#206 別方面デス
本当であれば、ここで騒動を起こしたかったけど、ちょっと構成中なので別の方々の話です。
SIDEドーラ
【シャゲェ~ェ】
かぽーんっと音が鳴りつつ、ドーラはゆっくりと温泉に浸かっていた。
今回はある不安事があるのでついてきたのだが、こうやって温泉に浸かるのも悪くないとも思っていた。
普段は大地に根を張り、花壇や畑の管理を行い、時折子フェンリルたちと戯れつつ、それなりに疲労は貯まっていたので、この温泉での癒しも求めたかったのだ。
一応、今回は特殊な監視方法をドーラはとっているので有事の際には動けるようにしているが、今はとりあえずゆっくりと浸かるだけ。
植物が温泉に浸かって良いのかと言いたくもなるが、この温泉は植物専用ゆえに問題なし。
むしろ、葉っぱや茎につやが出て、効能をしっかりと表していた。
【シャゲシャゲ~♪】
【ゾルワー】
【モッサァン♪】
ふと気が付けば、この湯には他の植物系等のモンスターが入浴しており、この都市で沸いたモンスターたちらしいが、気が合い、ちょっとばかり合唱もしてしまった。
とにもかくにも、この機会にドーラは交友関係を広めておくことにした。
こういう温泉の場での交友を広めることで、自分にもある程度の情報を仕入れる事が出来る。
ワゼの方ではミニワゼシスターズや裏ギルドと言った繋がりを持って情報を仕入れ、シアンたちに害を及ばないようにしているらしいが、ドーラもそういう方法を取りたい。
いや、今のドーラではない、かつての別のドーラの時に、数百年前の魔王の脅威はしっかりと理解しており、今の魔王とほぼ確定してきているシアンに対して、何かをやらかしてくる馬鹿のせいで、それこそヤヴァイ事態になるのを避けたいという思いもあるのだ。
何にしても、温泉をちょっとばかり巡って見て、ドーラはこの温泉都市での植物系等のモンスターたちであれば、ある程度把握できた。
マンドラゴラ、人面樹、フラワーラビット、アルラウネ、マッシュルームホーン、ダンシングウッド……その他諸々通常であれば地面に大人しく生えているか、旅人を襲う系統のものが多いはずなのだが、不思議とこの都市で生まれた彼らにはその性質は無いようで、温泉好きで広めようとする性質があるようだ。
植物系等以外のモンスターもいるようだが、やはり彼らもここの生まれで有れば、温泉好きなのは変わりない。
他では恐れらるオークやゴブリン、トロールなどもいたが‥‥‥こちらはなんと、従業員として働いている姿を目撃できた。
各温泉施設の従業員の衣服を着つつ、真面目に働くさまはちょっと異様。
でも、そう言う種族を除けば皆ここが好きなようで、一生懸命働き、そして休憩の合間に温泉に浸かる。
ある意味不思議な生態系がここで出来ているようで、温泉好きならば誰もが同じようにしか見えなかった。
……いや、違う。
少しばかり平和過ぎる。
【シャゲェ……?】
働く様子から見れば、真面目な従業員、時々除き防止のガードマンとして働いているようだが、性質が少しばかり平穏すぎるようにドーラは感じ取れた。
まるで、悪意だけがどこかで抜き取られてしまったようにも思える。
【‥‥‥シャゲ】
まぁ良いかと、ドーラは思い、考えても仕方がない事として別の温泉へ向かう。
今の所は大丈夫そうだし、ちょっとばかり懸念していたところでも、今見たところでは監視の目が行き届き、フルボッコの末に吹っ飛んだ様子を確認できた。
それでも、わずかばかりある不安の予感に、ドーラはなんとなくもやもやするのであった。
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SIDEポチ
【ふぅ‥‥‥前は来れなかった分、今日はゆっくりできるな‥】
【ふははは、そうであーるか】
温泉都市オルセデス、本来であれば神獣の隠れて浸かる温泉。
だがしかし、ネオ・オルセデスとなったことでここまで温泉都市が拡張し、普通に堂々と浸かれるようになった場にて、浸かっていたポチのつぶやきに対し、この地に住む神獣ファフニールのシグルドは笑いながらそう言った。
【しかし、今回は奥方……ロイヤル殿は来ていないようであーるな】
前にこの都市へシアンたちが訪れた際に、事情があってポチではなくロイヤルが自らでて、この温泉へ浸かりに来ていた。
だが今回はポチが来て、ロイヤルが来ていないのである。
【ああ、それなんだがな。ここ最近の雪を見てちょっと子供たちと雪上訓練をしに行くといって、出かけているんだ】
前に堪能しているし、今回は別に行かなくても良いとロイヤルが言っていたと、ポチはそう事情を話す。
まぁ、たまには男1人旅風に来ても良いので、それはそれで良い。
【そうであーるか。まぁ、妻というものを持つ身ならばそういう事もあるのであろう】
ポチの説明に納得するシグルド。
……暗にお前は邪魔だからちょっと何処かへ行ってこい、というような意味合いもありそうな気がしたが、そこは空気を読んで黙った。
【それにしてもだ‥‥‥ここの温泉、効能が強くなってないか?】
【お?わかるであーるか?】
【だてに神獣としてやってないからな】
というよりも、シグルドの姿を見れば分かりやすいだろう。
以前の姿では翡翠とかに近い鱗をもち、穴の開いた羽をもった年老いたドラゴン。
でも、今のシグルドはその姿よりもやや若く見え、穴も随分と小さくなっていた。
【そちらが今回も連れてきた者たち…‥‥確か、シアン殿と言ったか?その者が前にこの都市のダンジョンコアに魔力を流し、復活させた影響なのか温泉自体が強化されているのであーる】
【ほう、温泉の強化とな?】
【そうであーる。効能自体が強化されつつ、量に種類なども増加し、中々面白い事になっているであーるよ】
面白そうに笑いつつ、そう語るシグルド。
長年ここに住んでいた身ではあるが、こうも短い間に変化が起きるのは見たことがなく、この発展ぶりがとても楽しいのだ。
【‥‥‥まぁ、それと同時に別件も色々増えたであーる】
っと、ここでちょっと笑いを抑え、真面目な雰囲気になった。
【あのシアン殿……人の身でありながらも、あり得ぬ魔力量。もしやとは思うが‥‥‥今代の魔王と言うやつであーるか?】
【‥‥‥さぁ?でも、こちらの爺さんはだいぶそれっぽいとみているふしがあるようだ】
シグルドの問いかけに対し、ポチはそう答える。
魔王かどうか、ポチには分からないが、先代の数百年前の魔王を見ていたヴァルハラの方ではそう見ているように思える。
普段は色々と残念過ぎてギャグ要員と化してきているようなポチだが、これでも神獣で有り、ある程度観察なども行っているのだ。
【まぁ、密かに少し勉強したが…‥‥立場的には悪でも善でもない中立と見るのが良さそうだ】
【中立の魔王であーるか‥‥なるほど】
数百年前の、先代の魔王は悪であり、当時は相当ひどい事になっていた。
できれば今代は善であってほしかったが…‥中立である分、マシな方であろう。
【しかし…‥‥あれも中立というには、ちょっとおかしいであーるな】
【ん?どういうことだ?】
【何かこう、抜けているのであーる。いや、あの者自体におかしい点は無いのであーるが‥‥‥ぬぬ、良い言葉がでないであーる】
ちょっと考え込むも、何やら当てはまるものが無いので悩むシグルド。
その様子に、ポチは首をかしげる。
【個人的に言わせてもらうのであれば、魔王としたらあのメイドの方がありそうだとは思う。極悪非道凶悪冷徹残酷だからな‥‥‥ううっ、毛が】
ポチ的には、魔王とすればあのメイド‥‥‥ワゼの方が悪の大魔王にしか見えない。
かつて喧嘩をうって、見事に毛皮を剃られることをされた身として、トラウマを持っているのだ。
【あのメイドであーるか。‥‥‥宝を探る神獣としては、あれも宝になりそうであーる。というか、見れば実力が相当なものだとわかるのであーるよ】
【…‥‥】
……ここに、実力を見ぬけずに返り討ちされた神獣がいる。
そう誰もツッコミを入れる事が無いのは、ある意味ポチにとって良かったのかもしれない。
【まぁ、魔王がシアン殿としたら今回は平和ともいえるであーるね。相当な馬鹿が手を出さない限り、良いのであーる】
【ああ、相当な馬鹿さえいなければな】
今のシアンが魔王であろうがなかろうが、手を出せば痛い目を見るのは目に見えている。
というか、ポチにとってはその傍にいるワゼの方が動いてより恐ろしいようなことになりそうな気がしていた。
【にしても、魔王がいるとなると‥‥‥別件もある程度どうにかしたほうが良さそうであーるか】
っと、ここで話を切り替えるシグルド。
【別件?】
【この温泉都市のダンジョンコアがどうも前の魔力供給の結果、変化を起こしたようであーる。そのせいで本来のダンジョンであるモンスターが湧きつつ、温泉好きになっている現象が起きているのであーるよ】
【ああ、見たぞその光景。普段ならあり得ないようなものだし、驚愕したな】
普通であれば人々を襲ってもおかしくないようなものばかりなのに、何故か温泉好きになっているモンスターたち。
ある意味珍しい生態系になっているなぁっと、ポチは思った。
【とは言え、本来の部分とは外れているのは、ちょっとおかしすぎるのであーる。どこかにその人を襲う本能を置いてきた…‥‥いや、その分の力をダンジョンコアが意図的に操作したふしがあーる】
【何か問題もであるのか?】
【その抜けた分の力をどうするのか、気になるのであーるよ。とは言え、コア自身が勝手に動き回るようなことは普通は無いはずであーるが‥‥‥‥】
……魔力を充填された今のダンジョンコアが、どのように動くのか、分からない。
ダンジョン自体が生きているという説などもあるが、あのダンジョンコア自体がダンジョンを形成しており、あれそのものが生物のような者でもあるという説もあるのだ。
魔王と思われるシアンの膨大な魔力を吸収した分、劇的な変化がコアに起きているはずだと、そこまではわかる。
そして今、そのシアンがこの地に来ており、ダンジョンコアが感知しているのであれば……
【‥‥‥なんとなーくであるが、ややこしい事態になりそうであーるな】
【そういうものなのだろうか?】
【そういうものであーる】
この温泉都市のコアがシアンの味方になって、ここにいる間に何事もないように動いてくれるのであれば問題はあるまい。
だがしかし、何となく妙な胸騒ぎというか、やらかしが起きるような気がして、シグルドは警戒するのであった。
【そう言えば、魔王には魔王の伴侶が付くはずであーるが‥‥‥シアン殿にその伴侶は?】
【あのアラクネだ。まだ子を成してないようだが、養女をえたようで、現在親子そろって楽しんでいるぞ。‥‥‥まぁ、その養女は養女で、色々となぁ‥‥‥うっ、寒気が】
【…‥‥なんとなくであーるが、お主実は女難を抱えておらぬであーるか?】
各々色々とありつつ、騒動の時は迫っている。
何処かで誰かがフルボッコにされても、絶対に戻ってくる。
そして、それのせいで…‥‥
次回に続く!!
……シグルドも言っていたが、ポチってライトノベルとかで男主人公が持つ女難の相を持ってしまっているような気がする。本来ならばシアンに持たせたかった分を押し付けちゃった?いやまぁ、無い事は無いんだけど…‥‥いや、どちらかと言えばとばっちりを受ける側か?




