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#217 言っていたのデス

SIDEミスティア


「ん~~~~っ、本日の視察は楽でしたわね」

「フー」


 馬車内でぐぐっと背を伸ばしながらつぶやくミスティアに対して、フィーアはお茶を用意しながら答えた。



 本日は、王族としての務めというか、彼女自身が好んでやっているような、他の領地の視察。


 発展しているような場所からその手腕を学び取りつつ、他の国内の領地で同様に活かせる方法が無いかを模索し、国の繁栄を得るために、わざわざ彼女自身が出向いているのだ。


 他だと第3、4王子たちが好んで辺境へ視察に向かったりするが、まぁそれはそれで問題はない。


 他国の間者を見つけ、いつの間にか仲良くなって情報を提供してもらうという才能があるのはどうかとも思えるが、国益にマイナスになるようなことは避けているようだし、ちょっと方向性は違うだろう。


 第1、2王子たちは‥‥‥こちらは平民のふりをして紛れ、昨日もヤンデレと呼ばれるような類のストーカーに追い回されていたが、あれは自業自得である。



 何にしても、最近は室内に籠り、雪が降り積もるのでシアンたちから渡された炬燵に入り、ちょっとばかり行き詰まりもしていたので、こうして外に出るのはいい気分転換になった。


「取りあえず、今回のあの領内での政策は他でも生かせそうなところはあるかしらね」

「フ」

「ええ、これがその活かせると思われる領地のリストですわね。これとこれと‥っと、これは違うわね。こっちだとこの政策の方が活かせるかしら?」


 帰路に就きつつ、馬車内で仕事をしはじめるミスティア。


 真面目でもあり、気分転換を経て行うので快調であった。





「えーっとこれはこれですし……あそこはこれで‥‥‥」

「‥フ?」


 っと、ミスティアがぶつぶつと没頭し始めているところで、フィーアはピクリと動いた。


「‥‥‥」


 真剣な表情になり、馬車の窓からするっと外に出て、周囲の護衛の騎士たちに注意を促す。


「フー」

「おや、フィーアちゃんどうしたの?」

「フ、フー」

「‥‥‥なるほど、敵か」


 護衛騎士たちにその内容を軽く話すと、馬車についている護衛達は各々武器を持ち始める。


 そして時間もそう経たないうちに、フィーアが感知した者たちが現れ始めた。




……通常の賊たちであれば、馬に乗って颯爽と襲撃をし始めたり、叫んで威嚇しながらやってくることがある。


 だが、その姿を現した者たちはただの賊たちではない。


 全身黒づくめであり、纏う気配は…‥‥いや、普通は感知できないほど消されていた。


 馬車の周囲を囲むように広がり、素早い動きをしているようだが、フィーアの敵ではない。


「‥‥‥フ!」


 びしっと告げるフィーアの指示と共に、騎士たちが剣を振り下ろすと‥‥‥


「「「「ぎゃああああああああああああああ!!」」」」


 それと同時に飛び出て、一斉に襲撃をかけようとして来た者たちへ、見事に直撃した。



「フー」

「どうやら暗殺者たちのようですが…‥‥気配が結構消えておきながらも、最後が甘かったようですね」

「同時に出過ぎというか、またかというべきか……統率があるのも考えものですな」


 一旦馬車を止め、暗殺者たちを一人一人丁寧に縛り上げていく騎士たち。


 秘密を守るために自害する可能性も考慮し、軽く検査を行って口の中に仕込まれていた毒入りの歯を思いっきり引っこ抜く。


 第2、第3の者たちが出る事も考慮して警戒するが、流石に今回はこれだけのようだ。


「さてと、今度はどこからの者たちなのか、まだ息もあるようだし連れて帰って拷問部屋に引き渡すか。

「ああ、そうだな。しかしこうも姫様を狙ってくるのは阿保というかマヌケというか馬鹿と言うか‥‥」


 何にしても、この捕えられた暗殺者たちに明るい未来はないだろう。


 ずるずると引きずる形で暗殺者たちは御用となるのであった‥‥‥



――――――――――――――――――

SIDEボラーン王国国王


「‥‥‥ううむ、また出てきたのか」

「はっ、しかしながら王女様はご無事でございます」


 ボラーン王国、王城内の自身の執務室にて、国王エドワード・ザ・ボラーンはその報告を受けていた。




 先ほど、視察から帰還してきた彼の娘の一人であるミスティアが暗殺者たちの襲撃を受けてきたようだが、無事に帰って来たという報告。


 怪我もない事に安心はするのだが、不安なのは‥‥‥‥


「その暗殺者たちも、また狙う輩たちが仕向けた者か……」

「拷問によるとそのようだと。ただし、それぞれ一つからではなく複数方面からであり、依頼主は複雑に絡み合い、分かりにくくされているものと思われます」


 臣下のその報告に対して、国王は溜息を吐く。


……先日の温泉都市での一見以来、どうもこの国内に魔王がいる事が他の国々や貴族などに発覚し、ミスティアはその魔王と連絡を取り合える仲らしいという情報が洩れ、現在どうにか交渉したい者たちがいるらしい。


 だが、その中には当然過激なものや良からぬものもあり、今回の暗殺者たちの依頼主も、おそらくはミスティアを害することによって魔王との連絡手段を断つか、もしくは魔王との関係上彼自身を激怒させ、国内から騒乱を引き起こすなどの目的があるだろうと考えられた。


「数も増えておるし、このままにはできぬな」


 今代の魔王の立場は中立であり、基本的に何もしなければ相手も何もしない。


 けれども、そこに良からぬ輩たちが見事にやらかしてしまえば、それこそ激怒して滅ぼすぐらいの行動は目に見えていた。



 実際に、先日の温泉都市では、どこぞやの王子が魔王の妃とかに害をなしたがゆえに騒動が起きたらしく、現在その王子は処分待ち。


 あの国の王は子供に甘いところがあるらしいが、それでも出てくる非難・批判の山で切り捨てるのは決定のようだ。


 まぁ、その愚者のせいで国を魔王に滅ぼされる危険などに不安を抱いているらしく、どうにか謝罪交渉の場が持てないかなどの交渉もしてきているようだが…‥‥



「何にしても、王位継承に関しても影響することだな」


 国王の実子は5王子2王女。


 単純に王位継承権を順番に見れば、第1~4王子、第1王女、第5王子に第2王女なので、第2王女であるミスティアの継承権は低い。


 けれども魔王との連絡手段、親交、交渉役などの役割を持たせているので、継承権は上がる物。


 それに危惧を覚えるのが、同じ王位継承者である王子王女たちではなく、その周囲で甘い蜜を吸おうとする愚か者たちというのは、呆れたものである。


 まぁ、他の王子王女にしても、誰が王位継承権に就こうがそう言った馬鹿者共は追い払うのだろうが‥‥‥それでも蛆虫のごとく出てくるのだから質が悪い。


「かと言って、このまま放置もできません。今回の件は楽でしたが、今では毎週のごとく不届き者がやってきていると報告も上がっております」

「むしろその人員をどこから確保しているのかという疑問もあるが‥‥‥このままにできないのは分かっている」


 何度にもわたる侵入、襲撃などを喰らうと、流石に王城のセキュリティの穴などを見つけ出され、色々とやられるのはわかっている。


 手っ取り早いとすれば、一旦その狙われているミスティアを他のどこか安全そうな場所へやり、そこへめがけて死地へ飛びこむような馬鹿者たちを捕縛し、その間に元凶共を掃除して消し去るのが良いのだが‥‥‥


「ふむ……こうなると、あの案が良いかもしれぬ」

「あの案?」


 国王の言葉に、臣下は首を傾げた。


 無理もない、その案は国王及び他の王族たちに持ちかけられたもので、そう簡単にすべきかどうか迷っていた物でもあるから。


 けれども、その案が今回の最適解のように思え、国王は検討し始める。


「我が娘ミスティアについている護衛、フィーアという者をここに呼んできてくれ」

「はっ」


 そう命じ、臣下がその場を去り、国王は深く椅子に座り、ふぅっと溜息を吐いた。


 ちょっと前にも自分も企み、やや失敗に終わっていたが‥‥‥今回のはある意味その延長線上で、協力者も多そうだ。


「これで片付けばいいが‥‥‥王ではなく父親としては、別の不安しかないな‥‥‥」


 一国の王である前に、彼も一人の父親。


 賢王でも無く愚王でもなく、それなりに有能でありつつもやらかしがあい、その度に王妃や側室にしばかれる身ではあるが、それでも娘の身を案じるのはどこにでもいる父親であろう。


 できれば王位なども円満に決めたいのでさっさと終わらせたいが、そうもいかぬジレンマに苦しみつつ、その間に子供たちへの脅威がある事にどうにもできない自分に腹立たしさもある。


「くよくよ考えないほうが良いか。今回の間に、全て片付ける意気込みでいかねばな」


 そう言葉にし、数分後にやって来たフィーアに対して、国王はある話を持ちかけつつ、後々議題に出し、満場一致となって実行するのであった‥‥‥‥






国の王とて、彼もまた一人の家族を持つ父親である。

王位継承の座を中々はっきりさせない優柔不断腑抜けだが、それでも子を守りたいという気持ちはある。

その決断は、ある意味父親としては複雑なものもあり、国王という立場で考えて見ても、色々と言われそうなものなのだが、その覚悟は他の者たちにも伝わるだろう。

次回に続く!!


……賢王でもなく、愚王でもない良い(?)王様。そういう立場であるがゆえに、色々と複雑な事情もある。

まぁ、この件もある意味やらかしに近いような気もしなくはないので、夜辺りに軽いしばきが待ち受けているかもしれない。

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