#12 材料を求めた結果デス
結果論としては、良い方なのかもしれない。
ただし、犠牲者がいるというか‥‥‥‥
SIDEワゼ
深夜、何もかも寝静まっている頃、ワゼはあるものを探していた。
昼間に彼女のご主人様であるシアンから聞いた話、「虫から糸が獲れる」という言葉を聞き、彼女は自身のデータに何か似たような物がないかと検索をかけ、いくつかリストアップしたのである。
そして今、この森の中で丁度のリストアップしたものがいないかどうか探しているのだ。
と言うのも、このハルディアの森には色々といる。
神獣であるフェンリルが結界をはっているとはいえ、入れるようなものであれば、誰もが入る。
それは、神獣という巨大な力の庇護に入りたいのか、それともその力を求めて本能的に入って来るのか…‥‥
熊や狼以外にもモンスターが入り込んだりして来ているのだが、その中に都合の良さそうなものが入っているはずだと思って、彼女は寝静まる隙を突くために、深夜の森をさまよっているのだ。
なお、そんなことをしたら神獣の方に色々と言われそうだが、フェンリル(妻)には子供たちの害になりそうな存在を最優先で消し飛ばしてくれるならば、という条件で許可をもらっていた。
そんなわけで遠慮せずに森の中を探索し、彼女は目当ての存在を見つけ出した。
「ふむ……あれがちょうど条件的に良さそうデス」
腕をガシャガコンと変形させ、狙いを定める。
目的としては、対象の殺傷はしないのだが‥‥‥‥下手に暴れられるのも厄介。
そのため、撃つものとして最適なものは…‥‥
「とりえず、『爆裂麻痺弾』発射デス」
ドンッ!!という音と共に、ワゼの中で生成された弾が打ち出され、対象が寝ている場所へ向かい‥‥‥
チュドォォォォォォォォォォン!!
【あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?】
…‥‥着弾点に断末魔が響き渡るのであった。
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SIDEシアン
翌日、僕はその光景を見て、ちょっと頭を抱えた。
いやまぁ、確かに昨日さ、会話で虫などから糸を取れるって話したし、ワゼの事だから実行する可能性もあっただろうけどね…‥‥
「物凄いボロボロになっているんだけど…‥‥何をやらかした?」
「いえ、ただ単に麻痺させただけデス」
【きゅううう‥‥‥】
やり切った顔で、びしっと決めているワゼの横で、縄…‥‥いや、何かこう、透明感のある糸を束ねたような紐でぐるぐる巻きにされて気絶している女性がいた。
髪も肌も白く、気絶して目を回してボロボロだけど、かなりの美人のようだ。
ただ、その腰辺りの部分から下は‥‥‥巨大な蜘蛛と言うのは、どういうことなのだろうか?
「ワゼ、本当に何をやらかした?まさかとは思うけど、この女性を投擲して蜘蛛のモンスターの頭部に刺して抜けなくなったとかじゃないよね?」
「違いマス。これは『アラクネ』と呼ばれるモンスターの一種デス」
「アラクネ?」
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『アラクネ』
蜘蛛の頭部に女性の身体が付いたモンスター。
美しい外見を持つが、その様子とは裏腹に残虐な一面を持ち、多種多様な毒と糸を生成し、獲物を捕縛したり毒殺したりする。
その生成される糸は非常に強靭で有り、アラクネ本人でしか自由自在に扱えないとされる。
なお、蜘蛛の下半身があるのでありとあらゆる立体起動が可能でもあり、森の中のような場所では無敵の機動力を誇る。
ゆえに、討伐対象になった際には非常に苦戦するのだが…‥‥
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「寝ているところに『爆裂麻痺弾』を当てれば一発で捕獲できたのデス」
……なんだろう、滅茶苦茶ボロボロになっているアラクネの方に同情したくなった。
おそらくぐっすり寝ているところに強襲された上に、体の自由を奪う弾をぶち込まれ、そのまま捕縛されて……あ、その縛っているやつって、もしかしてそのアラクネの持つ糸か?
【ううう…‥‥はっ!!ここはどこ!?私は誰ですか!?】
「いや、そんなことを言われても知らないんだけど…‥‥」
と、気絶から目を覚めて早々、典型的な大ボケをアラクネはかましたのであった。
何だろう、さっきの説明で「残虐な一面を持つ」とあったのに、このアラクネからは「残念な一面を持つ」ようにしか見えないんだけど…‥‥
とにもかくにも、この状況を把握してもらうのを待つしかないのであった。
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SIDE???
「うヴぼっぷ、もうくいぎれねぇ……げふぅ」
……丸々と肥え太り、多くのごちそうを食べたせいか、それとも別の何かが含まれていたせいか、その男の身体は今、真の巨漢とでも言うべき状態に変貌していた。
彼自身、見えていない現実なのかもしれないが、風船のようにはちきれてパンパンになった丸い体となっており、手足が贅肉に埋め尽くされ、もはや人非ざる球体のような体形と化していたのである。
「じがじ、あのごぢぞうばぶまがった…‥‥ぶわぁぁぁ、ぐぅ……」
そう言うと、彼は急激に眠気に襲われ、そのまま眠り始める。
体型的に肺が圧迫され、心臓の負担がとんでもないはずなのだが…‥‥その状態でまだぐっすりと眠れるほど生きていること自体がもはや不思議であった。
「‥‥‥ねぇ、もう寝息を立てはじめているわよ」
「ああ、この隙にさっさと終わらせないとね。しかし、食事に色々と薬を盛ったけれども、ここまでひどい体形になるとは思わなかったわ」
ぐっすりと眠り始めたその男に対して、部屋の仲に入り込んだその者たちはそうつぶやきはじめる。
「とりあえず、さっさと移動させ始めましょう。幸いというか、ここまでひどすぎる体形になるとまでは予想外だったけれども、転がしていけば楽に移動させられるものね」
「おお、贅肉がすごい柔らかくて色々と押しやすいというか、押しにくいと言うべきか、良く分からない状態だな…‥‥こんなもの、喰ったら腹を壊しそうなのだが」
「あの方ならば大丈夫でしょう。自称『アイアン胃袋』と言ってましたもの」
何にせよ、その者たちはその男を転がしながら移動させはじめる。
この世界に召喚した理由を、その男が知るまであと30分ほどであった‥‥‥
「ああ!!通路に詰まって動かないんだけど!!」
「しまった、この太り過ぎによって動かなくなる計算を忘れていたわ!!」
……いや、あと1時間ほどかかるのであった。
…‥‥その男の運命が決まるカウントダウン開始。
さてさて、どのようにされるのかなぁ?
そして、アラクネの方もなんとかしないとね。
次回に続く!!
「ココの通路も通れないんだけど!!」
「太らせ過ぎましたねぇ……押し込みましょう!!そーれ!!」




