#205 のんびりと浸かりたいのデス
SIDEシアン
……温泉都市オルセデス改めネオ・オルセデス。
宿も見つけ、まずは適当に近くの温泉から僕らは堪能することにした。
「というか、水着着用とは言え混浴か」
【まぁ、皆でゆったり浸かる処としては最初で良いんじゃないでしょうかね?ふぅ、気持ちがいいですよ】
最初に選んだこの湯は、水着着用義務のある混浴。
効能は疲労回復、保湿、リラックスなど、ゆったりと浸かれるのがメインらしい。
「泳ぎたいほど広いけど、ゆったりともしたいにょ」
「こらこら、こういう場で泳ぐのはダメだよ」
ぷかぁっと全身の力を抜いて浮かぶローラに、僕はそう言う。
広い湯舟だとなんとなくその気持ちになるのも分からなくはないが、一応マナーという物があるからなぁ。
【あ、でも泳ぐ用の温泉もあるようですよ?ほら、あそこのです】
「どっちかと言えば、プールに近いな‥‥‥」
水ではなく温泉をふんだんに使ったものとはこれいかに。
何にしても、家族一緒でこうやって浸かるのも中々良いものである。
「あれ?そう言えばドーラは?」
ふと、その事に僕は気が付いた。
「ドーラさんであれば、先ほど別の湯へ向かいましタ。この植物系用の湯のようデス」
パンフを持って説明しながら、ワゼがそう答える。
……水着着用の混浴とは言え、普通にメイド服を着ているってどうなのだろうか。
いや、メイド服に見える水着らしいが、どう違うのかちょっとわからない。布地につやがある程度だからなぁ…‥‥
何にしても、最初は水着着用の混浴だったとはいえ、ある程度楽しんだところで僕らは異なる湯へ移動するのであった。
「次はどこにしようかな?」
【こうも数が多いと、選ぶのにも一苦労ですよ】
――――――――――――――――――――
SIDE?‥‥‥とある愚者
「ふふふ……思った以上に楽に忍び込めたな」
シアンたちがいる温泉の近くにて、そうつぶやく男がいた。
彼の名はシャーグ。この温泉都市のとある宿屋にて、護衛の騎士たちと泊まっていたはずの、ある国の王子。
メグライアン王国の第1王子ではあるが、王位継承権は現在最下位である。
というのもこの王子、王族という勤めには全く向いておらず、勉強から逃げ出し、一時期は市井に逃れ、平民のふりをして過ごしてもいた。
そんな中で、冒険者という職業に興味を持ち、パーティを結成して動き、実力はある程度身に着けることに成功していた。
このまま王族という立場を捨てて、冒険者になっていたほうが幸せだったのかもしれないが‥‥‥それはある時を境に終わってしまった。
そしてその時以来、彼は冒険者行の中でまともになりそうだった精神をひねくれさせ、愚者へと変貌してしまったのである。
冒険者業もやめ、王族として返り咲いた後は欲望に溺れる日々。
もともと酷かった部分が、冒険者として過ごしている中で矯正されかけていたが、辞めてしまったことで矯正が大失敗し、修正不可能な状態になってしまったのだ。
そして今、彼は王族としてせめてもの責務を果たすようにと父親である国王に命じられ、ボラーン王国へ送る使節団に入れられたのだ。
一応、どのようにして人と会話してコネクションを作ればいいのかというのは冒険者業で培っており、それなりに外交手段に長けてもいたというのが、その理由である。
けれども、道中でモンスターに襲撃され、その際に冒険者として働いていた時の自信をもって迎え撃ったが‥‥‥元々その冒険者時代も仲間がいたからこそ、成り立っていたようなもの。
彼一人では当然無理もあるし、なまってもおり、さらに愚者になって欲に溺れていたがゆえに実力は落ちており、結果としてフルボッコにあったのだった。
色々と大けがを負う中で、愚者っぷりがさらに強く出て、路銀を失い、本来であれば宿で養生するべきなのだが…‥‥ここは温泉都市。
温泉とくれば様々な湯があり、この愚者が浸かるべきなのは湯治できるところなのだが、それに入る気はない。
そう、この愚者王子、女湯に忍び込もうとしているのだ。
とはいえ、温泉都市ゆえに種類が多く、どこにどのようなものがあるのか把握しきれない。
それに、この都市には温泉好きのモンスターが多く、万が一にでもやらかせばそれこそ一巻の終わりであろう。
今頃、護衛の騎士たちはこの愚王子がいなくなったことに気が付き、慌てて探しているのだが‥‥‥
「何にしてもここもちょっとな。良い美女がいねぇな」
一応大けがを負っているはずが、スケベ心というか、そう言ったもので全然平気な王子。
今まさに、地獄へ飛びこもうとしているのだが‥‥‥その事に気が付くのはもう少し後の事であった。
温泉を巡る一方で、不届き者もあらわれる。
そしてまさに、やらかす直前。
温かいこの場が冷え込むのは…‥‥
次回に続く!!
……というか、この人絶対に覗くだけじゃすまない気がする。




