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#22 今さらな事デス

設計段階で気が付いていそうなことでも、案外抜けていることもある

SIDEシアン


……盗賊たちに髪の未来はなくなったが、彼らから都市の情報を聞き、引き渡しのために馬車の荷馬車に押し込んで向かった。



「と、その前に。流石に神獣を連れて入るのはどうなのだろうか?」


 今さらかもしれないけれども、神獣と呼ばれるような物を馬車に使用している時点で、色々と面倒事がありそうな気がする。


 移動中であるのならば、高速で移動可能なので目で捕捉するのは難しそうなのだが…‥‥



「大丈夫デス。こんなこともあろうかと、偽装機能を仕込んでありマス」

「おお!!流石ワゼ!

【でも、その偽装機能ってどんなものなのですか?】

「要は、フェンリルということバレなければいいので……」


 とりあえず、説明のために僕らは一旦その場荷馬車を止めて、ワゼが何やら馬車の中でごそごそと動かす。


「あとはこれを押してみてください」

「このボタンか」


 前にあった自爆スイッチとは違うボタンを出されたので、僕はそれをぽちっと押した。



ぷしゅううううううううう!!


 と、ボタンを押すと同時に、何やら馬車から霧状の物が噴き出してきた。


【あれ?これってもしかして…‥‥】


 その霧状のものを見て、ポツリとハクロがつぶやいた。


【…‥‥あの、気のせいで無ければなのですが、あれってもしかして私の毒じゃないですかね?】

「ハイ。幻覚作用100%に改善したものデス」

「ちょっと待て、今なんと?」


 今、明かに物凄い物騒な単語が聞こえたんだけど気のせいかな?


「あ、先に言っておきますが、ご主人様が考える様な、ヤバめの薬ではありまセン。精々その幻覚作用は補助に過ぎず、今回利用したのはその毒液を噴霧上にしたことによる、屈折率の変化なのデス」

「屈折率の変化?」


 そうこうしているうちに、馬車が毒霧に覆われていき…‥‥次の瞬間、僕らは目を疑った。



「【え!?】」


 そこにあったのは、あのフェンリル(夫)が牽引している馬車の姿ではなく、ただの馬が牽引している馬車の姿であったのだ。



「【えええええええ―――――――――――!?】」


 あまりの衝撃に、僕とハクロはそろって驚愕の声を上げたのであった。






 ワゼから説明をしてもらうと、どうやら彼女の持つデータの中に、光の屈折を利用しただまし絵のような物があったらしい。


 今回のように、何か見られたら不味そうなものを隠すのに使えそうだと考え、その為馬車にそのデータを利用して作成したこの噴霧を噴出する装置を取り付けたそうだ。


「仕掛けとしては、光の作用によって人の目に映る画像が変わるそうなので、噴霧上にして屈折率を変えた水滴によって、対象の姿がゆがめられ、ただの馬車になるような・・・・・」

「いや、ごめん。理屈は分かったけれども、ちょっと無茶苦茶過ぎて理解が追い付かない」

【私なんて、もうわからなすぎて頭が追い付きませんよ…‥‥】


 光の屈折によっていろいろな現象が起きるのは分かるのだが、何をどうしたらこんなことになるのかが分からない。


 そしてハクロに至っては、理解できていないので頭を抱えていた。


「それでは単純明快に言わせてもらいマス。『霧噴射、水滴に光、虹できる原理応用、そして都合のいい映像へ』。これでどうデスカ?」

「あ、うん。なんとか」

【バッサリ片言ずつで説明されましたけど、それでなんとか……】


 少々納得がいかないが、まぁワゼクォリティーだからということで良いか。


 うん、この言葉一つで片付くのであれば、多少の理不尽も許そう。



「って、ちょっと待てよ?フェンリル(夫)に影響は?」

「何を言うのでしょうかご主人様。私がその可能性を考えていないとデモ?」

「流石に考えて…‥‥」

「そもそも神獣に低レベルになったこの毒が効かないと思って、全く対策はしていまセン!」

「…‥‥いなかったよ畜生!!」


 

・・・・・まぁ、実際に全然影響がなかったようで、良かったけれどね。


 どうやらフェンリル(夫)の扱いは雑で良いと、フェンリル(妻)から許可をもらっているらしいのでどうでもよかったらしい。


 良いのかこのメイドで。やっぱりどこかで頭のねじ抜けていないか?




 何にせよ、これで堂々とごまかして都市内に入る事が出来た。


 ワゼによれば、この毒霧が幻覚作用を及ぼし、細かな部分の修正も効かせるらしい。


 悪影響が無いかと問えば、それだけは無いようにしているそうだ。


 まぁ、元々僕らが馬車に乗り込む前提で作ってあるからこそ、命を奪うようなものを搭載するわけにはいかなかったのだろう。


「ただし、内包している毒液は3時間分ですのでさっさと用を済ませることを推奨しマス」

「なるほど…‥‥」



 とりあえず、まずは盗賊たちの引き渡しから行うのであった…‥‥



――――――――――――――――――

SIDEハルディアの森



【……なるほどねぇ。あの豚男はそちらとは関係なく、そもそも別の国から独断専行で来た史上最悪の馬鹿と言うことだったのか】

「はい、その通りです」

「嘘偽りもなく、こちらに証拠としてあの馬鹿たちの詳細な情報を記した報告書もございますが・・・・・」

【ああ、それは別にいらないね。その目を見れば、嘘をついているかいないかわかるからな】



 シアンたちが都市に到着している頃、ハルディアの森で、フェンリル(妻)はある相手の対応をしていた。


 2人組の人間であり、片方は以前見ただけで気絶され、部下が対応していた騎士団長。


 そしてもう片方は、その騎士団長と同列らしい魔導士長と名乗る者である。



 あの豚男とは異なり、彼らは最初から畏怖を持って、ある話を聞いてもらうためにこの森では獲れない獲物を手土産にしてやってきたのである。


 その対応の仕方と、目などから感情を読み取って、害意がないことをフェンリル(妻)は確認し、彼らの話を聞くことにした。



 いわく、あの豚男と彼らには関係がなく、どうやらこの森はある国とはまた別の国からやってきたうえに、独断専行でやって来たらしいということ。


 ゆえに、あの豚男の無礼で怒り狂われるのを防ぐために、関係ない立場とはいえ、やはりこの国そのものを守りたいがゆえに、こうやって代わりに謝罪をしに来たらしいということ。



 等々、懇切丁寧にかつ、きちんと相手が神獣であるということを認識して、敬う態度からフェンリル(妻)は彼何好感が持て、怒り狂う気はないことを伝えた。


【だが、できればあの豚男から謝罪が欲しいところであった】

「それは叶いませんでした。というのも・・・・」


 フェンリル(妻)の言葉に対して、彼らはあの豚男についてどうなったのか、見聞きしたことを伝えた。


【…‥‥要はあの取りまきたちは、あの豚男の監視役兼、何かの役割についていたという事か】

「はい」

「その上、どうも処分が確定などと聞いてますので、おそらくはもう二度と顔を合わせる機会がないものかと思われます」

【まぁ、良い。よくよく考えれば、あのような不快な者に謝罪をされても、心に伝わらない可能性があった。それが顔を見ずに済み、そして貴方達の誠意が伝わったので、この件は不問にしておく】

「「どうも、ありがとうございます」」


 フェンリル(妻)の言葉に、騎士団長と魔導士長はその寛大な対応に、改めてお礼を述べるのであった。



「…‥‥そのついでに伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

【ふむ、なんだ?他国の馬鹿共の謝罪をする誠意を見せてくれたお礼に、答えられる範囲であれば、答えよう】

「ありがとうございます。では、一つお尋ねしたいのですが・・・・先日も、我が騎士団の方で調査をいたしたことがありますが、あの馬鹿が言っていた言葉で気になる事があります」

【ほぅ……ああ、あの『魔王』の言葉か】


 思い出すのは、あの豚男がほざいていたあの言葉である。


―――――――――――

『我が国を支える預言者様が、予言したのだぞ!!その内容として、どうやらこの森に魔王となるような物が顕現したと言う。善なのか悪なのかは不明だが、魔王というならば当然悪に決まっているはずだ!!』

―――――――――――


「先日の調査の際には、あの山を吹き飛ばした者がいないかどうかを尋ね、いないという返答をいただきましたが…‥‥それは真実だったのでしょうか?もしかすると、神獣様の方ではすでに何かを知っているのではないでしょうか?」


 騎士団長のその言葉に、フェンリル(妻)は考えこむようなそぶりを見せ、そして口を開いた。


【…‥‥先日の件については、あれは特に嘘を言う必要もなかった。だが、あの件に関して言えば、あくまでも「山を吹き飛ばした」という犯人の目星がついているかいないかという事であり、「それだけの力を持つ」可能性を持つ者について、言及したわけではない】


 その言葉に、騎士団長と魔導士長は理解した。


 先日の調査では、確かにそう言及されたわけではない。


 彼らが捜していたのは、「山を吹き飛ばした者」であり、「魔王」について尋ねたわけではなく、ある意味間違ってもいない回答だったからだ。


【そして、「魔王」と言う存在についてだが…‥‥その事を話す前に、少し貴方達に問いかけよう。あの豚男は「善なのか悪なのかは不明だが、魔王というならば当然悪」と言っていたが、本当にそうだと思っているのか?】


 そのフェンリル(妻)の問いかけに対して、騎士団長たちは考える。


 そして、返答をした。


「…‥‥その力が悪しきことに使われるのならば悪であろう」

「だがしかし、その善悪がまずついていなかったりする可能性もあるし、もしくはその力の使い道を分かっていないだけであったりするのであれば、完全に悪とは言い切れない」

【…‥‥なるほど。その返答から、我が答えるのに値すると判断する】


 騎士団長たちの言葉に対して、フェンリル(妻)は答えることにした。


【では、我から言わせてもらおう。この森に「魔王」らしきものが顕現したか否かであれば……顕現したと答えるべきだろう】

「「!」」

【ただ、我の考えとしては、その魔王らしきものがどの様な者なのかと問われるのであれば…‥‥良く分からないということぐらいだ】

「それは……どういうことなのでしょうか?」

【我もまだ、神獣の中では若い方であり、向かい存在した魔王たちについてはよく知らないことも多い。だが、一つ言えるのであれば、魔王も一つの「王」であり、その王には従う者が存在するという事だ。そして、その従う者の力量が高いほど、その魔王の器も大きい。…‥‥これ以上、特に言えることはない。迂闊に踏み込めば、帰れぬことになるかもしれぬし、我だってまだ命は惜しい】

「神獣様が、そこまで言うとは…‥‥その魔王は、恐ろしい存在なのでしょうか?」

【…‥‥そもそも、魔王と確定したわけではない。だが、恐ろしい存在なのかと言えば、おそらく異なる。……真に恐ろしいのはその配下だしな】


 フェンリル(妻)の言葉に、騎士団長たちは緊張からごくりと唾を飲み込んだ。


【では、そろそろ巣へ帰ることにしよう。そちらからの謝罪は頂いたし、これ以上話せそうなこともない。ただ、一つだけ忠告しておこう。…‥‥おそらく、その魔王かもしれない存在か、その配下に遭う可能性はあるとだけは言っておく。もし、遭遇した場合、絶対に敵に回ってはいけない…‥‥その事を、忘れるな】


 そう真剣な声を出されたあと、フェンリル(妻)は森の中へ姿を消していった。




「……魔王かもしれない存在が、既にいるのか」

「と言うか、配下の方が怖ろしいとはどうなんだろうね」


 騎士団長と魔導士長は顔を合わせつつ、フェンリル(妻)の忠告を心に刻んだ。


 とりあえずは、かなり重大そうな情報が手に入ったので、そろって王城へ帰還し…‥‥


「よし、先に帰還して報告し、貴様がいかに無能だったか伝えてやろう!!」

「あ、この野郎!!そうはさせるかぁぁぁぁぁぁ!!」


……互いに競って、いかにして相手がダメだったのか伝える気満々で、王城へ帰還するのであった。

都市内に入ったシアンたち。

とりあえず、せっかく魔法ギルドがあるらしいので、魔法屋の登録を試みる。

だが、こういう所こそテンプレが存在するのであった。

次回に続く!!


・・・・・シリアス部分はもう、フェンリル(妻)に丸投げで良いんじゃないかな?

というか夫よりも神獣らしい威厳があるなぁ。

……いや本当に、どうしてこうなった。ますます夫の尊厳が失われているぞ。どこかで挽回させたいのだが、どうしたら良いのだろうか…‥‥完全なネタ要員にしたほうがいいのかな?

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