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#140 来るときはあるのデス

SIDEワゼ


‥‥‥深夜のハルディアの森。


 シアンたちは家の中で眠っていたのだが、ワゼは起きていた。


 いや、正確には‥‥‥‥




「‥‥‥来ましたネ」


 ミニワゼシスターズも共に居る中、森の前に一台の馬車が停車した。


 そこから下車してきたのは、一人の青年。



 だが、それがただの相手ではないことを、ワゼは察知していた。



「‥‥おや?森の前に、何故メイドが?」


 その人物が歩いてきて、ワゼの姿に気が付く。


「ええ、それはこちらのセリフデス。深夜にここへ来る用事は何があるのでしょうカ?」



 互いに疑問の声を投げ合うが、答えは無い。


 いや、ミニワゼシスターズで手に入れた情報があるので、ワゼの方が有利なのかもしれない。



「‥‥‥まぁ、別にどうでもいい。あのくそったれ誘拐犯、げほんげほん、こちらの主からの用事で、この森にすむある人物へ、この手紙を届けろと言う事を言われたから、来ただけだ…‥‥どういう訳か、昼間に来るのではなく、深夜に向かえと言う話だったがな。眠いのに、なぜこの時間なのか理解に苦しむ」

「ふむ、まぁ同情しマス。…‥‥その人物とやらは気になりますが、手紙の配達ですカ」


 その森にすむ人物を指すのであれば、シアンの事であろう。



「その宛先は私のご主人様の方だと思われますが、深夜にここへ訪れても眠っておられマス。それにこの森には結界もありますし、たぶんその主とやらは貴方にちょっとした嫌がらせ、もしくは情報収集の大切さ、命令の解釈などでこの時間に訪れるようにしたのでしょウ」


 とにもかくにも、手紙をワゼは受け取った。


 怪しい罠などが無い確認し、しっかりと渡すことを告げる。


「では、これで一旦こちらは帰ろう…‥‥夜分遅く、済まなかったな」



 そう言いながら、相手は再び馬車に乗り、その場を去っていくのであった‥‥‥





―――――――――――――――――――

SIDEシアン



【むにゅぅ……はむはむ……】


 朝、目覚めるとハクロが僕の手を取って、口にいれて甘噛みをしていた。


 捕食本能が出て4日が経過したが、まだまだ収まっていないようで、自然に体が動くらしい。


 慣れたものだが、朝起きで横を向いてすぐに彼女がいるから、ちょっとどっきりしてしまう。



 というか、今日のはある意味すごい体勢である。


 天井にハクロの糸で出来た蜘蛛の巣が出来ており、そこに足をかけてのけぞってぶら下がっている状態。


 これ、起きたら足を滑らせてそのまま落ちそうな気がするが…‥‥そもそもどういう体の動かし方をしたらこの体勢になって、ここまで眠れるのであろうか。





 本能による体の動きに驚きつつも、放置はできない。


 しかも全体的に寝間着とかもお腹からめくれており、ちょっとばかり色々と不味い…‥



「どうしようかこれ‥‥‥」


 とりあえず手を解放してもらいつつ、このぶら下がった体勢で眠っている彼女をどうにか降ろさなければいけない。


「よっと」


 とりあえず、まずはだらんとぶら下がっている彼女の上半身胴体部分をつかんでみたが、簡単には動かない。


 

【みゅにゅ…‥んー……】


 と、本能が勝手に反応したのか、ハクロの身体が空中ブランコのごとくブランブランと勢いをつけて前後に揺れ動き、そのまま勢いをつけて‥‥‥


ばっ!!


 糸から足を放し、空中で一回転をして体勢を立て直しつつ……


がしぃっ!!ずん!!

「ぐえっ!」


 目もつぶっているのに、どうやって感知しているのか僕の身体を正確に捉え、人の足のようにも見える食指を開き、僕の身体を足で抱え込むように捕え、押し倒した。


 盛大に押し倒され、背中を打ったショックと食指で来た抱きしめの衝撃に体が固まっている間に、角度を変えて手が僕の背中へ回された。


 逃がさないようにしっかりと抱え込み、その豊満な胸が押しつけられ、柔らかさと温かさを感じさせられつつ、その口が開き…‥


【はむっ!!】


 首筋へ向けてカプリと甘噛みをしてきたのであった。







【‥‥‥‥本当にごめんなさい、シアン…‥‥うううっ】

「いや、別に良いんだけど‥‥‥‥なんかエビのように真っ赤になっているよ?」


 数分後、目覚めたハクロはこの状況を即座に理解し、硬直した。


 そしてそう言葉を発し、真っ赤になった顔で謝りつつ、甘噛みを辞めない。


‥‥‥これ、誰が見てもハクロに押し倒された状況であり、ハクロから性的に襲い掛かっているように見えるもんね。


 羞恥心で顔を向けられないのか首を噛みつつ、ハクロは恥ずかしくて真っ赤になっている。


 

「そろそろ起床する頃合いだと思われましたが‥‥‥‥何をしているんですカ」


 そして追い打ちをかけるように、ワゼがこのタイミングで室内に入って来たのであった。


【きゃああああああああああああああああああああ!?みーらーれーたーーーーーーー!!】

「ご主人様を押し倒すとは…‥‥、もう一度言わせてもらいますが、何をしているのでしょうかこの駄蜘蛛は?っと、それは後でゆっくりと話させてもらうとして…‥‥ご主人様に報告しマス」

「ん?何かあったのか?」

「ええ、そうデス。昨夜、ご主人様たちが就寝している中、森へ近づく者を感知。情報である程度掴んでいましたので、対応できましたが‥‥‥‥ご主人様宛に、この手紙が届きまシタ」

「?」


 手紙と言われても、宛ててくる相手が思いつかない。


 そもそも、この銛に僕らが住んでいることを知っているのは少ないし、寝ている間に手紙を出されるのも妙な話しである。


 羞恥心爆発しながらもがっちり捕えて外されないハクロの拘束の中、一応動く手で手紙を受け取り、その差出人の名前を見てみた。


「えっと、差出人が‥‥‥‥ファイス‥?」


 その名前は、何処かで聞いたことがる。


 いや、この人物に、僕らは以前会った。




「…‥‥あの怪しさ満点のやつか」


 そう、吟遊詩人と名乗っておきつつ、その後に出て来た素性を見る限りただ人ではない、中性的な容姿を持つ人物。


 怪人と言えるような、相手だったが‥‥‥‥まさか、手紙を出されるとは思わなかった。


「内容は…‥待ち合わせ?」


 どうやら、話し合いの場を設けたいらしく、その場へ来て欲しいという招待状のようなものであった。


‥‥‥油断できないような相手だったが、なぜこのような物を出してきたのか?


 疑問に思いつつ、応じるべきかどうか迷うのであった‥‥‥‥





‥‥‥‥まぁ、それはそうとして、ハクロ、そろそろ離れてほしい。


 いや、その柔らかい感触とか、温かさとかは良いんだけど‥‥‥‥食指でがっちり捕えている力がだんだん強くなってきているんだけど。めきぃって、何か嫌な音がしてきたのだが‥‥‥‥







以前に森へ訪れてきたことのある、謎の人物ファイス。

その名前がまず本当なのかという疑いもあるが、再び接触したいようだ。

応答するべきかどうか、考え込むのであった…‥‥

次回に続く!!


‥‥‥なお、アラクネの食指(人間の足のように見える部分)って、本来は相手を逃がさないよう(物理的・性的)にするための部位でもあるので、今回まともな使われ方をしていたりする。

前は膝枕をしたが、本来のアラクネの食指の使い方はこれが正しいのだ。ついでに言うのであれば、場合によって武器にもなりえたりするが‥‥‥‥それはまた、別の機会に。

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