ダンジョン内で実験(3)
地下11階層から地下12階層へと降りる階段へ向かって歩いていく。
その間、少し気になった事を弟の浩二に聞くことにする。
「なあ、浩二」
「何だ? 兄貴」
「お前が使ったファイアーノックってあっただろ?」
「ああ。それが、どうかしたのか?」
「あのファイアーって、ガスコンロの火だよな?」
「そうだけど?」
「何でガスコンロの火を殴れたんだ?」
「俺も良くは知らないんだけどさ、一度、アイテムボックスを通すとガスコンロの火であっても10秒間は形が維持できるみたいなんだよな」
「それって、可燃物が無くてもか?」
「ああ」
「普通、火を維持するためには、燃えるために必要な物質と酸素が必要になる。その片方がなくてもアイテムボックスを通すと10秒間、形が維持できるとなると物理法則というか熱量保存の法則とか無視する事になるな」
「たしかに……。金属バットで殆ど質量がゼロ。物質としての構成密度がゼロに近いガスコンロの火を殴れるとか普通はありえないもんな」
「空気を殴るようなモノだからな」
俺は首を傾げながら、自宅のガスコンロからアイテムボックス内に入れておいた火を取り出す。
前方に出現した青白いプロパンガス特有の火は、重力に従って地面に落ちると10秒経つか経たないかくらいで消え去る。
「10秒か」
――スキル「火魔法」を獲得しました。
ガスコンロの火をアイテムボックスに入れてから出した場合の実験データを取ろうとアイテムボックスから出したところで、スキル「火魔法」を習得できた。
「兄貴?」
「どうやら、火魔法を覚えたようだ」
「俺も覚えたけど、アイテムボックスを通して起こした現象は魔法としてカウントされるみたいだ。ほら、兄貴」
弟が、自身の手のひらに製氷機で作ったような真四角の氷を作りだす。
「これ、氷魔法」
「氷魔法? 水魔法じゃなくて?」
「冷凍庫の氷をアイテムボックスに入れてからダンジョン内で出すと氷魔法を覚えられるぜ! 兄貴」
「ほう」
「製氷機の氷、余っているから兄貴も氷魔法覚えたらいいんじゃないか?」
「そうだな」
今の俺のスキル構成の中に氷魔法は存在していない。
水魔法の分子振動を抑えるイメージにして氷魔法を発現させているに過ぎない。
まぁ、あまり不自由は感じないが覚えられるのなら覚えておいて損はない。
弟から実家の冷凍庫の氷を受け取ってアイテムボックス経由で取り出すと「――スキル【氷魔法】を獲得しました」と、視界内にテンプレートが表示されて文字が流れた。
「氷魔法も習得できたな」
「兄貴、それなら残りの魔法も習得した方がいいんじゃないか?」
「残り?」
「ゲームだと、魔法には【火】【水】【土】【風】があるだろ?」
「四大元素ってやつだな」
「そうそう。それと【雷】【光】【闇】【聖】ってあるじゃん?」
「あるな」
「――で、俺、色々と考えて実験したんだよ」
「ほう……」
地下11階層を歩いていた弟が足を止める。
そして空中で指を動かしていた。
どうやらアイテムボックスを弄っているようだ。
しばらくすると、空中からハンディファン、甲子園の土、スタンガン、ライト、アイスマスク、日本酒が出現する。
「兄貴、いまからスタンガンを使うから、その時に発生する電気をアイテムボックスに仕舞って取り出してみてくれ」
「おう」
弟の説明どおりスタンガンの先端がチカチカしたところでチカチカ部分だけをアイテムボックスに仕舞って取り出す。
――スキル【雷魔法】を獲得しました。
「どうだ? 兄貴」
「【雷魔法】も習得できたみたいだな」
「じゃ、次はライトで灯りをつけるから灯り部分だけを――」
「アイテムボックスで切り取るイメージで収納して取り出せばいいんだろ?」
「そうそう」
弟は頷く
そして、実際なところ【光魔法】を習得することが出来た。
次にアイマスク。
これは目を開けたまま装備して暗闇を体験すれば覚えられた。
「最後に聖魔法か……、ここは聖水じゃなくて御神酒でもなくて日本酒なんだな」
「日本酒も御神酒も同じようなもんだろ」
「まぁ、中身は同じだな。神様に捧げる時も御神酒って呼び方にはなっているが中身は日本酒だからな」
――スキル【聖魔法】を獲得しました。
そのあとは、ハンディファンで【風魔法】を習得した。
終わったあとは、スキル【鑑定XⅡ】で確認。
【名前】佐藤和也
【レベル】58
【HP】A
【MP】B
【STR】B
【DEX】B
【CON】A
【WIS】S
【INT】B
職業
【剣士I】
スキル
【鑑定XⅡ】【アイテムボックスXⅢ】【経験値上昇Ⅸ】【ステータス補正Ⅹ】【魔法防御力Ⅸ】【体力補正Ⅸ】【魔力補正Ⅸ】【回復補正Ⅻ】【視力補正Ⅷ】【攻撃力補正Ⅸ】【魔法攻撃力補正Ⅸ】【火魔法I】【水魔法Ⅴ】【氷魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【聖魔法I】【闇魔法I】【光魔法I】【雷魔法I】【水魔法耐性Ⅶ】
「どうだ? 兄貴」
「ああ、各種魔法スキルを覚えたみたいだな」
「それじゃ、俺をどうやって虐めてやろうかという邪悪な顔をしていたのはチャラになったか?」
「いやだなー。俺は別に怒ってなんていないぞ?」
「絶対、嘘だろ!」
「ところでお前のステータスも見ていいか?」
「別にいいけど、俺も兄貴のステータスを鑑定してもいい?」
「いいぞ」
弟の浩二をスキル【鑑定XⅡ】を使って鑑定。
【名前】佐藤浩二
【レベル】1
【HP】H
【MP】H
【STR】H
【DEX】H
【CON】H
【WIS】H
【INT】G
職業
【剣士I】
【正義のヒーロモドキ】
スキル
【鑑定I】【アイテムボックスI】【火魔法I】【水魔法I】【氷魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【聖魔法I】【闇魔法I】【光魔法I】【雷魔法I】
「なるほど……」
「兄貴」
「何だ?」
「兄貴のステータス見れないんだけど?」
「そうか。もしかしたら何かしらの要因で見る事が出来ないのかも知れないな」
「あー、もしかしたら古いRPGでよくあるレベル差がありすぎると敵のステータスが見れないとかあんな感じじゃねーの?」
「可能性はありそうだな」
「ちなみに兄貴のレベルっていくつなんだ?」
「秘密だ」
さて、とりあえずは新しく覚えることが出来た魔法を試すとするか。
家に帰ってもやることはないし、新スキルの魔法の運用実験には丁度いいだろう。
それに魔法は男にとってロマンでもあるからな。




