力しているので、その分何もしなかったがゆえに出来てしまった愚者というべきか。
それでも彼らは密かに首都内の宿を取り、その時まで潜伏を試みる。
そして、新しい国王ができれば、その時に顔を出すのだが…‥‥‥その場こそ、彼らの破滅の場となろうことは、誰が想像できただろうか。
少なくとも、ろくでもない輩の侵入に関しては、裏社会からすでに伝わっていたりするのは言うまでもない…‥‥
箱送り‥‥‥その試練を突破できるのか、この第3王子は。
いや、できなければ…‥‥身を亡ぼすだけか。
何にしても、その時はその時になるだけであろう。
次回に続く!!
‥‥‥親ばかになってきてないか?いや、これが普通なのか?
何にしても、第3王子の命運やいかに。
ついでに章タイトル回収できそうかもなぁ。




