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#210 たまにはマジdeath

SIDEハクロ


【ぬぐぐぐぐぐ……やっぱり、噛み切れませんか】


 長きに渡るシアンたちとの生活ゆえに、毒を出す方法を忘れたハクロは今、別の方法を試していた。


 口の方は封じられていないので、拘束をしているこの鎖のようなものを噛み切ってしまおうと考え、実行したのだが‥‥‥生憎、傷ひとつつかない。


 顎も疲れるし、意味をなさず、はぁっと溜息を吐いた。



【どうしたらいいのでしょうか…‥‥】


 全力で牽引し、壁ごとぶっ壊す案もあったが、蜘蛛部分の腰も拘束されており、下手をすれば腰が逝ってしまう。


 がちゃがちゃっと暴れてどさくさにと思ったが、まったく壊れる気配するもない。


 今できるだけの事を試しつつ、ことごとく失敗に終わっていた……そんな時であった。



ガチャリ

【!】


 この換金されている部屋の扉が開く音が聞こえ、見ればそこにはあの襲撃者がいた。


 禍々しい雰囲気を纏った剣を帯剣しており、攻撃する気は無さそうだが…‥‥解放する気もなさそうだ。



「がじゃがじゃヴるぜぇ!!いまばだまっでいればいい!!」

【‥‥‥発音ひどすぎです!!ちょっとわかりにくいですよ!!いえ、そんな事よりも私を解放してください!!】


 怒鳴り散らす襲撃者に対してちょっとズレたツッコミをしつつ、まずはそう問いかけるハクロ。


「あ”あ”!?ぞんあごどぼだれがずるが!!たのじむだめにもぢょっとぐずりをよういじでいるどじゅうだがら、ぞのどぎがぐるまでぶるえでいればいいんだよ!!」


 ハクロの言葉に対して、そう返答がされる。


 ひどく聞きずらいが、何となくで分かる内容。


 楽しむために薬などと言うが、どう考えてもろくでもない類なのは間違いない。


「どりあえずだ!!ぎざまだはおどなじぐじていろ!!あのむずめどのぜんどうでまだたいりょぐがかいぶぐしていでぇからな!!」


 そう怒鳴って、再び扉を閉める襲撃者。


……あの娘というのはロールの事であり、どうもあの戦闘でそれなりに体力を使っていたらしい。


 いや、むしろあの禍々しい力の代償で、身を削っているのではないかと予想が出来た。



【‥‥‥体力不足で、今はまだ眠るだけですか‥‥‥あまり長くは無さそうですね】


 今こうして起きているという事は、かなり体力が回復してきたのかもしれない。


 眠って回復していたのだとしても、この様子だと手を出されるのはもう間もなくと予想できた。



【でも、逆に言えば今がチャンスという事でしょうか】


 体力の回復途中であるとすれば、全力を今は出せない状況のはずである。


 ならば、この残された時間内に救出してくれれば、応戦時にやや楽にできるかもしれない。


【よし、まだ諦めませんよ!!】


 もうあまり残されていない時間。


 けれども、その分最後まであきらめることはしない。


 徹底的に交戦し、やるのであれば最後までやり切るしかないだろう。





 そう決意を新たにし、徹底抗戦の構えをとった…‥‥その時であった。



――ジュウウウウウウウウウウウウウウ

【ん?】


 何やら溶解しているような、妙な音が聞こえ始める。


 何事かと首を傾げ、疑問に思った次の瞬間、



ドッガァァァァン!!


……盛大に扉が、いや、ハクロの前の部分までの部屋が、上から降り注ぐ何かによって融解し、消し飛ぶ。


【‥‥‥へ?】


 その光景に目を丸くしつつ、発生した水蒸気で周囲が曇り、一次的に見えなくなる。


 そして、その煙が晴れた時には…‥‥


【し、シアン!!】

「お待たせハクロ、ようやく来れたよ」


 そこに立っていたのは、彼女が愛してやまず、助けを求めた者。


 ちょっとばかり変わった部分が増えているが、それでも間違いなくシアンであるとハクロは理解した。


「そしてごめんね、遅くなって……」

【大丈夫ですよシアン、どうにかなってますし……ううっ】


 そっと抱きしめられるぬくもりに、大丈夫だとアピールしたいのだが、喜びで涙があふれ、叫びたくもなる。


「‥‥‥ご主人様、ハクロさんの拘束は私が外しマス。ですから今は」

「ああ、わかっているよ。‥‥‥‥大事な妻に手を出した愚者を、今から裁こうか」


 ワゼがいつの間にか傍に来ており、シアンがそっとハクロから離れ、あの襲撃者の元へ向かおうとする。


 そこから感じ取れるのは、ハクロが無事であった安心感と‥‥‥‥深い静かな怒り。


 いや、どんどん湧き出るような魔力が渦を巻いているようで有り、一つの嵐が起きているようにも見える。



【なんかシアン…‥‥本気でキレてませんか?】

「ええ、ガチギレのようデス。魔力が相当溢れているようですし、これはただでは済まないでしょウ」


 シアンの様子を見てつぶやくハクロの言葉に、ワゼがそう答える。


 腕を変形させ、ハクロの拘束をしている鎖を丁寧に焼き切り、解放する。


「とりあえず、今は離れたほうが良いデス。巻き添えにならないように気を遣うとは思いますが…‥人質になるなどをされると、非常に面倒ですからネ」


 そう言い、ワゼの案内によってハクロはこの場を一旦離れる。


 シアンが本気でキレている姿は頼もしくもあるが、周囲の被害も甚大になりそうだなとどこか不安にも思うのであった‥‥‥‥




――――――――――――――――――

SIDEシアン


……ハクロが無事でよかった。


 見た感じ、ロールの証言にあった通り、腹の部分に打撃は喰らっていたようだけど、それ以外はまだ何もされていないようだ。


 いや、される前だったのかもしれないが…‥‥そんなことはどうでもいい。





 たった今、盛大な火の魔法で溶かしきったこの空間へ侵入し、奥へと俺は歩み始める。


 気配で何となくわかるというか、禍々しく、不愉快にされるような者がいる場所を探り当てる。



「…‥‥あいつか」


 最奥部、光が届かず暗闇に包まれた奥底に、それはいた。


 ハクロを攫った元凶であり、絶対に許せない相手。



「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 いびきをかいて寝ているようで、油断していそうな雰囲気もある。


 けれども、その帯刀している大剣からはこちらを見るような気配があり、完全に油断しているわけでもなさそうだ。



 なにはともあれ、まずは正々堂々ではなく不意打ちの一撃を当てる。


「『アースショック』」


 そう魔法名を唱えると、地面に亀裂が入り‥‥‥‥その男の背中から一気に衝撃波が発生した。


ドォォォォォォン!!

「ごべがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 衝撃波で吹っ飛び、目が覚めたのか叫ぶ男。


 だが、直ぐに現状を把握したのか、空中で態勢を整えて着地する。


「ごがっつ!!だ、だれだぎざまば!!」


 

 こちらの存在に気が付き、そう叫ぶ愚者。


「普通にそんなことを言われても返さないとは思うけど…‥‥そうだな」


 あえて、この状況で名乗るとすれば‥‥‥」



「妻を奪おうとした愚か者に裁きを下す魔王だ!!」


 そう名乗ると、相手は剣を構え、こちらは単純に使い慣れた氷魔法でのガントレットを装着し、互に距離を取る。



「ぐがああ‥‥‥づまだと?あのあらぐねばおれのものだ!!」

「違うな、大事な大事な…‥‥俺の女だ!!」


 互いに叫び、地面を踏み抜きぶつかり合う。

 

 拳と剣がぶつかり合い、衝撃波が発生し、周囲を吹き飛ばす。


 それと同時に、僕はこの相手の事をどのような者か理解できた。


 この愚者……剣の力の方にほぼ頼り切りで、身体の方が追い付いていない。


 いや、むしろその禍々しい剣の意志のような者に乗っ取られているようだが…‥‥大半がこの愚者の愚かな欲望を増加させている程度であり、無罪放免でもない。


 何にしてもやる事は一つ。



「ひとまずはここだとやりにくいし、ハクロをふっ飛ばしたその罪から償え!!」


 ぶつけた拳とは反対の手から空いての懐へ潜り込ませる。


 そして、爆発する魔法を叩き込む!!


ドゴゥン!!

「ぐがあぁぁあぁぁぁぁ!!」


 爆発をもろに喰らい、吹っ飛ぶ愚者。


 けれども、これで終わりではない。


「追撃100連発!!」


 次々と魔法を叩き込み、降ろすことなく愚者を宙へ、天井をぶち抜き空へふっ飛ばす。


 ある程度高さを得たら、後は叩き落す。


「『メテオクラッシュ』!!」


 土の魔法で大きな巨石を作り上げ、空に打ち上げた後愚者へめがけて落とす。


 大気の摩擦と共に高温になり、隕石モドキが襲い掛かる。


「ぐああああああああああああああ!!」


 剣で斬りさき、逃れるようだが…‥‥一つで終わるわけではない。


 どんどん同じ隕石モドキを作り上げ、降り注ぐ。



 まだまだ終わりではないが‥‥‥‥まぁ、まずは軽く隕石モドキで動いてもらおうか。



ハクロを救出し、避難することまではできた。

そして今からは、裁きの時間。

この隕石モドキは前菜に過ぎないのだ…‥‥

次回に続く!!


……他者から見れば、世紀末?隕石が降り注ぐってどんな地獄だろう。

でもこれでまだ終わりでもないんだよなぁ‥‥‥‥

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