#132 ちょっと準備中なのデス
突撃したいところだけど、ちょっと相手の情報も…‥‥
SIDEゴジャール私兵:団長デッドラ
……帝国での王位継承権争いにおける、皇子、皇女たちの喧騒から時間が経過したが、再び我々は招集をかけられた。
いや、正確に言えば我々が付いている第2皇子ゴジャール様の命令なのだが…‥‥
「だ、団長‥‥ここって王国ですよね?流石に帝国内ではないですし、ゴジャール様が何か無茶をやらかせば、非常に不味いのではないでしょうか?」
「言わなくともわかる。だが、あのお方は全然話を聞かないからな‥‥‥」
部下の一人が尋ねたが、生憎我々には止めようがない。
正確に言えば、こういう皇子・皇女たちの私兵とは「そこそこに収める」ようにするようにする働きを課せられており、あまりやらかさないようにこちら側がストッパーになるような、はずれの職業なのだ。
左遷とも言うな。帝国騎士団でちょっとばかり失敗し、何かやらかせば配属させられ、それぞれの無茶に付き合わされる不幸集団とも呼ばれるな。
だったら辞表を提出して辞めれば良いと言われそうだが、給料は普通の騎士団よりも高く、やめると再就職が難しい。
ハイリスクハイリターンだと考えればいいのかもしれず、一応そこまでやらかさないように収めれば、辛うじて生き延びる事が出来るのである。
だがしかし、この度どうも我々を率いる第2皇子ゴジャール様は、その抑えられる範疇を越える馬鹿をしかけているところのようだ。
止めようにも聞く耳持たず、成功を過信している、「自分賢者、他愚者」と思うようなお方だからなぁ‥‥適当におだててどうにかできてきたことが多いが、今回ばかりは帝国内ではなく、他国の中なので非常によろしくない。
一応、皇帝陛下へ無礼を承知で訴える文を出したが…‥‥返事はない。
むしろ傍観しており、他の皇子・皇女たちもどうやら自爆を待ちわびているようだ。
「ふはははは!!よくぞ集まったな、余の兵団よ!!」
バカみたいな高笑いをして出て来たのは、その件の大声馬鹿殿下……おっと、本音が出た。
言い直し、第2皇子ゴジャール様が、我々の前に来た。
「本日ここに集まってもらったのは!!我が力を示してあるモノを奪うためなのである!!」
耳が遠いのか、それとも威厳を持たせようと無駄な大声で言っているだけなのか、馬鹿殿下もといゴジャール様はそうおっしゃった。
「えっと、ゴジャール様。奪うためって‥‥‥何をでしょうか?」
「決まっておろう!!余の欲しいものは、この王位継承権を勝ち残れるであろう道具である!!」
(((いや、全然わかるわけがないだろう!!)))
この時、この場に集まっていた兵全員の心が一致して、心の中でツッコミを入れた。
「ははぁ、勝ち残れるであろう道具ですか…‥‥しかし、奪うとはまた物騒ですね。普通に買い取るなどはできなかったのでしょうか?」
ふと、その疑問が浮かんだので、思い切って尋ねる事にした。
第2皇子という事もあり、資産もそれなりにあるはずなのだが、買い取る手段ではなく奪う手段にしたのはどういうことなのだろうか?
場合によっては、穏便に済ませられそうな…‥‥
「できなかったのだ!!この余が買いっとってやろうというのに、あやつらは渡す気もなく、余を変態呼ばわりして逃亡したのだ!!」
(話が全く見えてこないんだが)
(というか、あやつらって、誰だ?)
(変態呼ばわり…‥‥まぁ、この第2皇子の性癖を考えれば、間違っていないよなぁ)
叫ぶ馬鹿殿下に対して、兵たちはひそひそと聞こえないように話し合う。
「要は、買い取ろうとして失敗し、ならば暴力で奪ってしまえば問題ないと思い、我々を招集したと?」
「そういうことである!!流石、余の私兵団長だけあって話を飲み込むのが早いな!!」
いや、あんたに言われても嬉しくないんですが‥‥‥と、言いたいところをこらえる。
「とは言え、まだ機会は設けるつもりだ。そ奴らがこの都市に現れる情報は得ておるし、すぐに来るであろう。そこで交渉し、できぬのであれば…‥‥不慮の事故が妥当であろう」
下種野郎のような笑みを浮かべるゴジャール様もとい馬鹿殿下。
要は、その手に入れたいものを持つ相手とここで遭遇し、交渉し、できないのであれば不慮の事故に見せかけて襲うってことか…‥‥はぁ。
「盗賊行為は非常に不味いと思われますよ?何しろここは帝国ではなく王国内ですし、問題を起こせばそれこそ関係が‥‥」
「はんっ、そのようなものは知った事ではない。そもそも我が軍事力を誇る帝国が、このようなのんびりたらりん平和ボケーンだよ~んとした国と国交を持って何になる!!余が帝王になった暁にはすぐさま領土に変えてやるのだ!!」
2,3か所どころかかなりツッコミどころがあったが、あえて言うのであれば、これは確実にダメな奴だという確信が持てたとことぐらいであろうか。
というか馬鹿殿下、それこそ確実に国に見限られますよ。いやまぁ、王位継承権争いでこの馬鹿殿下が堕落すれば、我々はまた違う皇子・皇女の私兵として動かされるだけですが‥‥‥。
捕まれば不味いのだが、捕まらなければいい。
場合によってはこの馬鹿殿下を理由に交渉すれば、どうにかなるはずであろう。
そう考え、後は適当に最近あった自慢話や、手に入れ損ねた奴隷の話などが流され、我々の耳を右から左へ、風が通り抜けるがごとく、大きな声で目立つはずなのに聞こえなくなるほど、我々は無心となって話を聞き流しまくるのであった…‥‥
(というか、奴隷の話で違法奴隷というような言葉が聞こえたが…‥‥国際的に見ても重罪だよな?)
(馬鹿御用達の奴隷商人を利用してだからなぁ。すぐに捕まらないとはいえ、たぶんダメだろう)
(俺、この仕事が終わったら退職して、故郷の田舎でのんびりと過ごそうかな…‥‥)
(ん?あれ、お前そんなチラシを持っていたか?)
(え?‥‥あ、なんか鎧の隙間に入っているな。どれどれ…‥‥)
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SIDEシアン
『はんっ、そのようなものは知った事ではない。そもそも我が軍事力を誇る帝国が、このようなのんびりたらりん平和ボケーンだよ~んとした国と国交を持って何になる!!余が帝王になった暁にはすぐさま領土に変えてやるのだ!!』
「‥‥‥馬鹿なのか?」
【馬鹿ですよね?】
「ある意味帝王ですネ。馬鹿の帝王という、愚王デス」
ミニワゼシスターズが気が付かれないように潜入し、録音していたという音声を僕らは聞いていたのだが‥‥‥これ、僕らが手を下そうが下さまいが、自滅するな。
とは言え、勝手な自滅をされるのは計画を立てているこちらとしてはよろしくない。
丁度ミスティアからやっても良いという連絡も来たし、早めに行動に移すべきだろう。
「しかしなぁ‥‥‥なんでこういう馬鹿って出てくるのだろうか?」
帝国の皇子という事は、それなりに教育も受けていて、きちんとまともに育て上げられていそうなものなのだが…‥‥
「一応、帝国側の事情を調査してみたところ、ちょっと面白い事が分かりまシタ」
なんでも、ベルガモット帝国には皇子・皇女が他にもいるが、教育方針は主に自主的か、それぞれの親、後見などが務めるので、皆が同じ教育をという事は無いらしい。
つまり、まともな教育を受けるのならまだしも、場合によっては都合の良いような教育しかされないことがあるそうだ。
「うわぁ、ある意味悲惨な感じがするな」
「こういう事があるからこそ、王国の方ではきちんとした教育機関で任せているらしいデス。噂ですと他の国々でもきちんとした教育機関がそれぞれあるらしいですし、そもそも自主的に学べるはずなので、そちらで修正する機会もあったはずなのデス」
子の資質か、それとも周囲の環境か。
どっちが悪いともいえないが、そのような事があったために、愚者は愚者らしく染まってしまったのだろう。
まぁ、同情の余地はないけれどね。そもそも兵を集めて思いっきりこちらに害をなそうとしている時点で救いようがない。
しかも、話の内容的に今回だけに限っての事ではなさそうだ。
帝国内ではなく王国内だから不味いというようだが、帝国内であればもみ消しているともとれるからね。
【救いようがない人というのはこういうのなのでしょうかね…‥‥】
「そういうものなのだろうな」
「まぁ、ご主人様方に子供が出来たら私たちが立派に教育いたしますので、ご安心くだサイ」
【「…‥‥」】
その言葉に、僕とハクロは互に顔を見合わせ、赤くなる。
ワゼ……何故このタイミングでそんな話を突っ込んだ。
まだ清い交際だし、特に考えていなかったが‥‥‥‥将来的に考えるかもしれないからね。
とにもかくにも気を取り直し、ワゼが立てたこの馬鹿撃退殲滅計画を実行することにしたのであった。
「しかし‥‥‥この私兵たちはちょっと惜しいデス」
「まぁ、文句はあれども嫌々従わざるを得ないような感じだからな」
「まぁ、事が済み次第利用も考えてますし、既に工作済みですけれどネ」
教育はどこの世界、どこの時代でも根が深そうな問題。
けれども、今は関係ない。
ただ、あの馬鹿殿下とやらを徹底的に殲滅・見せしめ・潰さなければいけないのだから…‥‥
次回に続く!!
・・・私兵の方は、割とまだまともな人が多そう。やり方次第では利用価値があるかも。と、ワゼはどうやら考えているようで…‥‥




