#223 ちょっとしたある仕掛けが欲しいと思ったデス
SIDEシアン
「‥‥‥ふわぁ、ちょっと寝不足かな」
やや眠気があっても、いつもの起床時間通りに起きてしまった僕はそうつぶやきながら欠伸をした。
ハクロの捕食本能の抑え方らしい方法をワゼから聞き、前はできずとも今ならでき‥‥‥ついでに何やら既に仕込まれていたものがあったようで、一晩中起きたせいで、寝不足気味である。
まぁ、この程度顔を洗えばすぐに目が覚めるだろうし、そこまで気にするようなことではない。
二度寝してもいいけど、ミスティアという客が居る分いつもよりもしっかりすべきだろうしね。
「僕の方はそれでいいけど‥‥‥ハクロ、大丈夫?」
【‥‥‥ぜ、全然‥‥‥大丈夫じゃない‥です】
ふと、隣を見れば、ハクロが撃沈していた。
流石に激しかったというか、やり過ぎたというか‥‥‥なんか、ゴメン。
ワゼが夕飯に仕込んでいた分、いつも以上にやらかしたというべきか…‥‥例えるならば、生まれたての小鹿とも言えるほどハクロは足が震え、立てなかった。
こういうのを腰砕けというんだろうけれども…‥‥いや、ハクロの場合腰が人部分と蜘蛛部分であるから、正しい言葉が見つからないな。
何にしても、自力での起床は無理そうで、ちょっとばかり回復を待たなければいけないようだ。
ワゼが朝食が出来たと告げ、朝食の場へ僕は向かうが、ハクロはベッドから出られない状態。
「ワゼ、後でハクロに朝食を頼む」
「了解デス」
あの様子だと、手とか使えるかは不安だが‥‥‥まぁ、糸が使えそうなら良いか。
ひとまずは朝食の場へ着くと、既にミスティアとロールがいた。
「おはよう、二人とも」
「おはようですわ」
「おはようなにょ!‥‥‥あれ?おかあしゃんは?」
「ああ、ハクロなら今、ちょっとばかり撃沈中だからね‥‥‥少し経てば回復するはずだよ」
「そうなにょか」
ハクロがいないことに気が付いたようだが、簡単な説明だけをしておく。
元雪の女王とは言え、今のロールはそれとも違うだろうし、小さい子にこんなことを教えるのもどうかと思うからね‥‥‥まぁ、流石に知らないとは思う。
説明に納得されつつ、朝食をとっていたが、その最中にふとワゼが口を開いた。
「そう言えば、ご主人様、ミスティア様。お二人にご報告がございマス」
「ん?」
「なにかしら?」
「昨晩の改造により、ミニワゼシスターズの大幅な変更をいたしまシタ」
「ああ、そうなのか」
言われてみれば、ワゼがシスターズのバージョンアップとかを言っていたが‥‥‥昨日のうちに終わらせたようだ。
とはいえ、あのシスターズの大幅なバージョンアップと言うが、どの様な変更があるのだろうか?
ミスティアの方を見れば、彼女も気になる様子を見せていた。
「その改造って、見た目に大きな変更とかもあるのかしら?」
「ええ、一応しておりマス」
「一応?」
「必要時に特殊変型を可能にしたというべきか…‥‥とりあえず、現物を見せたほうが早そうデス」
そう言うと、ワゼは何やら机の裏を探り、ポチッと何かを押した。
それと同時に、何かが動き出す音がし始め、少しその場が揺れる。
そして、揺れが収まった時には…‥‥朝食の場の壁の一部が消えうせ、代わりに別のものが鎮座していた。
「‥‥‥あれ?その箱って確か‥‥‥ワゼが前に入っていたやつじゃないか?」
「似ていますが、少々異なりマス」
黒い棺桶のようで有りつつ、蓋などが見当たらない綺麗な箱。
それが合計、6つ。シスターズの数と同じだけ。
けれども、箱のサイズは彼女達が入るには少々大きくなっている。
「では、一斉再起動デス!」
パチンっとワゼが指を鳴らすと同時に、箱から煙が噴き出す。
そして照明のようなものが当てられ、各自が飛び出してきた。
「ツー!!ツヴァイ!!」
「スー!!ドライ!!」
「フー!!フィーア!!」
「ファー!!フンフ!!」
「シー!!ゼクス!」
「セー!!ズィーベン!!」
「「「「「「ミニワゼシスターズ【αモード】で見参デス!!」」」」」」
それぞれが持つ武器を構え、びしっとポーズを決めるシスターズ。
語彙が増えているとか、色々ツッコミどころがあるが…‥‥まずは一つ、言わせて欲しい。
「‥‥‥ミニじゃなくなっているじゃん!!」
「そうですわよ!!名称詐欺になりますわ!!」
「なんかワゼそっくりに成長しているにょ!!」
「‥‥‥全員、同じところをツッコミますカ」
そう、ミニワゼシスターズは本来、ワゼより小さな体を持つ。
だがしかし、新しくなったシスターズはなんと、全員の等身がワゼサイズであり、各自のボディが成長を遂げていた。
‥‥‥明らかに一部だけワゼとは大違いであり、それぞれ持つ者になっているが‥そこはツッコミを入れないほうが良いかもしれない。ハクロ、まだ寝ていてよかったかもなぁ‥‥‥彼女だと口を滑らせて、悲惨な目に遭いそうだからね。
「ご主人様方、彼女達の成長に『ミニ』はもうつかないと思いましたカ?」
「うん」
「ですが、それは間違いデス。今の形態は、先ほど皆が言ったように【αモード】。有事の際に、体格差などを考慮して作った形態ですが‥‥‥各自、【βモード】へ移行デス!」
「「「「「「了解」」」」」」
ワゼの号令と共に、シスターズはそれぞれ武器をしまい、胸元を開いた。
そこに備え付けられたボタンを押した瞬間‥‥‥
ガコン、バッコン!!
すごい勢いで、彼女たちの体から部品がはじけ飛び、集まっていく。
その部品は各自の頭上に集まり、小さくなっていき、最終的にはネックレスのようなものへ変化を遂げた。
そして、それに首を通し、かけたその時には‥‥‥
「「「「「「ミニワゼシスターズ【βモード】!!」」」」」」
語彙が減りつつも、そこにいたのは前とは変わらないシスターズの姿。
いや、ちょっとばかり身長が伸びているが、先ほどのワゼのような状態ではない。
「‥‥‥え?どうなっているの?」
「明らかに部品とかのサイズがおかしいのですが‥‥‥わたくしのめがおかしいのかしら?」
「どうなっているにょこれ?」
急激な成長と逆成長。
その両方を見せられ、僕らは困惑する。
「ふふふ…‥‥これぞ、新しいシスターズの機能デス」
ひとまずは、僕らはワゼの説明を受けることにした。
―――――――――――――――
【αモード】
ミニワゼシスターズの、標準形態となる姿。旧ボディはβモードの方へ移行しつつ、新しい形態としてこの姿を獲得した。メイドとしての家事能力の向上だけではなく、言語機能など大幅な改善を行い、ある程度の言葉の数が増えた。
また、武器のサイズなどもアップしており、有事の際の実力行使によって制圧力も高められ、αモードだけでも旧ボディ時の合体フォルムの3分の2の力が出せる。
とある部位が増量しているようだが‥‥‥その説明は、無い。
【βモード】
旧ボディの姿がこの名称となった。ついている部品をすべて取り払い、圧縮したネックレスを装備している。
エネルギー消費量が減少し、その余剰分をα攻撃へ転換可能。ただし、部品が取り除かれている分機能も旧状態とあまり変わらなくなる。とはいえいつも通りと言う訳ではなく、こちらもこちらでパワーアップ済み。
また、各自に標準装備されていた『フライフォルム』、『ブーストダッシュフォルム』、『ウェポンフォルム』も一新。
フライフォルムはプロペラであったが、
以前の試験運転を元にβモードではジェット化し飛行速度が一気にマッハ3まで可能になった。αモード時は速度が落ちるものの、こちらには独自の翼が収納されており、展開することで飛行可能。速度はマッハ1が限界。
ブーストダッシュフォルムについては、ローラー、ムカデ足などが廃止。αモードであれば靴がローラースケートにようになり、時速400キロまで可能。βモードならば追加加速エンジンによって時速600キロまで可能。
ウェポンフォルムについては、武器がさらに改良を重ねられ、各自により適応したものへ変化。また、形態によってサイズ変更も可能。
【シークレットモード】
各自の合体フォルムの総称として、正式につけられた状態。それに伴い合体自体も一新したが、以下の二つに関しては、改良が重ねられつつも、変化は少ない。
「ワゼMK=2」
6体合体で全体色が白色に近い銀色となり、対軍専用。マッハの域を超え、合体可能時間及び休憩時間が無くなった。ただし、あまりに高速で移動しすぎるために、地面の方が持たず、長時間戦闘が可能だとしても周囲の方が持たなくなる欠点が出来た。
「翡翠」
フィーア主体の女剣士の姿になる6体合体。全体色は翡翠色になり、対人専用。
以前の試合データや、とある機体などによって大幅な改良を経て、剣技なども増加した。
まだまだ成長可能であり、そのうち海を割る予定あり。
―――――――――――――――
「ちょっと待て、今さらっと翡翠の時にとんでもない予告がされたんだけど」
「あくまでも予定ですので、本当にやるつもりはありまセン・・・・・多分」
「多分?」
‥‥‥その不安しかない言葉に、ミスティアは顔をしかめた。
実際に海を割られたら、それはそれで色々と来そうだし‥‥‥新たな心労原因が増えたような気がした。
まぁ、何にしても僕らのせいで心労が増えるのはちょっと謝りたい‥‥‥どうしようもないというのが、こちらの悩みどころになるけどね。
「にゅ?ワゼ、とある機体ってなんなにょ?」
と、そこでふとロールがそう質問した。
言われてみれば、今の説明に混ざっていたが‥‥‥シスターズ以外にその機体とやらはいないような。
「それに関しては、まだ開示不可能デス。何しろ、データを集めるのは良いのですが…‥‥少々、不安定な部分があり、現在稼働停止状態デス。改良を済ませ、更にちょっとできたらお見せいたしマス」
なんとなくまたとんでもない奴を作っている予感しかしないが‥‥‥これ以上言っても無駄であろう。
「また増えるのかしら‥‥‥と言うか、フィーアも結構変わりましたわね」
「フ!」
ミスティアの言葉に、フィーアが元気よく回答する。
αモードとやらがこれからの標準形態になるようだが、彼女はまだβの方で良いようだ。
何にしても、各自の大幅な改良は、僕らに朝から驚かせるのであった。
‥‥‥なお、この30分後。ようやく動けるようになったハクロが事情を聴き、皆を見てある言葉を言ってしまった。
流石にその事が言われるのは予想できそうだし、そう分かりやすくしなくても良さそうなものなのだが‥‥ワゼいわく、どうしてもそうするしかできない部分でもあったようだ。
まぁ、綺麗に星になった彼女の口を防ぐことは、無理だろうなぁ‥‥‥‥
この世界に野球があるかどうかはさておき、それはそれは見事なホームランであった。
何にしても、シスターズの大幅パワーアップは、良い事なのだろうが‥‥‥なんとなく不安も垣間見えるような気がする。
国任せにしようと思ったが、その事に関してミスティアが物凄い微妙な顔をした。
何にしても、次回に続く!!
‥‥‥もはやわざとじゃない?ワゼもワゼで、そう言われたくないならやらなければいいのに‥‥‥どうしようもないとか、そこの意思は強くすべき気がする。
「あのふっ飛ばされた時よりも、綺麗に飛んでいったにょ‥‥‥」
「帰って来るかな?迎えに行くべきか‥」
「大丈夫デス、ポチの頭上に足から落ちるように調整しまシタ」




