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純心と夏希の告白(1)

純心は、三日三晩、

高熱を出して家で寝続けていた。


ようやく少し回復した純心は、

何をしていたのか、

思い出そうとしていた。


朦朧とする意識の中、

記憶も曖昧で、

どこでどうしていたのか

おぼろげにしか覚えていない。


犬女ちゃんが、

一緒にいた気はするが、

それも定かではない。

すべてが夢の中の出来事

だったように思える。


だが、自らの拳の感触で、

徐々に部分的に思い出す。


自分が犬女ちゃんを

殴ったことを、蹴ったことを、

暴力を振るったことを。


自分が無意識ながら

もっともおそれていたこと、

他人を暴力で傷つけてしまうこと。


それが一緒に暮らしていた

犬女ちゃんに向けられてしまった。


犬女ちゃんを探しに

行かなくてはならない

と思う気持ちはあるが、

もう自分のことを許しては

くれないだろうとも思う。


合わせる顔がないし、

どんな顔で会えば

いいのかもわからない。


そして何より

また犬女ちゃんを

傷つけてしまうかも

しれないのが怖い。


このまま自分と

関わらないほうが、

犬女ちゃんにとっては、

幸せなのではないか。


自分が怖いし、

自分を信じることが出来ない。


そう、純心は思っていた。



*****



その日の夕方、

夏希から携帯に電話があった。

大事な話があると言う。


純心は、近くの公園で会う約束をする。

以前のようにこの家に、

夏希を入れるのが怖かったのだ。


もし自分がまたおかしくなってしまったら、

今度は夏希を傷つけてしまうかもしれない。

純心は自分が怖かったし、

自分を忌み嫌うようになっていた。



「純心、ここ数日、

家に行っても出ないし、

電話かけても出ないし、

心配しちゃったよ」


純心と夏希は、

公園のベンチに横に並んで座った。


「お前は俺とこうしていて、俺が怖くないのか?」

むしろ純心は怖かった。

自分が夏希を傷つけるようなことをするのではないかと。


「うん?あぁこの間キレたこと?」

「あれは、ちょっとしょうがないんじゃないかな。

純心がキレるのも無理はないよ。

あれじゃ、まるであたし達が

本当に悪いことしたみたいじゃない。」


『そうか、夏希はまだ俺があいつを殴ったことを知らないのか』


純心は素直に話した。

自分がおかしくなって

犬女ちゃんを殴り、蹴とばしたことを。

どこかに自分が置き去りにして来たらしいことも。


ちゃんと話さなくてはいけないと純心は思った。

もしかしたらまた自分が誰かを傷つける可能性がある。

夏希だってそうとわかれば、

自分とはこうして一緒にいなくなるかもしれない。

それはそれで残念なことだが、仕方のないことだ。

すべては自分が悪いのだから。


夏希はびっくりして聞いていた。

純心が話終わると、いろいろ質問をして来た。

純心は包み隠さず、覚えていることはすべて話した。


「早く犬女ちゃんを見つけ出して、ちゃんと謝らないとね」


「お前は俺とこうしていて、俺が怖くないのか?」

純心は最初に聞いたことと同じことを聞いた。


「あたしは、純心と付き合い長いし。

今までそんな純心見たことなかったし。

純心が本当はそんな人じゃないって信じられるよ。

きっと何かあったんだろうなって思えるよ。」


夏希のその言葉を聞いて、

純心は自分の胸の内をすべて話した。



「ごめんな俺のことばかり話して。」

「大事な話があったんだよな?」


自分の話が終わった後、純心は思い出した。


「あのね、あたし、純心に言わなきゃいけないことがあるの…。」


夏希は前を向いたまま顔をこわばらせた。


「純心に謝らなきゃいけないことがあるの…。」


夏希は、まだ秘密を告白する勇気が持てないのか、

純心の顔を見ずに、前を向いたままだった。

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