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#93 巨大イカの体内らしいデス

あれ?考えてみればこのサブタイトルってネタバレになるような‥‥‥

SIDEシアン


…‥‥逃走しようとした中で、巨大なイカのような化物が伸ばしてきた触手。


 その先に口のようなものが形成され、僕らは丸のみにされた。



「のわぁぁぁぁ!!」

【なんか運ばれてますよー!!】

「蠕動運動ですかネ?」


 馬車ごと丸のみにされ、ようやく収まったところで、僕らは馬車の外を見た。


 あちこちで脈動する肉壁のようなものが見られ、上を見上げればかなり高い。



 どうやら巨大イカの触手を通じて、僕らは今、その体内に入り込んでしまったようである。


 なお、馬車内にてまだ安全であった僕らとは違い、牽引していたポチは…‥‥


【ぐふぅ…‥‥】


 完全に目を回し、気絶していた。


「ああ、馬車の仕掛けも壊れ、馬に見せかける装置がやられましたネ。元の姿が丸出しデス」


 でかい狼がひっくり返って気絶している姿なんぞ、飲み込まれた現状では驚くような事もあるまい。


 それに、ポチの事だからすぐに復活するだろうし、心配する必要もない。





 とりあえず今は、この状況の整理である。


 あの四方八方に伸びていた触手に丸呑みされたという事は、他にも同じようなものがあって、逃げていた人たちが飲まれていそうなものなのだが‥‥‥


「全員、気絶中かな?」


 他の人たちの姿があちこちに確認できたが、全員倒れて動かない。



「いえ、違うようデス。…‥‥ちょっとばかり面倒なものが原因ですネ」


 ワゼがそう言うと、何処からともなく手ごろな大きさの瓶を取り出し、適当に周辺の空気を詰め込んで、蓋をする。


 特に何も無さそうなのだが‥‥ワゼが次は何かの液体が入った小瓶を取り出し、先ほど空気を詰め込んだ瓶に垂らすと‥‥‥



ぼしゅん!!


「!」

【え!?】


 一瞬にして、空気だけの瓶の中身が変化し、滅茶苦茶毒々しい色へと変貌していた。


「‥‥‥やはり、毒ですネ」

「ど、毒!?」

「ええ、どうやら空気中に微弱ですが毒物反応がありましタ。分析結果としては『ヌッコロン』と言う毒デス」


――――――――――――――

『ヌッコロン』

モンスターが分泌する毒物の一瞬であり、人の手では生成できない特殊天然毒物。

揮発性が非常に高いが、同系統の毒物を混ぜると反応し、特有の色を発現させる。

致死性のものではなく、微弱な神経毒に近く、吸引すると意識を失い体が弛緩する。

なお、使用される目的は、使用するモンスター全般すべてに共通しており…‥‥

―――――――――――――――


「…‥‥捕食時に、抵抗されないようにする目的があるそうデス」

「うわぁ‥‥‥あれ?でも僕らは効いていないよね?」


 そんな毒物であるならば、全滅しそうなのだが‥‥‥


「私はメイドゴーレムですので、生物へ効果のある毒は無意味デス。ハクロさんの場合は、こちらも種族上毒物を扱うことがあるゆえに毒への耐性があると推測できマス」

【でも、シアンはどうなのでしょうか?人間ですよね?】

「‥‥‥そのあたりの予想としては、ご主人様は毒への耐性が非常に高かった、もしくは……いえ、情報不足ですし、確定できませんのでちょっと話しにくいデス」


 何だろう、今なんかごまかされたような気がしたが‥‥‥まぁ、良いか。


 ちなみに、ポチの方も神獣ゆえに効きにくい予想があったが、調べて見た結果どうやらしっかり効果はあったようだ。


「ロイヤルさんよりも、やや耐性低めのようデス。予想では、彼女であればおそらくはこの空間であろうとも大丈夫だったでしょウ」

「いやまぁ、なんかもうわかっていたことだと思うんだけど」

【ええ、予想通りですよね。わかり切っていることだと思いますよ?】



 何にしても、この空間いっぱいにどうやらその毒が充満しており、飲み込まれた人たちも毒にやられ、大人しくなっているようだ。


 どうやらこの巨大なイカは、体内で獲物が暴れられる可能性を考えて、毒を持っていたようだけど‥‥‥耐性がある場合を考えていなかったのだろうか。



 とりあえず、脱出を試みたい。毒にやられなくても、いつ消化が始まるか気が気でならないからね。


「ワゼ、ここから外へ出ることは可能かな?」

「少々難しいデス。計算上、肉壁の厚さは5メートルほどであり、表面の分泌液のせいで…‥‥」



 そう言いながら、彼女は腕を変形させ、刃物を取り出し、思いっきり地面に突き刺す。


ぐすぶにゅ!!

「‥‥‥突き刺さりませんし、斬る事も不可能デス」


 ついでに火炎放射器のように炎を出してあぶったが、全然効果はない。


 いや、むしろ焼けた良い匂いがするから効果はあるような気もするが…‥‥見れば、すぐに焦げた部分が再生していた。



「再生能力が非常に高く、斬撃・打撃などの武器はほぼ無力だと思われマス」

「うわぁ‥‥‥腹の中だけ滅茶苦茶強いって、どんなやつだよ」

【お腹を下すことだけは無さそうなほど頑丈なのは良いですけれどね】


 ついでに、ミニワゼシスターズもあちらこちらで攻撃を仕掛けて見たが、結果は同じ。


 魔法が扱えるゼクスもいろいろやったが、結局威力不足だ。


「‥‥‥あれ?でもこれってあくまで再生能力が高いってだけだよね?」

「ハイ」

「じゃあさ、それを上回るだけの威力があれば、突破可能ってことかな?」

「可能性はありマス。ですが、勧められまセン」



 ワゼいわく、ここは体内で間違いなのだが、現在どこにどのようにいるのかが分からない。


 陸上で動いていたが、海中に戻っている可能性もあり、ぶちやぶれたとしても今度は溺死の危険性があるのだ。


 また、そんな無茶をやらかして、一撃で絶命させられなかった場合…‥‥


「最悪の場合、過剰防衛反応として、大量の胃液が分泌される可能性があるのデス」

「ああ、消化して消し去ろうってか…‥‥」


 大穴をあけた程度でこのイカが絶命するとは思えないし、危険性はかなりある。


 でも、やってみる価値があるのならば…‥‥試してみたほうが良いだろう。



 そう思い、話してみればワゼも分かってくれたようで、撃つべき方角を定めてくれた。


 内臓などがずり落ちてこないようにかつ、最短距離で威力を保ったまま出来そうな位置を狙う。



「…‥‥たまには、全力でやってみるのも悪くないよね」


 以前、ちょっと自身の力を図って見ようと思って、山をぶちぬいて自重したこの力。


 でも、今回のような事態には、自重無しで思いっきりぶっ放すのもいいだろう。



 慎重に狙いを定め、一番大丈夫そうな方へ当たるように祈りつつ、反動などを考えてワゼたちに後方を支えてもらう。


「それじゃ、行くよ!!」

「「「「「「【はい!】」」」」」」



 こういう壁をぶち抜く魔法は、一点集中、直撃爆破、大穴完成といったようなものだ。


 単純な方法でありつつ、魔力を一気に大量に消費する!!


「『クラッシュブラスター』!!」



 魔法名を叫ぶと同時に、一気に魔力が抜ける感覚に襲われる。


 次の瞬間、魔力が狙い通りの位置を向いて凝縮し、一気に放出された。



カッ!!ドッゴォォォォォォォォォ!!


 某宇宙戦艦の艦首の武器並み、いや、それ以上の魔法の暴力と言うべき力が一直線に向かい、肉壁へ直撃する。


 そのまま爆発するかと思いきや、あっさりとその肉壁を貫き、表皮に達したところで…‥‥



ドッカァァァァン!!


 大爆発を起こし、一気に衝撃波が僕らへ襲いかかり、しばし耐えることになる。




……数十秒後、ようやく収まった時に、僕らがその場所を見てみれば、綺麗な大穴が…‥‥いや、ちょっとばかりやり過ぎたというべきレベルの大穴が底に開いていた。



 だが、それと同時に、その恐れていた事態も動き出す。



ずばぶじゅうううううううううう!!


「うわっ!!なんか壁から噴き出てきた!?」

「胃液デス!!どうやらまだ、このイカは絶命していまセン!!」


 外部から見れば相当な大穴のはずなのだろうけれども、僕らを飲み込んだこの怪物はまだ息があるらしい。


 急いで溶かそうとしているようだが‥‥‥‥液体であるならば、ふと僕はある手段を思いついた。


「まだ魔力に余裕があるし、せっかくだからこれでも喰らえ!!『コキュートス』!!」


 あれだけの規模の魔法を放ったが、まだまだ余力を感じた。


 ゆえに、強力な氷魔法を発動させ、胃液そのものを凍らせていく。


 そして、その出所も、その中へも、放出しているところまでくまなく凍らせていき、胃液が停止した。


【ずぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】


 外からこの化け物の断末魔が聞こえたが…‥‥すぐに収まった。


 どうやら今の一撃がトドメとなったようで、脈動していた肉壁も動きを止め、絶命を知らせるのであった…‥‥‥




無事にぶち抜き、脱出経路をシアンたちは確保した。

何故この生物が襲って来たかはともかく、助かったことに喜んでおく。

だが、それはまた、別の面倒ごとの幕開けでもあった。

次回に続く!!


…‥‥わかりやすく言えば、某戦艦波○砲を体の中から撃たれて貫かれ、トドメに体液を一気に冷凍処分されたような感じ。ゼリーに穴をあけて、冷凍庫で保存したと言ったほうがまだいいかな?

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