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#147 ちょっとだけ帰り道デス

SIDEシアン


…‥‥ファイスとの話し合いも終わり、僕らは家に帰るために馬車に乗っていた。


「魔王か……そう言われても、実感ないよな」


 ファイスから告げられた、僕が魔王かもしれないと言う言葉。


 いや、ほぼ確定事項なのだろうけれども、そのような自覚はないのだ。



 自身の身体を改めて見ても、人とは変わりない。


 人外の存在みたいな言い方でもあったが‥‥‥‥僕自身は、そう変わったとは思えないのだ。




 魔王とは、どのようなものなのか聞いても、まだわからないこともある。


 悪い方ではないと自信を持って言えるが、僕の場合は善でもない自覚というか、どちらかと言えば中立なような気がした。


「でもやっぱり、なんかショックでもあるんだよなぁ‥‥‥」


 人間という想いがどこかにあったせいか、やはり魔王と言われると衝撃はある。


 あの話し合いの場ではまだなかったが、時間が経ってじわじわとその事実に僕は目を向けさせられるのである。



【‥‥‥シアン】


 ふと見れば、ハクロが僕の側にいた。


「ハクロ??何を……うわっぷ!」


 ぎゅっと彼女に僕は抱きしめられた。


 柔らかかく抱かれ、安心できるような良い匂いもする。



【シアン、あなたは何か不安そうな感じがしますよ】


 そう言いながら、ハクロは僕を優しく抱き、言葉を続ける。


【ですが、シアンにとっては些細な事だと、私は思いますよ。魔王であろうと、何であろうと、シアンはシアンですから】

「‥‥‥そっか」

【ええ、そうですよ】


 その優しい言葉に、僕は不安が消えていくのを感じた。


 ハクロはなんとなく、僕が言いようの無いような不安を持っていることを感じて、このような行動に移したのだろう。


 このやさしさに、僕は彼女がより好きになった気がした。


【それに、今日の話で色々と知りましたし……シアンの前の家庭環境って、結構酷かったんですね】




…‥‥言われてみれば、今回は成り行きとは言え僕の前の家族の話をしたが、ハクロたちにはまだしたことが無かったかもしれない。


 隠していたわけではないが、それでも秘密にしていたようなものなので、ちょっと思うところが合ったのだろう。


「まぁ、色々と最悪な家族だったとはいえ、一応血のつながった人たちだったからなぁ…‥‥もう本当に、赤の他人になったけれどね」


 この世界の僕の身体は前世のものとは全くの別物。


 血縁関係ももうないし、他人なのだから気にすることはない。



「愛情もなかった、ひどい環境だったけれども…‥今はあるね」



 そう言いながら、僕は顔をあげて彼女の顔を見た。


 抱きしめられている状態だったので、少々その豊満な胸に邪魔されるが、それでも見れないことはない。


「ハクロ、その無かった愛情分、僕を愛してくれるかい?」

【ええ、そうしますよ。シアンが魔王だろうと何だろうと、私にとっては大事な人ですからね】


 ふふっと互に微笑み、じんわりと心に温かさが染みる。



「何にしても、魔王だろうとなんだろうと、僕は僕だし、これからも自由に生きていたほうが良いな」

【ええ、そうですよシアン。何もすぐに生活が変わるわけでもありませんし、これまで通り、普通に過ごせばいいんです】


 魔王だ何だと言われても、僕は僕。


 今ある幸せや大切な家族を守るために動くだけの、たった一人の人物。


 そう考えると、特に気にしなくても良い話題だったと思い、気持ち的に軽くなるのであった。






「…‥‥ところでハクロ、ふと思ったんだけどいいかな?」

【何でしょうか?】


 ハクロの温かさや柔らかさを堪能している中、ふと僕はある事を思った。


「もう群れは無いけれど、ハクロの群れでの家族ってどんなのだったかなって」

【…‥‥そうですね、一言で言えば、色々と優しい家族でしたね。ちょっと血の匂いがしたこともありましたが…‥】


 さらっと何か物騒な単語が出て来たが、元々のアラクネという種族を考えるのであれば、適切なのだろう。


【私の場合は、姉妹ばかりでしたからね。いえ、アラクネという種族上、仕方がない事ですが‥‥‥兄とかも欲しかったので、ちょっとねだってみたら、とんでもないことをやらかされもしました…‥】


 遠い目をしながら語るハクロであったが、その話題を出した途端に、何か頭が痛むような、物凄く黒歴史だったような表情をした。


「え、何が起きたの?」

【男装などもありますので、理想の兄のような恰好をしてくれる人たちが多かったのですが‥‥‥中には、ちょっとばかりはぎ取って皮を着た者もいて、少々トラウマなんですよね】

「…‥‥ごめん、それ以上その話は言わなくていいや」


 はぎとったって、何からはぎ取ったのか。


 色々と気になりはするが、深く追求したら絶対に不味い話題なような気がした。


【でもまぁ、基本的にみんな優しかったですよ。遊んでくれましたし、何かやろうとして私を関わらせないように配慮してくれていたりと、子ども心ながらわかっていたこともありましたが、それでも懐かしい思い出ですよ】


 アラクネというのは、通常残酷、冷徹、冷酷などと言われる種族。


 でも、ハクロの前ではそのような姿を見せずにいたようだ。


【…‥‥あ】


 そこでふと、ハクロが何かを思い出したかのように声を出した。


「どうしたの?」

【いえ、私がいた群れは冒険者たちによって討伐され、全滅した話はしましたよね】

「うん」

【考えて見たら、他のアラクネの群れとの交流もあったんですよね】


 何もアラクネの群れは、ハクロたちがいたものだけしかないとは限らない。


 人があちこちの町や都市に住むように、モンスターも同種族でも住む場所を変えていたりするのだ。



【で、その他の群れの中にいた姉さんを、今ちょっとだけ思い出したんですよね。‥‥‥まぁ、ちょっとばかり違いますが】

「どういうこと?同じアラクネじゃないとか?」

【ええ、そうです。アラクネという種族上、他の種族の雄を狙って動いていましたが、他のモンスターでも同様の行為を行うものって、結構あったりするんですよ。ハーピー、ラミア、サキュバス、ヴァンパイヤ…‥‥他にもいろいろありますが、その姉さんは礼節を重んじる、騎士のようなケンタウロスだったんですよ】


 ハクロいわく、そのケンタウロスの群れとも交流があったらしく、その中で仲を深めた姉のような人がいたらしい。


 一応、モンスターなので人という定義に入るかはともかく、とても優しい姉だったそうだ。



【そのアラクネの群れにいた理由としては、何でも武者修行の旅をしている中で、護衛代わりとして雇ってもらっていたそうです】


 他のモンスターが群れに紛れ込む例は色々とあるそうで、そう珍しい事ではない。


 いわば共生のような感じで成り立ち、うまい事共存できているのだとか。


【あの姉さんとはもう音信不通ですが…‥‥優しい人でしたし、また会いたくなりましたね。で、会ったら会ったで……シアンを紹介し、私のつがいとして紹介したいけれど、いいでしょうか?】

「まぁ、良いよ。会う機会があるかはわからないけれども、ハクロが世話になった人ならば、僕も気になるしね」


 ハクロにとっての、他の種族の姉さんか…‥‥僕の場合は兄がいたが、ロクデナシだったからなぁ。


…‥‥まぁ、もう赤の他人だが。というか、そう言えばファイスさん食べたことに関しての謝罪とか言っていたが、あの兄を食べたのか?どう考えても食えるものではなさそうなんだけど。


 


 何にしても今はこの家族を大事にしつつ、帰路につくのであった…‥‥




―――――――――――――――――――

SIDEワゼ


「…‥‥熱いですねぇ、ご主人様たちハ」

【なんとなく、疎外感を覚えるのか?】


 馬車の外、御者台にて、ワゼは牽引しているポチと話していた。


「ええ、多少は覚えますネ。私はメイドゴーレムですし、ご主人様の幸せを願うのであれば、これでいいのですが…‥‥正直なところ、あの微妙な微糖感はちょっと甘ったるいのデス」

【メイドがそれでいいのかと言いたいが…‥‥まぁ、多少は分かるだろう。我の方も、知り合いで劇甘バカップル神獣がいたからなぁ‥…】

「ほう、神獣でも同じ様な方々がいるのですカ」

【ああ。とは言え、文字通りその甘さで周囲を溶かす奴らだったがな。結婚祝いをしようと思ったが、危く死にかけたのはいい思い出だ…‥‥】


 どのようなバカップルなのか、色々とツッコミを入れたいワゼであったが、知ったところで意味もなさそうなので尋ねかった。


【しかし、馬車の中から聞こえてきたが‥‥‥‥その主か、シアンと言う者、魔王と言われたのか】

「ええ、そうデス」

【魔王か…‥‥そう言えば、あの赤爺が一度戦ったことがあるんだったか】

「ヴァルハラさんの事でしょうカ?」

【そうだ。なんでもその当時の魔王は悪だったそうで、色々と不味かったらしい。詳しい話までは知らないが…‥‥尋ねればおそらく教えてもらえると思うぞ】

「なるほど」

 

 魔王に関しての情報は少ないので、これは良い事を聞いたと、ワゼはほくそ笑む。


 とはいえ、話してもらうのに対価を払わないのもどうなのかとも思った。



(……さしあたり、特注の箱庭でも差し上げて聞いて見たほうが良さそうですネ。中身としては、あのヴァルハラさんの事ですし、ポチを鍛え上げる事が出来る、地獄の特訓が可能なセットにしましょうカ)

【っ!!なんか今、すごい悪寒がしたのだが】

「気のせいデス」


 ‥‥‥‥ブルっと震えたポチであったが、何なのかその時は分からなかった。


 だがしかし、数日後に身をもってその悪寒の原因を知る事になるのだが、それはまた別のお話。


「ポチさんって、足腰は強い方ですよネ?」

【ああ、そうだが】

(となれば…‥‥足腰を鍛えるよりも、全体的なバランスを考えたものにしたほうが…‥‥)

【‥‥‥なあ、本当に何もないのか?さっきから妙に寒気がするんだが】

「さぁ?近頃寒くなってきましたし、風邪かもしれまセン。処方箋を見繕ってあげましょうカ?」

【出来るのであれば、頼む】



 知らないほうが良い事もあるが、いずれは知ってしまうことでもある…‥‥‥







少々甘めな空間を作りつつ、まだその甘さを投入しようかと検討中。

されどもその前に一つ、閑話を入れたいところ。

何にしても、ポチの強制トレーニング(地獄)は決定済みであった。

次回に続く!!


‥‥‥書いていて思ったが、ワゼにも何か相手を作ったほうが良いのではなかろうかと検討し始めた。

いや、ご主人様至上主義なので異性の相手というよりも、何か腕を張り合えるようなライバルが良いかも?あくまでも予定なので、決定したわけではないが‥‥‥‥お試し的に、別の世界で出してみようかな。

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