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犬女ちゃんとお父様(2)

地面にぺたんと座り込んで、

泣き崩れているお嬢様に

寄り添って座る犬女ちゃん。


犬女ちゃんは、

泣き続けるお嬢様の頭を

優しく撫でて

慰めてあげようとする。


物を握ったり、

つかんだりすることが

出来ない手だが、

その手は、誰かを

慈しむことが出来る手なのだ。


人を慈しむことが

出来ない人の手では、

犬女ちゃんの手を

真似することは出来ない。

その手は犬女ちゃんの

心そのものだから。


-


犬女ちゃんに

慰められているお嬢様を

お父様は悲しそうな顔で

見つめている。


犬女ちゃんのお陰で

冷静になった純心は

そのことに気づいた。


お父様の目が

少し潤んでいる。

悲しいというより

泣きそうな顔にも見える。


そうなのだ。

お父様も決してお嬢様が

憎いわけではないのだ。


なぜ人はすれ違ってしまうのか。

犬女ちゃんのように、

シンプルに好きなら好きで、

それだけでいいじゃないか。


自分もこの夏休み、

距離を置いていた母と、少しだけ

その距離を縮めることが出来た。


この親子だって

それが出来ないわけがない。


こんな場面に、親子の問題に、

部外者が口を挟むべきではない。

そう思いつつも

純心は伝えたいことが

抑え切れなかった。


-


純心が一歩前へ出ると、

犬女ちゃんが咄嗟に

再び純心の前に立ちはだかった。

純心はそんな犬女ちゃんを制した。


「大丈夫だから、

今の俺は大丈夫だから」


そう言うと犬女ちゃんも

純心の気持ちを察したのか、

純心の前から身を引いた。



「お嬢様は」


「いえ、遥さんは

天使のような人じゃないですか」


「確かに天然で、世間知らずで、

浮世離れしたところはありますけど」


「すべての人に、

いえ、すべての生き物に、

とても優しくしてくれる、

平等に愛を与えてくれる、

本当に天使そのものじゃないですか」


「もしかしたら、

大勢の人達が、動物が、生き物が、

遥さんの優しさを、慈愛を、

必要としているかもしれないのに、

その機会をみんなから奪ってしまうなんて、

随分とひどい話じゃないですか」


「みんなが遥さんを

必要としているかもしれないのに」


「自分だって遥さんには

いつも助けられてばかりいるんです。

この先、大勢の人達が、生き物が、

遥さんを必要としているはずなんです」


それは純心の素直な気持ちだった。

これまでお嬢様には

助けられて来たなんてものじゃない。


お嬢様は迷っている人に、

道を照らしてあげられる人なのだ。

それも、優しい世界の方向に。

天然で残念なところもあるが、

それぐらいはご愛嬌というものだ。


-


純心の言葉に

それまで泣きそうだった

お父様の涙腺は崩壊した。


「そんなことは、

そんなことはわかっているんだよっ」


「遥ちゃんが、

天使なんてわかっているんだよ!

そんなの決まってるじゃないか!

私の可愛い娘なんだから!」


お父様は泣きはじめると、

一気にデレた。


「でも、でも、

私の可愛い大事な遥ちゃんが、

苦労したり、ツライ思いを

するところは見たくないんだよ!」


大泣きしはじめたお父様は

その心中を素直に吐露しはじめた。


「お、お父様…」


その後も続く

お父様からの

ラブメッセージに、

お嬢様も顔を真っ赤にして

大泣きしている。


「お父様!」


お嬢様は駆け寄って

お父様に抱き着き、

お父様も娘を

力強く抱きしめる。


お嬢様とお父様は二人で

抱き合って大泣きし続ける。


それを見ていた純心が

思わずもらい泣きすると、

犬女ちゃんが

そっと寄り添って来て

頭を撫でてくれた。


-


人間は複雑な

コミュニケーションが

出来るが故に

話がややこしくなる。


犬女ちゃんから見れば、

人間というのは

随分と厄介なものだ。


お互いに大好きなのに、

気持ちがすれ違ったり、

意地を張ったり、

素直になれなかったり。


犬女ちゃんには、

好きという気持ちと、

好きを伝えたいという

ただそれだけしかない。

その単純さ故に、

揺るがない強い想いとなる。






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