#183 ずぼっとなのデス
SIDEシアン
朝、目が覚めるとハクロに抱き着かれていた。
相も変わらずぐっすりと熟睡しており、むにゃむにゃとしている様子は可愛らしくもある。
というか、べっとりくっ付かれるとその分色々と押し当てられるなぁ…‥‥まぁ、暖かくて柔らかいから良いか。
「ん?でも、なんか明るいような」
ふと気が付いたが、窓から入り込む光の量がいつもより多い。
何かに反射して、光が集まっているのだろうが…‥‥まぁ、大体予測はできる。
ちょっと見たいのだが、ハクロにしっかりと抱きしめられているから解放されない。
いや、したくともできないなこれ‥‥‥2度寝の誘惑というか、沈み込むというか、人をダメにするクッション的な癒し感がある。
「んー……僕も抱きしめ返そうかな?」
そう思い、体の向きを変えつつ、凶器にもなり得る双丘よりも上に顔をやり、彼女を抱きしめ返した。
なんというか、当たる双丘がすごいけど、こうやって抱きしめ返すと彼女の温かさが良く伝わってくる。
「ふふふ、ハクロ温かいね」
【んにゅぅ……シアン……】
答えるように言うハクロではあるが、まだまだぐっすり寝ているようで目がつむったままだ。
無防備な寝坊助さんに、ちょっとだけいたずら心が湧いてくる。
「えいえいっ」
ぷにぷにっとほっぺをつつくが、全然起きない。
彼女のこの熟睡ぶりはもう十分理解しているが、良くこの状態で野生で生きていた時期があったなぁと思った。
・・・いやまぁ、彼女の話を聞く限り、群れでは大事にされていたようだし、流石にある程度は見の守りもあったのかもしれない。
今一緒に生活しているからこそ、彼女の自身も安心して、こうも無防備になってくれるのだろう。
と、思いたい。
何にしても、ハクロが目覚めるまでの間、ちょっとばかり彼女をつつくなどのいたずらを仕掛けていたが‥‥‥まぁ、天罰が下った。
【んにゅううう…‥‥ぐにゅ‥シアン?何をしているんでひゅか】
「あ」
ちょっと両手でぶにゅっと押したところで、目覚めてしまった。
寝ぼけながらも、はっきりとこの状況を理解したようで、ちょっとばかり背筋に寒気が走った。
「‥‥‥いたずら☆」
【なるほど…‥‥ではないですよ】
ごまかすように言ったが、どうも意味をなさなかったようだ。
【仕返しです!】
「ちょっ、ハ、もぐっ!?」
ぎゅうううっと急に抱きしめられ、しかも頭を下げられて彼女の豊かな双丘へ顔をうずめられた。
柔らかく、温かく、包み込まれるような感触。
けれども、少し経てば息苦しくなり、タップするも自然の弾みで意味をなさない。
「ぬー!!もがー!!」
【ふふふ、私だって学習していますからね。どの程度で限界なのは分かってますし、そこで離しますよ】
顔は見えないがニヤリと言っていそうな口調から、どうやらばっちりとそのあたりの知恵を彼女はつけていたらしい。
だてに数回以上、これでやらかしてはいないと言う訳であろうか…‥‥いや、学習遅いような気もしなくはないな。もっと早く身につけてほしかったかも。
何にしても、この状況はハクロの方が有利‥‥‥なように見えるが、彼女は大事な事を見落としている。
「もが‥‥‥もがぐごが」
【ん?何を言っているのでしょうかシアン?それだと全然わかりませ‥‥‥あ】
口を防がれているので言葉を成していないことに、ハクロは首をかしげたが、すぐに気が付いたようだ。
……忘れがちだが、僕の扱う魔法は無詠唱型。
イメージがはっきりしないと発動はできないが、長ったらしい詠唱などは説明せず、その魔法名だけで発動できる。
そして、こうやって口を防がれてはいても、ある程度はできているものである。
【えっと、そのシアン、元々あなたのやった事ですので、私には非は無いというか、その、えっと】
「もがぁ(確かにそうだろう)。もが、もがががっつが(でも、これある意味窒息死させかけているからね)」
意図に気が付いたのか、慌てて弁明に入るハクロ。
けれども、僕をギュット押し付けた状態なままであったがゆえに……
「もがー(正当防衛)。もがーっく(『スパーク』)」
【ひ、ひやあばべべべべべっべべべべべべべべべ!!】
いつもは氷や水の魔法が多いが、別にそれ以外が苦手なわけではない。
ひとまずは、簡易的なものを利用するのであった。
「…‥‥おはようワゼ」
「おはようございます、ご主人様。っと、ハクロさんは?」
「ハクロなら、二度寝だよ。もうちょっとしたら起きるよ」
「そうですカ」
朝食の時間となり、ちょっとばかり余波で焦げた煙のにおいがするも、起きてきた僕の言葉を聞き、納得したようにうなずくワゼ。
まぁ、間違ってもない説明なのだが、これで納得されるのもどうなのだろうか。
何にしても、朝食へ移りつつ、気絶したハクロに関しては後でしっかり起こしに向かうのであった。
「‥‥‥あー、やっぱりなんか明るいなと思ったら、こういう事か」
【一面、雪景色ですねー】
着替え終え、外へ出て見て、朝のその明るい原因を僕らは見つけた。
周囲一帯、見事に雪景色。
ありとあらゆるものが白いキャンパスに覆われ、一部はワゼたちが雪かきされてはいるが、それでも見事な光景である。
この雪が日光を反射したのだろうけれども…‥‥晴れているのにすごい寒い。
朝はちょっとやらかしたとはいえ、直ぐに仲直りをしつつ、互にぴとっとくっついて暖をとる。
正確には、ハクロの蜘蛛部分に乗せてもらい、背中にくっ付いているのだが‥‥‥そんな彼女の高さから見ても、やはり相当深そうな雪だ。
「なんというか、結構深くないかな?」
「ええ、それなりの深さがあるようで、ちょっと注意したほうが良いデス。あと一つ、ご主人様に知らせておくことがありマス」
「というと?」
「ドーラが見事に埋没し、現在行方不明デス」
「…‥‥うわぁ」
言われてみれば、庭も埋め尽くす雪であり、そこにいるはずのドーラの姿が全然見えない。
植物なのかモンスターなのか分かりにくいドーラが、どうもこの下に埋もれてしまったようだが……全然場所が分からない。
「まぁ、ドーラのことだし地中に潜っているとか対処していそうだけどね」
「その可能性はあるカト」
正直言って、ポチも相当だけどドーラも結構適応能力が高そうだからね。地熱を利用して奥深くに潜っている可能性もあり得るだろう。
もしかすると、実はすでに雪の上に出ていたりして。
しかし、これだけの見事な積雪は、そうそうお目にかかれないだろう。
そこでふと、僕はある事を思い出した。
「そう言えばフェンリル一家も大丈夫かな?」
「現在確認作業中デス」
数体のミニワゼシスターズを派遣し、安否の確認をしているようだ。
雪上用の装備なのか、いつものフォルムが変更され、重装備のキャタピラが見える。
あと、除雪車とかつけるような大きな雪かきを前の方に装備しており、動くたびに道ができていた。
「セー!」
「ファー!」
一人じゃ無理なところは、重連で対応し、ごそっと雪がそがれていく。
道が脇に寄せられ、道の端は雪の壁と化していく。
「なんかしっかりと除雪できているけれど…‥‥まだ時間がかかりそう?」
「ええ、流石に私たちでもこの雪の量は初めてですし、まだ不慣れデス。都市へ向かえる状態にするには、半日はかかるかと思われマス」
「んー、早くし過ぎなくてもいいし、無理しない程度にね」
「了解デス」
とにもかくにも、今日は魔法ギルドにも出向けなさそうだし、今は家の周囲で遊んだほうが良いかも。
「とりあえずは、雪合戦でもしようか」
【そうしましょう!】
僕の言葉に、ハクロが既に用意していた雪玉を抱えて答える。
遊ぶ気は満々だったようで、その準備の良さにちょっと呆れつつも、まぁ悪くはない。
「あ、ワゼも混ざる?一応、火器は無しで」
「ふむ、ではご主人様の言う通り、私も混ぜてもらいましょウ」
流石に、腕を変形させて、機関銃のごとく雪玉を打ち出されると圧倒的過ぎるからね。
ある程度の制限をかけつつ、僕らは雪合戦を楽しみ始め‥‥‥‥
ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
【ひゃぁあああああああ!?】
「…‥‥ふむ、素手でも連射できますネ」
「ハクロが一瞬で、雪に埋もれただと‥‥!?」
……もう少し、手加減をしてもらう事にしたのであった。
というか、両手で交互に目にもとまらぬ速度で雪玉形成、機関銃のごとき連射って、ワゼのスペック、ちょっと上がってきてないかこれ?
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SIDEミニワゼシスターズ:フェンリル一家安否確認部隊
「ツー!」
「スー!」
森の中、雪に埋もれた大地を駆け抜けるのは、シスターズの2体、ツヴァイとドライ。
彼女達は足を雪上用キャタピラへと変形させ、フェンリル一家の安否確認のために爆走していた。
フライフォルムで飛んでいくのもありだが、期間限定とも言えるこの雪上は走ったほうが面白そうだという理由で爆走しているが、一応周辺の事を配慮して、むやみやたらに雪を飛ばすような真似はしていない。
「ツ!」
そうこうしているうちに、目的の一家の場所へ近づいたので速度を落とし、ゆっくりと接近した。
【ガウ―!!】
【ガウガウガー!】
【ガオーン!】
「ツー」
「スー、スス」
見れば、フェンリル一家のだいぶ大きくなった子フェンリルたちが雪の上で遊んでおり、ゴロゴロと転がったり、潜って飛び出すなどしている。
【おや、あれは‥‥‥】
っと、声が聞こえたので見れば、そこにはフェンリル一家の母親、ロイヤルがいた。
「ツー!」
【ふむ、あちらから心配されたので来たのか。でも、大丈夫だ】
カクカクシカジカと伝えたが、どうやら一家に変わりはないらしい。
これでも神獣、たかが気候変化に負けることはないようだ。
「ス?」
【ん?ああ、あの大きな雪玉か?あれは夫なんだが…‥‥色々あってね】
ポチが頭だけを出して、雪像と化していた姿にドライが気が付き、尋ねて見たところ、ロイヤルは苦笑していた。
なんでも、一晩でこれだけ積もった雪で、子どもたち異常にハイテンションではしゃごうとしていたのだが…‥‥運悪くというか、足を滑らせて気に激突し、雪に埋もれてしまったようである。
何処をどうしてか頭だけは何とか出せるが、これ以上動けない。
「ツ‥‥」
「ス‥‥」
そのあまりのマヌケっぷりに、ツヴァイもドライも笑いをこらえる。
あれでも一応神獣フェンリル、それなりに格はあるのだろうが…‥
【ぶえっくしょい!!】
「ツ、ツツツツツツツ!!」
「スースススススス!!」
くしゃみをし、鼻水をでろんと流した姿に、耐え切れずに笑い転げる。
【まぁ、あんなのでも夫だからなぁ…‥‥あまり笑わないでくれ】
苦笑しつつも、それなりに気遣っているらしいロイヤル。
けれども、その情けなさにはため息が出ているようであった。
【そうだ、ついでに子供たちとちょっと遊んでいくかい?】
「ツ?ツー……ツ!」
「ス、スー!」
ロイヤルの提案に対して、ツヴァイたちは乗る事にした。
とはいえ、今はまだ安否確認のための任務に来ただけであり、先に報告したほうが良い。
そういう訳で、一旦帰還してからと思い、方向転換して家に向けて戻ろうとした……その時であった。
【ガウーーーーー!!】
「ツ?」
ふと、何やら子フェンリルの一体が、駆け寄って来た。
様子が妙なので見れば、何かを背負ってきている。
【ん?何を背負って来たんだ?】
ロイヤルが子フェンリルに近づき、ツヴァイたちも近づく。
子フェンリルはその背中に乗せていた物を降ろし、皆に見せた。
【ガウッ!!】
【ほぉ、これは見事な氷塊だね。齧って遊ぶためにとでも…‥‥ん?】
そこでふと、ロイヤルはその氷の塊に顔を近づけた。
一見、ただの大きな氷の塊。
けれども…‥‥その内部に、影があった。
【何か入っているな?でも、あたしたちでは溶かせないし……】
「ツー?」
「スー」
ツヴァイ、ドライもその中に何かがあるのを見つけたが、自分達では取り出せない。
「ツ……ツ!」
と、考え込んでいたところで、ポンッと手を打って何かを思いついた。
「ツーツツツ、ツー!」
「ス?スース」
【ふむ?持って帰って溶かしてみると?なるほど】
ここでは無理だが、家で有れば溶かす手段は色々ある。
なにやら中身が気になるし、とりあえず皆でシアンの家に一旦向かうのであった‥‥‥
何やら見つけ出した、奇妙な氷塊。
中に何かがあるようだが、良く分からない。
とりあず、一旦持ち帰ってみることにしたのだが‥‥‥
次回に続く!!
……『雪上用キャタピラ』:普段のフォルム変型に組み込み、この雪上でも対応可能なようにした……というのは建前で、水中での合体時に使っていたものを流用しただけだったりする。
『除雪シスターズスカート』:除雪機の役目を果たす角ばった衣服。ある程度の雪を思いっきり押し出せるように設計されており、場合によっては高温で溶かすことも可能。




