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#163 惨劇よりもほのぼのが好きなのデス

SIDEハクロ


……シアンがワゼと共に殲滅行動を開始したその頃、ハクロは試合に出ていた騎士たちの控室の中でも、ヴェールヌイ騎士王国の女性騎士団へ用意されていた部屋の中に入っていた。


 通常であれば、勝手に観客が騎士たちの控室へ入出は安全管理上できないのだが、今回は騎士の方、ルルから許可が出たので、入る事が出来たのであった。


【姉さん!試合見ましたよー!】

【おお!!どうだった、どうだった?私の試合は騎士らしくできていただろうか?】

【迫力がすごかったので、多分そうかと!】


 意気揚々と話しかけるハクロに対して、ルルは尋ね、互に会話が弾む。


 昨日以来の再会だが、それでもやはり姉妹のような仲の良さなので、会えるのに嬉しい事は変わりはない。


 

「あのー、団長、こちらのかたは?」

【ん?ああ、私の妹のようなものだ】

「団長の妹?」


 控室には他の女性騎士たちもおり、ルルに問いかけ、ハクロの事を知って驚く者たち。


「種族が違いますよね?」

【まぁ、そうだな。元々違う群れにいたけど、ある期間の間、世話をしていたりしたんだ】

「うわぁ、綺麗な人…‥‥なんか負けた感じが」

「何を食べたらここまで大きく…‥‥いや、うちの団長も鎧で隠れているけど、はじけるほどでかいし‥‥」

【おい、どこ見て言った?】


 興味津々とばかりに、彼女達の周囲へ女性騎士たちは集まる。


 彼女達が慕う騎士団長の妹のような存在。


 生真面目な性格の団長と同じかと思いきや、実際に話してみれば結構違う。


……まぁ、その美しさも方向性が違うとはいえ、その美貌に同じ女性として心の中でほのかな嫉妬の炎が着火される者たちもいたが。


「あれ?えっと、団長の妹のハクロさん。あなたもモンスターですよね?」

【そうですよ】

「団長とかはいいとして、一人、いえ、一体?だけで行動しているのでしょうか?」

【ええ。一応、使い魔扱いなのできちんと許可を取っているんですよ】

「使い魔?え、誰か主がいるということなのですか?」

【そういう事です。まぁ、主というよりもつがい相手なのですけれどね】

「「「え?」」」


 そのハクロの言葉に、その場にいた女性騎士たちは目を丸くした。


「つがいというと…‥‥つまり夫?」

「こんなきれいな人だから、そりゃ夫を捕まえていても良いんだけど…‥‥」

「団長の妹さんにつがいがいて、団長は独身なままなのか……」

【何か文句でもあるか?】


 ぼそっとつぶやかれたその言葉に対して、ルルが睨むと全員首を横に振って否定する。


 それでも、この場にいる女性騎士たち、皆それぞれ国に忠誠を誓い、騎士という立場にいても結婚願望がないわけではなく、一気にハクロが勝ち組のように見えたのであった。


【まぁまぁ、姉さん。皆怯えてしまいますよ】

【ぬぅ、そう言われると抑えるしかないか…‥‥(後で10周ぐらい走らせるか)】


 ルルをなだめるハクロ。


 とは言え、ぼそっとつぶやかれたその言葉はしっかりと女性騎士たちに伝わっており、発言に後悔するのであった‥‥‥‥。




「あれ?でもそのつがいとか主とか言う人はどこに?」

【ちょっと用事で今席を離れているんですよね。でも、次の試合あたり‥‥‥私達の知り合いが出るので、その応援には間に合わせるようですよ】

【ん?次の試合というと…‥‥これか。ああ、こちらの副団長が出る試合だな】

【副団長?それはどなたでしょうか?】


 ルルの言葉に、ハクロは控室の中を見渡すが、それらしそうな人物は見当たらない。


 あるとすれば、試合が無い、もしくは終わったので脱いで整頓された鎧とか剣ぐらいなのだが‥‥‥



【ああ、それなら今は寝ているんだ。何しろ本来は夜の方が本領発揮できる奴だから、今のうちに寝て試合に備えているんだよ】

【そうなのですか?】

【と言っても、寝床にいるわけじゃない。ちゃんといるぞ】

【え?】


 その言葉に、ハクロは首をかしげる。


 指をさされたところにあるのは、整理整頓された鎧置き場程度。


 だが、そこでふと彼女は気が付いた。


 そこに置かれている鎧はほとんどが傷がつきつつも丁寧に修理されていたり、磨かれていたりして金属光沢を放つ、銀色に近い色合いをした鎧ばかり。


 だがしかし、一つだけその鎧は異なっていた。


 銀ピカな金属のような鎧ではなく、赤黒く、何処か禍々しいような気配を漂わせる全身鎧。


 兜は外されているのだが、その兜は何故かふかふかのクッションの上に置かれている。


【…‥‥えっと、まさかですけれども姉さん、あの鎧がその副団長なのでしょうか?】

【そのまさかだ】


 ハクロの問いかけに、ニヤッと笑うルル。


【今は眠っているが、彼女がこの女性騎士団副団長、アンデッド系モンスターの中ではトップクラスにいるとされる種族の一つ…‥‥デュラハンのララだ】


 その言葉を聞き、ハクロは驚いた…‥‥が、すぐにその驚きは冷めた。


【あー‥‥‥考えて見れば、姉さんもケンタウロスなのに騎士として働いてますからね。確かに、それならば他のモンスターの方が勤めていてもおかしくないですね】

【ヴェールヌイ騎士王国は、騎士として働くのであれば、中々いい所だからね。とは言え、彼女はちょっとばかり経歴が特殊だけどな】

【特殊な経歴?】

【なんでも、数百年前にでた魔王とも一戦交えて見たとか‥‥‥‥】



……魔王。

 

 その言葉を聞き、表情を変えずにハクロは内心で再び驚いた。


 以前、どこぞやの神聖国とやらの人が、シアンに向けて言っていた言葉と重なったのだ。


 とは言え、数百年前の魔王となるとシアンとは別物であるだろう。



【…‥‥なるほど、なんか面白そうですね。試合が楽しみです!】


 色々と興味を持ったとはいえ、今はそんなことを考える意味もないだろう。


 魔王案件であればワゼに丸投げしたほうが良いと考え、ハクロはすぐに次の試合に対して楽しみであると伝えつつ、ルルとの姉妹会話を楽しむのであった‥‥‥。


興味深い話が出たが、聞くのであればシアンとワゼがいたほうが良い。

そう考え、気持ちを切り替えてルルとの会話を楽しむハクロ。

ほのぼのとした仲のいい姉妹の光景は見るものを癒しつつ、一方では種族は違うのに持つ者であるということで嫉妬する者たちがいたりするのであった。

次回に続く!!


……なお、女性騎士団第3小隊独身大半。見た目は良いが、男運が悪いというか恵まれないというか……。

職場は割とアットホームなホワイトなようだが、騎士として鍛え上げているぶん、人を見る目が付き過ぎてむしろえり好みしてしまっているだけではなかろうか、という疑いもあるらしい。

真面目過ぎるがゆえに、自ら逃しているのか…‥‥その謎は、多分分からないままであろう。

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