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閑話 たわいもない平和も良いものなのデス

SIDEシアン


……馬鹿殿下の処分を終え、僕らは平和を取り戻した。


 しかしながら、あの馬鹿殿下の大声にストレスを感じていたので、その解消がしたい。


 であれば、その解消方法として‥‥‥




「たまには身体を動かすのも悪くないけれども…‥‥おおっと!!結構速いな!!」

【ガウガウ!!】

【ガーウ!!】


「口から光線!?でも、その程度なら『アイスウォール』!!」


 放出された光線に対抗し、氷の壁を魔法で作り出して受け止める。



がっぎぃいんじゅうわああああ!!

「防いでも溶けるか。やっぱり強いね!」

【ガウッ!!】


 当然だというように、自信満々に吠える子フェンリルたち。



 現在、僕らはフェンリル一家の巣へ訪れており、子フェンリルたちと軽く模擬戦を行い、戯れていた。


【頑張ってくださいシアン!!あ、後ろからも来てますよー!】

【ガウ!!ガーウ!!】

【ガウウウッ!!】

【はいはい、坊やたち。次の番まで大人しく待ちなさい】


 模擬戦をしないハクロは応援しつつ、順番がくるのを待つ子フェンリルたちは、早く相手をして欲しそうに尻尾を振り、目を輝かせる。


 

 戦闘はそう得意なわけでもないのだが、この体はどういう訳か結構戦闘ができる。


 矛盾しているようだが、こうやって体を動かせる戦闘も、ストレス発散に向いており、自然と順応しているのだろうか?



 疑問に思いつつも、流石に全部まとめては無理なので分けてとどまっていた子フェンリルたちが交代し、また出て来た子フェンリル相手に僕は立ちまわる。


【シャゲシャゲェェ!!】

【ガウ!!ガ―――――!!】

【ガーウッ!!】


 一方で、ドーラも模擬戦に参加しているようで、こちらも蠢きながら相手をしていた。


 普段の見た目からちょっと変わって、成長した巨大食虫植物の姿での戦闘は、どことなくゲームのボスのような風格が漂っており、中々見ごたえがありそうだ。


 ちょっとした某ゾンビゲームのボス戦にも見えるような気がしなくもないが、ハザードじみたことはないので安心であろう。




 なお、この子フェンリルたちの母親であるロイヤルさんは、順番待ちでうずうずしている子フェンリルをなだめているだが、父親のポチは‥‥‥



【ぎやああああああああああああああああああああああああああ!!無理だ無理だ無理だああああああああああああああああああああああ!!】

【まだまだ甘いぞ!!もっと歯を食いしばれぇぇぇ!!】

【ぎえええええええええええええええええええええ!!】


 響き渡る絶叫は、ポチのもの。


 そのポチを叱咤激励するかのように叫ぶような声は、フェンリル一家ロイヤルさん方の祖父ヴァルハラさんのものである。


 だが、彼らの姿だけはこの場にはない。


 正確には、近くに置かれた箱の中から聞こえてくるのであった。




……ワゼが色々やって、作り出す「箱庭」という空間。


 馬鹿殿下の話をしていた時に出た話題であり、偶然なのか、そのタイミングでヴァルハラさんが訪れて来て、耳にしてしまったのである。


 その結果、どうもポチを鍛えるための場所としてうってつけと考えたようで、現在、新たに作ってもらったその箱庭内部で激しい訓練が行われていた。


 まぁ、知られても馬鹿殿下とは違い、このフェンリル一家ならば大丈夫だとは思うが‥‥‥ちょっとポチが哀れかもしれない。


 なんでも、最近子フェンリルたちに敗戦続き名情けなさを咎められているらしく、その鍛え直しのためにより一層無し語気を受けているようである。



 ポチの境遇に心の中で合掌しつつ、お昼頃まで僕らは戯れるのであった。







 お昼となり、僕らは一旦戯れるのをやめて昼食にした。


「本日は、フェンリル一家の巣ですので弁当をご用意したしまシタ」


 そう言いながらシートを広げ、ワゼが取り出したのは大きな弁当箱の山。


 フェンリル一家用にも作ってきたようで、皆で一緒に食べる(ポチ&ヴァルハラさんは箱庭特訓中で出てこないけれど)。



「んー!!おいしいな!!」

【本当においしいですよ!!応援して疲れましたし、非常に良いです!】


 応援で運動しているようなものなのかなと疑問に思いつつも、ご飯を食べて笑顔になる彼女は可愛らしい。


 ただ、同じような疑問を出だしているのは僕だけじゃないようだ。


【ガウッ?ガウガウ】

【ガーウ?】


ぷにぷに

【ひゃっ!?】


 子フェンリルたちが「運動していないのに疲れたの?」と言いたげな表情で、ハクロをつんつんと触る。


「ハクロは応援だけで動いていないよね?」

【でも疲れますよ?身振り手振り、身体全体でこうぐわっと、ふわっと、もにゅんっとやるのは大変なんですよ】


 いまいちわからない擬音ではあるが、とりあえず応援で身体を動かしているのは良く分かった。


【シャゲェシャゲェ…‥‥】

「そしてドーラは、張り切り過ぎてばてているなぁ…‥‥」


 いつもの見慣れた姿に戻ったドーラは今、ぶっ倒れていた。


 相当やり過ぎたようで、力尽きたみたいである。



【というか、この植物は面倒見がいいからねぇ。子供たちも懐いているし、いつも助かっているよ】


 笑いながら、ロイヤルさんはそう口にした。


 結構面倒見がいい植物的なところがあるせいか、結構役に立っているようだ。


【ガウガウ!】

【ガーウッ!!】


 同意を示すかのように子フェンリルたちも鳴き、ドーラを癒すようにべろべろ舐めている。


 しかし結構べったりして、余計にしおれそうな気がするが…‥‥まぁ、いいか。



ボンッ!!

「ん?」


 ふと、何か破裂したような音が聞こえたので、目を向けて見ると…‥‥箱が爆散しており、ポチとヴァルハラさんが出てきていた。


……いや、あれポチか?


「なんか丸くない?いや、全体的に腫れているというか、肉団子化というか?」

【ふん!こやつが中々成長せぬからな。殴打しまくったらこうなったのじゃ!】


 ふんすと鼻息荒く、ヴァルハラさんはそう答える。



 かなり激しい訓練だったようで、ポチは気絶しており、ヴァルハラさんの方も汗をかいているようだ。


【ふぅ、この歳だとやはり疲れるのぅ。こやつを鍛えるにもやはり苦労はするな】


 そう言っているが‥‥‥まだまだ余裕ありそうな気もするし、本当にフェンリル一家の祖父なのか色々と疑問がある。


【シャゲェシャゲ~】

【何?いい歳をこいてだと?貴様には言われたくないわ!】


 と、べろべろされていたドーラが復活したようで、ヴァルハラさんに軽口を言ったようで、怒声が放たれた。


 というか今、何か気になる言葉があったような?



「え?いい歳をとか、貴様には、って…‥‥ヴァルハラさん、ドーラの詳細をご存じなのでしょうか?」

【ん?ああ、そうだな。知っていると言えば知っているが、少なくとも今のコイツとはまだ色々と‥‥‥というか、貴様は自身について語ってないのか?】

【…‥‥シャゲェ~♪】


 どうも互いに面識がありそうなので問いかけると、ヴァルハラさんはそう言いながらドーラに問いかけ、ドーラは知らぬふりで口笛を吹く。


 何か隠しているのか気になるが‥‥


【まぁ、知ったところで意味はない。こやつの事は複雑怪奇、知るだけ無駄というのがあるからな】

【シャゲ】

「そういうものなのか?」


 知るだけ無駄な事は本当らしく、呆れたような声を出すヴァルハラさんに同意するようにドーラも答える。


 考えてみれば、ドーラは結構謎があるのだが…‥‥無駄な部分も気になるが、そんなに探る必要性もないのだろう。


 細かい問いかけは、たぶんごまかされる可能性もあるし、無駄と言えば無駄なのかもね。



 そう思いつつ、この質問に関してはまたの機会にしようと思うのであった…‥‥


【うっぐう…‥‥はっ!!‥‥‥じ、地獄は消えたのか!?】

【ぬぅ?ようやく目覚めたかこの馬鹿者。では、第2ラウンドとして今度は森10000周だ】

【鬼畜爺がまだいたぁぁぁっ!!‥‥‥あ】

【ふむ、やはり馬鹿者というか、爺とは…‥‥これは口の勉強もしたほうが良いか?】


……その機会があるまでに、まずポチが生きているかな?




――――――――――――――――――

SIDEヴァルハラ


……深夜となり、フェンリル一家の巣からシアンたちは去っていた。


 ポチはまだ森全体を駆け抜けさせられており、ロイヤルと子フェンリルたちは巣の中でぐっすりと眠っている。



【ふむ。孫たちもずいぶん成長してきたな…‥‥巣立ちも近いか】


 ぐっすりと眠っているロイヤルたちを見て、微笑ましそうな顔でヴァルハラはそうつぶやく。


 孫たちの成長も楽しみだが、巣立ちが近くなってきたという事は、別れの時期も近い。



 この巣に来れば孫たちにいつでも会えたが、巣立ってしまえば出会う確率は低くなるのだ。



【ふぅ、寂しいのぅ……】


 そう溜息を吐きつつ、巣の外に出て、少しだけ森の中を歩く。


 真夜中ゆえに起きているものは少なく、いたとしてもヴァルハラから自然と出る威圧で引っ込んでいく。


 ただ、その威圧が効かない例もある。


【シャゲッ】

【おう?】


 ふと気が付けば、ドーラがいつの間にか傍にいた。


 その手、いや、葉っぱには何やら大きな酒樽があった。


【ふむ、酒飲みの誘いか…‥‥貴様から誘うとはな】


 とは言え、断る事もない。



 神獣の身でありながらもそれなりに酒はたしなむことがある。


 他の神獣にも、酒を司るようなものもいたりするのだが…‥‥今は、関係ない話であった。



 とにもかくにも、せっかくの酒があるのならば飲まない手はない。


 場所をとりあえず適当に薙ぎ払って整え、酒を飲みかわす。



【中々うまいなこれ…‥‥どこの酒だ?】

【シャシャゲ】

【ほぅ、最近作った果実酒か。甘みがあるのは、その為だな】

【シャ~ゲ】

【用途があって作ったけれども、今の所使う意味がないので飲むだけ?用途とは、何をしようとしていたのだ?】

【シャーシャシャ】

【…‥‥ふむ、あの家の主に関してか】


 ぐびりと酒を飲み、ヴァルハラはその主とやらを思い出す。


 昼間に孫たちと戯れていた、一見(・・)普通の人間に見える青年。


 名前は確かシアンと名乗っており、この目の前の植物が居候している家の主であった。


【シャシャ~ゲッゲ】

【あの家に他にもいる、アラクネとの恋路応援のために、後押ししようと思って作成か。…いや、薬をこっそり投入するのは、流石にどうかと思うぞ】

【シャゲェ】

【ああ、使わずして告白しあえたのであれば、それで良いだろうな】


 もともとこの果実酒は、どうやらシアンとそのアラクネとの恋路とやらを応援するための最終手段として、ドーラが作成していたらしい。


 酒をなにかしらの手段で飲ませ、その場の勢いと、混入予定であったその手の薬の効果でくっつけようとしていたのだが、先日告白しあったので、必要性が無くなったのだ。


 ゆえに、どうしようかと考えていたが、この機会に飲んでみようと思ったそうである。


【シ~シャゲ、シャゲ~エ】

【ただ、最近必要性もあるので、今回はちょっとだけの使用と味見を兼ねてか…‥‥ん?その必要性とは?】

【シャゲッ】

【…‥‥】



 その内容を聞き、ヴァルハラは遠い目をした。


 その方法は先ほどのモノとあまり変わらないような気がするが、色々と問題があり過ぎる。


 どう返答したものかと悩み、とりあえず話題を切り替える事にした。



【ま、まぁその方法はそちらの方で勝手にすればいいとは思うが…‥‥それよりもなんだ、貴様の方は良いのか?】

【シャゲェ?】


 ヴァルハラの言葉に、ドーラは首を傾げた。


 何を言いたいのかわからないというようなそぶりではあるが…‥‥むしろ、何を言いたいのかを理解しているが故のそぶりに、ヴァルハラは感じ取れる。


【貴様であって、貴様ではない時を知ってはいるが、その当時とはまた違った変化を起こしているだろう?そもそも、貴様は我が孫たちのような子供好きでもなかったはずだが…‥‥やはり、今の(・・)やつに影響を受けたがゆえの変化か?】

【…‥‥】


 ヴァルハラの問いかけに、ドーラは黙り込む。


 返答はないが、その沈黙こそが肯定を示していた。


【‥‥‥シャゲ、シャゲ~ェ】

【ふっ、まぁそう悪くもないのか。まぁ、前の奴は大昔の事とは言え、あれはあれで悲惨だったからな‥‥‥。今代はむしろ、そのバランス調整のために出て来た、いや、引きずりだされた(・・・・・・・・)者ゆえに、良い方向へ傾きやすいのか】


 ドーラであって、ドーラではないその存在を知っているがゆえに、今のドーラは悪い者ではないことをヴァルハラは理解している。


 まぁ、孫に害を与えず、むしろ情けないフェンリルのポチ以上に役に立っているのであれば、それはそれでいいのだ。


【ただ、一つ気になる事があるから言っておこう】

【シャゲェ?】

【今代のは、歴代稀に見る力があるが、それ以上に家族愛が強い。ゆえに、害する者が出た場合、それこそ世界の終わりになってもおかしくはない。‥‥‥愚かでもあり、それでいて面白くあるが、この世界はそういう存在を放置せぬ。どこかで狂う危険性について、無いように注意しておけ】

【…‥‥シャゲッゲ】


 わかっている、と言いたげに返答するドーラ。


 取りあえず、今は互に酒を飲みかわしつつ、たわいない話しをするのみであった…‥‥




―――――――――――――――――

SIDEワゼ


「セーセ」

「…‥‥おヤ?」


 深夜、皆が寝静まるころ、久しぶりに自身の身体を分解して内部構造の点検などを行うオーバーホール作業をしていたワゼは、深夜の見回りをしていたミニワゼシスターズから報告を受けた。


「ツー、ツ」

「ふむ、ハクロさんがご主人様の部屋に潜り込んダ?とは言え、ご主人様は熟睡されているようですし、まだ清き交際ゆえに、夜の営みなどは無いはずですが…‥‥‥」

「ファ」

「完璧に寝ぼけているらしいけれども、ちょっと違いますカ」

「スー」

「…‥‥なるほど、その可能性もありますネ」


 意見を交える中、ある可能性が浮上してきた。


 それは、ハクロが持つアラクネとしての本能。


 互いにまだと思うところがあるとは言え、自然とその本能に従ってしまいたくなるところがあるのだろう。



 朝に起こるであろう一幕が予想できつつ、その光景も記録しておこうと思い、ミニワゼシスターズを向かわせ、自分の整備をしておくのであった。


「…‥‥しかし、自らバラバラにしてみたとはいえ、自分の身体ながら色々とありますネ。こういうのは正式な専門家がやってほしい所ですが、そう都合の良い人はいませんし‥‥‥‥今度、スカウトできたらやってみますカネ」


のんびりのほほんとしつつ、子フェンリルたちの旅立ちの時は近そうだと感じられる。

もうちょっとだけ甘えるかもしれないが‥‥‥それでも、旅立つ時まで遊んでいたいだろう。

何にしても、この平和は尊いものなのだ……

次回に続く!!


……そろそろ変化もつけたいところ。しかし、その前に翌朝の一幕がやばそう。

果たして、甘くなるか、コメディ風になるか、昇天させられるか、それとも何か別の事になるのか。

様々なパターンが思いつくが、一つだけ言える事としては…‥‥平和とは、(もう何度も起きて分かっているが)短いものなのだ。

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