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#180 お仕置き方法デス

SIDEシアン


……治療薬も出来上がり、研究所から拝借したものの安全性なども確認し終え、僕らは治療に当たった。


 幸いにして、中途半端な出来のウイルス型モンスターであったために、後遺症もなく皆回復した。


 余った分や、その他できた治療薬に関しては、人道的理由‥‥‥と言うよりも、せっかく治療できるのだから、治せる範囲でやってしまえという事で、真夜中に散布し、感染していた者たちは翌日、回復しきり、元気になっていた。


 まぁ、それはそうとして‥‥‥‥



「とりあえず、今回のあの移動方法は想定外な部分があったらしいとは言え‥‥‥‥流石に本気で辞世の句を読みそうになったからね。きちんとお仕置きをするよ」


 皆が回復し切り、いつもの日常へ戻ったところで、ワゼへのお仕置きを僕は実行した。




 メイドゴーレムである彼女に対しては、普通のお仕置きは今一つ。


 一応、僕自身癌とか無事だったとはいえ、流石にないわけにもいかず、ある程度考えた末に実行したお仕置きとして…‥‥




【‥‥‥シアン、これってワゼさんにとって、お仕置きになっているのでしょうか?】

「あー‥‥‥いや、十分なものになっているみたい。ほら、あの顔……」

【予想以上に効いてますね】



 示した先にいるワゼの表情を見て、ハクロが驚いたような声を上げた。




「ぐぐぐ…‥‥め、メイドとしてこれは…‥‥きついデス」

「ダメだよワゼ。しっかりと今日一日は遊んでおいで」

「うっぐっぐっぐっぐ‥‥‥‥」




【‥‥‥一応、連れていく意味でやって来たのは良いが、あの恐怖のメイドがあそこまで辛そうな顔、初めてなのだが‥‥‥】

【そうですよね…‥‥ワゼさんにとって、まさか一番効く方法がこれとは驚きですよ】


 ポチの言葉に、ハクロ自身もまだ信じられないような声を出す。


 そう、今日一日、ワゼは暇を出された。


 命令として出してはいるが、「本日はメイド業絶対停止※監視がなくともやってはいけない」と出しつつ、メイドとしての誇りでもあるらしいメイド服から、ワゼのスタイルに合わせたワンピース風の衣服に着替えさせ、遊ばせることにしたのだ。


 「メイドゴーレム」…‥‥つまり、メイド業を行う事を支えとしているような彼女にとって、そのメイドを一時的に辞めさせられるという事は、非常に辛い事らしい。


 しかも、自慢のメイド服も着替えさせられてしまい、格好からすでにメイド脱却をしてしまったワゼにとっては、微妙な羞恥心などもあるようで、どうも落ち着かないらしい。



……まぁ、簡単に言うのであれば仕事中毒(ワーカホリック)に暇を出すだけのようなものだけどね。十分効果は抜群のようだ。


 ついでに言うのであれば、本日行うお仕置き2つの1つ目だったりする。あと一つは、このお仕置き終了後にすぐ終わるものとはいえ、多分これはこれで効果的であろうものを用意しているからね。



 とにもかくにも、本日はメイドという仕事から離れてもらい、ワゼには一人のメイドではない女性としての楽しみを味わってもらうのであった。


 お仕置きっぽくはないが…‥‥あの様子だと、既に相当堪えているなぁ‥‥‥‥まぁ、帰ってきたら2つ目の方を実行するための準備もしておこうかな。





――――――――――――――――――――――――――

SIDEワゼ


「‥‥‥‥ぐぐぐぐっ‥こ、こんなにも辛いお仕置きとは‥‥‥‥ご主人様にも、冷酷に下せることがあったのですネ」

【いや、それはどうなのか‥‥】


 ひとまずは、メイド業を休ませられ、適当な都市で遊ばせるために向かう馬車の中で、ワゼがそう唸ったのを聞いてポチは呆れたように答えた。


 ポチ自身、ここまで辛そうなワゼの表情は見たことが無い。


 今まであんなにもひどい目にあわされてきた身であり、こういう顔を見るのはちょっとは愉悦に浸れるかも…‥‥と思っていたが、そこは一応神獣。


 ざまぁ、などとは言えず、何となく憐憫を覚えたのであった。


・・・というよりも、言った瞬間に死が見えているので言う事ができないだけという理由もあったりはする。




 とにもかくにも、本日は都市アルバスではなく、適当なところへ遊びに向かうというだけなので、行先はポチが適当に決めた。


【まだ森に住んでいなかったころ、風の噂で人間たちの話を聞くことがあってな、遊べそうな都市というのには大体見当がついている】

「ふむ……そういう遊べそうな都市はご主人様たちの方に‥‥‥いえ、今の私はメイドではなくただの少女。考えないようにしましょウ」

【‥‥‥”少”女?】


 ゴーレムという立場で、それが当てはまるのかとポチは疑問に思った。


 だがしかし、深く問いかけないほうが良いと、留めるのであった。







 そうこうしているうちに、目的の都市へ到着した。


【ここが、遊べそうな都市と聞いたことがある場所であった‥‥‥‥が、あれ?】

「‥‥‥滅茶苦茶廃れていませんカ?その噂、いつぐらいのものデス?」

【んー……数十年前?】


 数十年という歳月で、ここまで都市は廃れるものであろうか?


 中に入ってみれば、人影はまばらであり、閑散として物寂しい雰囲気が漂う。


 商店街なども、かつてはにぎわっていたのか数多くの店は存在するも、どれもこれも既に閉店しており、開いている店が見当たらない。



「…この国で、この閑散ぶりは珍しいですネ」


 今いるこのボラーン王国は、ちょっと前に戦争があったりしたが、そうそう廃れるような国ではない。


という事は、この都市は…‥‥



「ちょっとすいません、話を聞いて良いでしょうカ?」


 ある事が想像できたので、適当な人にワゼは声をかけた。



「お、おおう?この辺では見ない嬢ちゃんだな?」

「ええ、ちょっとここに寄って見ようかと思って来たのですが‥‥‥ここ、すごい廃れていませんカ?」

「ん?ああ、そうだ。この都市はな、数年前にちょっとやらかして、こうなっちまったんだ。気になるなら話してもいいが‥‥‥ちょっと長いけどいいか?」

「大丈夫デス」


 都合が良かったというべきか、どうやら話をしてくれるらしい。


 ひとまず立ち話も何なので、適当に閑散とした市外にあった、ボロボロのベンチに腰掛け、その人からワゼは話を聞いた。





・・・いわく、かつては確かにこの都市は栄えていた都市であり、数多くの商業施設があって、人々が多く集まり、活気あふれるところであった。


 だがしかし、数年前にある事が起き、そこから都市は没落したのである。


「なんというか、この都市を収めていた領主様が倒れてしまってな、その代理としてその親戚筋からある男がやって来たんだが…‥‥それが最悪だった」


 元々、特に何もしなくとも、この都市は人々の手によって運営されており、当時の領主はそこまで深くかかわりもしなかったが、人々との交流を重点に置き、良い関係を築き上げていたらしい。


 けれども、その領主代理とやらが見事にその関係をぶち壊した。


 元々、その代理は何処かの貴族家の3男辺りで、当主の座を継ぐことはできなさそうなので、ここで経験を積ませて、ある程度成長させ、可能性を広げようとする目的があったらしい。


 だがしかし、その領主代理はどうも野心が強かったのか、ここで大成功を上げて次期当主になろうという思惑があったようで、無茶苦茶な都市運営を始めてしまったのである。


 住民たちは当然のことながら反対をしつつ、関係を壊したくないので折衷案なども出したりしたのだが、領主代理はそれを気に喰わず、耳にも入れず、確実に成功すると言い切って、借金をしてまで行使したらしい。


 でも、見事にそれらはすべて大失敗に終わり、都市の機能そのものまで滅茶苦茶になって運営がうまくいかなくなった途端、その領主代理は逃亡した。


 自身の立場が非常に不味くなったのを悟ったのか、実家に戻らず、行方不明。


 あとに残されたのは、大事なところをことごとく破壊されてしまった都市だけであり、人々は絶望したのである。



「何とか病が回復し、領主様が戻って来てくれたが…‥‥それでもどうにもならない酷いありさま。一生懸命になって国にも掛け合い、ようやく再建のめどが立とうとしたところで…‥‥」


 国からの支援金なども取り付け、ようやく都市を復興できそうだとした矢先に、その領主は心労のせいか、突然倒れた。


 相当無理をしていたようで、都市の住民たちが見舞いに集まり、なんとか国の支援金も届き、これを元手にしてやっていけるぞとなっていたところで…‥‥


「そこにまた、あの馬鹿がやって来た。いや、元凶とも言うべきだったようだ」




 行方不明になっていた領主代理が、ある晩突然押しかけて来た、


 その傍には大勢の仲間たち、というよりも盗賊たちがおり、せっかく得た支援金をかっぱらい、再びすたこらさっさと逃げてしまったのである。


 当然、国はこれを指名手配し、なおかつ再び支援金を送り直しつつ、都市の再生を願ったそうだが、この騒動の最中で火を付けられていたようで、あちこちで火災が発生。


 全焼し切らなかったものの、被害は大きく、そのショックで領主はぽっくりと逝ってしまった。




「‥‥‥そして、領主様の亡き後は、人々はこの都市から出て行った。後に残るのは荒廃した場所だけだ」

「‥‥‥なるホド」


 話も終わり、とりあえず礼を言って別れる。


 念のために、話の整合性を高めるために他の人々にも尋ねて見たが、全部同じ。


 領主代理は未だに捕まっておらず、何処かの盗賊団に堕ちている可能性の方が高いらしい。




「‥‥‥遊ぶために来ましたが、まさかこんなところへ来てしまうとは…‥‥ついてないですネ」


 とはいえ、今の彼女はメイドでもないただの少女であり、どうすることもできない。


 きほんてきにご主人第1主義なので気に留める必要もないが…‥‥それでも、何となく放置はできない。



「シスターズを使って、後でミスティア王女様へ連絡でもしましょうカ」


 あの第2王女は民衆を気にかけ、積極的に動くことを彼女は知っている。


 護衛のシスターズ、フィーアの連絡なども定期的に受け取っており、信頼に足る人物であることは確認していた。


 

「ですが、その前に…‥‥メイドではないですが、掃除もしておきましょうカ」


 遊べそうにないので都市を移動しようと馬車へ向かう中、くるっとワゼが振り返ると、そこには数人の人影があった。



「んんん?気が付きやがったのか?」

「ええ、バレバレでしたヨ」


 見た感じ、どうやら話にあった件の領主代理とその愉快な仲間たちのようである。


 どうも都市内に潜んでいたようで、おそらくは…‥‥


「たまに訪れる者で、襲いやすそうな方々を狙っていたのでしょうカ?」

「なるほど、そこまで読まれていたか」

「だが、たった一人の女で、この人数を相手にできるのか?」


 下卑た目線でワゼの体を舐めまわすような視線に、ワゼは不快を覚える。


 今の彼女には、防御服にもなるようなメイド服もないし、見た目的には襲いやすそうな女性なのだろうけれども…‥‥それは見事な勘違い。


 

「楽勝デス」


 そう言ってワゼは、ガシャンッと音を立てて、腕を変形させたのであった。





……数分後、偶々通りがかった住民がそれを見つけ、他の者たちへ呼びかけに走った。


 それは、見事に悲惨な状態にされつつも、辛うじて息がある領主代理とその仲間たち。


 衛兵へ引き渡すこともできたが…‥‥全住民、恨みを持っているので引き渡すような真似はしなかった。


 彼らに待ち受けた地獄は、言うまでもない。






――――――――――――――――――――――

SIDEシアン



「‥‥‥で、結局遊んでないの?」

「遊ぶことも、ありませんでシタ」


 ワゼが帰宅してきたので、何をしてきたかなと問いかけて見たところ、どうも遊べるようなことが無かったらしい。


 むしろ、何か不快な事があったようだけど…‥‥何があったのかな?


「でも、何もしていないというのは、お仕置きにならないからなぁ…‥‥」


 うーんっと考えこみつつも、とりあえず用意した第2のお仕置きに移すことにした。



「ワゼ、ちょっと目をつむって」

「ハイ」


 ワゼに目をつむってもらい、ハクロの手によってある物が設置された。



「目を開けて」

「ハイ・・・・・っ!」


 目を開け、ワゼはその状況がどうなったのか、理解したようだ。


「これは‥‥‥‥」

「ああ、本物じゃないけどそれっぽい質感を持たせた風船だ」


 ワゼの胸部に備え付けられたのは、2つの大きな風船。


 服の内側から膨らませており、偽物とは言えあるように見える。



「で、プスッとな」


パァァァァァァァン!!


 確認したところで…‥‥素早く針で、僕は風船を破裂させた。


 




……風船が割れる時の音は、わりと驚きやすいものである。


 けれども、このメイドはそうそう驚くものではないが…‥‥見た目的に、コンプレックスを持っているのは良く分かっているので、そこを刺激する形の破裂ならばどうなのか。


 夢が膨らみ、それが一瞬にして奪われた瞬間はどうなるのか。







 まぁ、正直大したお仕置きにはならないかも‥‥‥‥と思っていたが、それは間違いであった。


 数秒ほど、ワゼは何が起きたのかわからないような顔になり、動きがとまる。


 そして、さっさと手を動かし、状況を把握した。



「…‥‥無くなって…‥‥偽でもあったのが…‥‥無くなって‥‥‥‥え、え、え…‥‥」

(……あれ?)


 ぶつぶつと口にし始め、何か様子がおかしい事に僕は気が付く。


 そして数分ほどそれを繰り返したところで…‥‥ワゼが倒れた。





「…‥‥ワゼ?」

【もしかして…‥】


 皆で近寄って、彼女をよく見れば…‥‥彼女は、絶望した表情で気絶していた。


 メイドゴーレムが気絶するのかはさておき、どう考えてもこれは…‥‥


「効きすぎちゃった?」

【そのようですね】


 ふわ~いっと魂が抜ける様な状態になって、ぶっ倒れているワゼ。


 どうもこのお仕置きは、彼女の精神的なところを強く刺激しすぎたようで、許容量を超えてしまったらしい。




……それから1週間は、ワゼは自室からでなくなり、引き籠ったのであった。



「…‥‥相当、精神的に来たのか」

【そこまで気にしていたのでしょうか?これ、ちょっと重かったりして大へ、】


ドウッツ!!

【んっ!?】

「ハクロが吹っ飛んだ!?え、何をやられたんだ今!?」




自己改造すればいいと思うが、そういう問題ではないらしい。

メイドゴーレムとは言え、しっかり人間らしいところが形成されているのだろうか。

何にしても、次回までに出てきてほしいところである。


……吹っ飛んだ原因:扉前トラップ(前のエンジンモドキ逆噴射)。

気にしているのであれば、改造すればいいとは思うが…‥‥それをしたら何か負けたような気になるのだろうか?

何にしても、迂闊に言ってはいけないと再認識するのであった。

というか、作者の方にも被害あり。次元を超えてのものかと一瞬疑いたくなるタイミングで、書き終えたすぐ後に、足を延ばしてぐぐっとしたら、こむら返り?足つった。

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