#212 陰で苦労もあるのデス
SIDEシアン
……廃棄物の処分をワゼに任せ、僕は今、取り返したハクロにくっ付いていた。
「良かったよハクロ……本当に無事で」
【ええ、何とか助かりましたからね】
「おかあしゃんが無事で良かったにょ……」
ロールも僕と同じようにハクロの蜘蛛の部分の方に乗って、ぴとっとくっついている。
互いに彼女が好きな者同士、こうやってくっ付いて安心感を得る気持ちは共有できる。
こうしてくっ付き、彼女の肌のぬくもりや生きている実感を得て、安堵の息を吐けるのだ。
「お腹が殴られていたとか聞くけど、そこは大丈夫?」
【ええ、大丈夫でした】
救出後、ミニワゼシスターズに診察してもらったところ、多少の打撲のダメージはあれども後になるようなことはないらしい。
元々、アラクネの糸は頑丈で、彼女の糸で作った衣服を着ていたがゆえに、ダメージを相殺し切れなくてもある程度防いでいたことが功を奏したそうなのだ。
「何にしても、無事に助け出せてよかったよ」
とりあえずあの汚物に対しての制裁はできたが、彼女が無事かどうか助ける前不安でいっぱいであった。
怒りで魔力が溢れると同時に、その不安も湧き上がっていたからなぁ…‥‥こうやってくっ付いて彼女がいる実感を得るたびに、本当に安心できる。
【シアンすごく怒っていましたからね‥‥私のためにあそこまでやるのはちょっとやり過ぎなような気もしましたが‥‥‥それでも、助けてくれたことがうれしいです】
ハクロの方も安心しているのか、背中のロールを前の方へもっていき、僕と共に抱きしめる。
僕らも負けじとハクロに手を回し、互にヒシっと抱き合う。
今はただ、僕らは家族として大事な人を取り戻した安心感と幸福感に包まれつつ、無事を喜びあうのであった。
……というか、やり過ぎと言われて気が付いたが、確かにちょっとばかりね。
いやまぁ、でも僕らに害をなした奴だったし、あの報復でも手ぬるかったかも?
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SIDEドーラ&ワゼ
「さてと、あの汚物の処分は終えましたが…‥‥こちらの方が酷いデス」
人々が怒りのシアンの威圧の巻き添えでまだ気絶しており、人気が無い夕暮頃、温泉都市の一角、シアンが暴れに暴れた場所で、ワゼはそうつぶやいた。
【シャゲェ……シャゲ】
「ええ、跡地もしっかりと消しておかなければいけませんからネ」
巻き添えというべきか、現場に遅れて駆けつけたドーラがワゼに捕まり、跡地の修復作業に手伝わされることになった。
何しろ、ここは温泉都市。
できれば綺麗な外観を保たせたいのだが、ここだけ惨状になっているのは色々とよろしくないので、修復しておきたいのだ。
【シャゲ~……シャゲシャゲ】
「ええ、隠すために色々と作業しましょう」
とにもかくにも、この惨状をごまかすために動く。
ワゼがクワや鋤などを取り出し、溶解してガラス質になった地面を埋め立て、砕き、均していく。
ドーラはその地面に対して、持ち歩いていた植物の種などをばらまき、植樹したりして景観を戻していく。
作業自体は大雑把にやるが、それでもさほど時間はかからずに景観の修復を終えるのであった。
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SIDEミスティア
「…‥‥えっと、フィーア。それってあの人達からの情報よね?」
「フ」
「‥‥‥後始末、完全に押しつけられそうですわ」
ボラーン王国の王城内、ミスティアの執務室にて、ワゼたちからの連絡をフィーア経由で受け取り、内容を聞いてミスティアは机にぶっ倒れた。
頭が痛い話しというか、国際的な問題になりかねない話というべきか…色々とやらかされたのである。
この国へ来る使節団の予定であった、メグライアン王国の馬鹿王子。
道中で事故に遭い、温泉へ湯治という情報は彼の護衛などを除いた他の者たちから聞いており、それはそれでまだ良い方だとは思っていた。
だがしかし、その馬鹿王子が温泉で馬鹿をやらかしまくり、挙句の果てに魔王とされるシアン……いや、今回の暴れっぷりからもう確定と言えるような人の妻を攫おうとしたりする、どう考えても命知らずすぎる所業とその末路を聞き、頭を抱えたくなったのである。
「仮にも他国の王族……でも、やらかしたことがことだし……ああ、面倒ですわ」
ボラーン王国の温泉都市での出来事なので、ボラーン王国側への抗議をされそうなものなのだが、今回の件は馬鹿王子がやらかしたのが原因。
しかも、そのやらかした相手が今代の魔王とくれば、それこそ国一つが滅びてもおかしくはない。
……実際に、シアンそのものの手ではなく、その配下と言えるようなミニワゼシスターズだけでも一国の軍を相手にしたことがある光景を見た身としては、シャレにならない事でもあった。
「確実に彼らはメグライアン王国を敵として見る可能性もあるし…‥‥国を滅亡させたい破滅願望をその王子は持っていたのかしら?」
「フー……」
ミスティアの言葉に、フィーアも難しい顔をする。
その現場にいなかったとはいえ、報告によれば彼女の姉妹機でもある他のシスターズもその馬鹿王子の手によって全損・半壊されたと聞き、良い感情は無い。
いやむしろ、報復の場にいなかったことが残念そうであった。
「とにもかくにも、事態的に放置はできませんわね…‥‥ワゼさんからの情報だと、処分された馬鹿王子は護衛達に引き渡されたそうですけれども…‥‥国へ帰れるのでしょうか?」
聞いた話では、今回の件に置いて被害者と言えるシアンの妻、ハクロへの攻撃の話もあり、そのせいか
どこぞやの組織が既に動き始めているらしい。
メグライアン王国内でその馬鹿王子の所業が暴露され始めつつ、王族たちへの不満も噴き出しかけているのだとか。
裏ギルドなども動き、一致して今回の件に抗議をしているようで、その件の馬鹿王子は辛うじて生きているとはいえ、もはや明るい未来は無さそうだ。
「‥‥‥切り捨てられ、関係ない者として処分される可能性もありますわね」
あの国はそうそう厳しい国王ではなく、子どもにちょっと甘いらしい。
だが、それ故にこの馬鹿王子のやらかしが伝わってくると、もはや甘く接することもできないだろう。
考えにくいが、下手をすると魔王が責めてくる可能性を想い、至急謝罪のための場を設けて欲しいなどの話が来る可能性もある。
何にしても、このボラーン王国内でシアンたちへの対応は国王命令としてミスティアに任されており、確実に後始末をこちらでもしないといけないのは明白。
「あー‥‥‥もう、何でこういう時に彼らも温泉へ……わたくしも休みたいですわ…‥‥」
「フー……」
うつぶしてぐったりとするミスティアに、同情するようにポンッと肩に手を置くフィーア。
……ある意味、今回の騒動での最大の被害者として巻き添えになったようなものであった。
「そう言えば、養女の写真ありましたわね…‥‥ハクロさんに子がまだ成せていないからというのは良いとして、あれ何処かで見たような‥‥‥」
「フ?」
「‥‥そういえば、ハクロさんのファンクラブの組織が、新たに売り出したとか言う話がありましたわね。あれお兄様の誰かが持っていたような‥‥‥まさか」
聞いた話では、シアンたちに養女が出来た。
その養女はまだ幼い娘のようだが、兄たちの誰かがその写真を持っているのを見たミスティア。
……ロリコン兄疑惑を持ち始め、不安事が増えてしまったのであった。
「いえ、流石にそれは無いですわね。きちんと矯正すればいい話しですしね」
何しろストーカーたちが兄たちについているので、そう馬鹿をやらかすような真似はするまい。
むしろ、したところで確実に捕食されるのが目に見えているし、心配するようなことでもあるまい。
「そういえば、お父様の方も‥‥」
「ひっぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
「‥‥‥ああ、遅かったようですわね」
「フ」
もはや恒例となった、国王が何かをやらかしたら、王妃及び側室たちによって折檻される時の悲鳴。
それが聞こえ、問題ないかと思い、今は温泉都市で起きた騒動の終結のために、国王の悲鳴を無視して作業を行うのであった。
今回の後始末苦労人、ミスティア。
他国の王子の馬鹿のせいで増えた仕事に苦労しつつ、こなしていく。
何にしても、一度騒動があれば他にも広がるようであった。
次回に続く!!
……さりげなく国王しばかれているけど、忘れてはいけない設定だったりする。これがあるから愚王にはならないけど、その分何かしでかしているという証拠にもなってしまう。
まぁ、日常的になって来たのであれば、それはそれでいいか。あれ?もしかして日常の一番の影の苦労人って王妃とか側室の人達?
いやそもそも、このしばかれている時点でアウトな様な…‥‥うん、気にしないでおこうか。どこかのメイドのシスターズが、最近鞭を開発して嬉々として譲り渡しつつ改良などを話し合っている裏話など、こういうところで話すようなことは無いからね。




