田植えには興味はありますか?
貝の取引契約を木戸商事株式会社と行ってから、1か月が経過した。
その間、ダンジョン米の国内の評価がネットニュースで流れていた。
俺もダンジョン米は食べていたが、ダンジョン米の立ち位置はカルフォルニア米と同レベルで落ち着いたようで、5キロ1400円前後で国内では価格が推移しているようだ。
そのために、アメリカや東南アジアからの米の輸入には制限が掛かった。
そして、本来存在している日本米の価格は5キロ2000円、10キロで4000円前後で推移するまで落ち着いた。
「やっぱり食べ比べして見ると、ダンジョン米と普通の栽培されている米じゃまったく違うな……」
尚、稼ぎが良くなったこともあり、今は俺の家の主食たる米はダンジョン米では無く日本米に切り替えている。
そして、菊池さんが保管しておいてくれた100トン近くの俺へのダンジョン米だが、保管が厳しくなってきたということで泣きが入ったので、今では俺のアイテムボックス内の肥やしになっていた。
「日本米を食べたあとにダンジョン米を食べると米の質の差が如実に分かるな……」
日本の米農家さんが、どれだけすごい仕事をしているのか? と、言う事が如実に分かって頭が下がる思いだ。
日本の農家様が作った新米で新米を食べるという贅沢をしていると電話が鳴る。
「はい。佐藤です」
「菊池です」
「どうも、どうかされましたか?」
国内に米が流通しきって米の価格安定化が市場において決まったので、菊池さんにダンジョン米を卸すことが先週から無くなっていたので、何の用で連絡をしてきたのかと思っていれば――、
「佐藤さんは、一次産業に興味があるような事を以前に仰っておられたので、田植えなど体験とかどうかと思いまして」
そういえば、かなり昔に米に関しては興味があります! みたいな事を言ったような言ってないような気がする。
深い関係というか取引が続くとは思わなかったので、適当に相槌を打っていたので、その辺は記憶が曖昧だ。
「もし良ければ、今週の日曜日など如何ですか?」
「日曜日ですか」
「都合が悪いですか?」
「いえ。午前9時から午後4時までの間なら可能です」
「それでは、午前9時頃に涼音に迎えに行かせます」
「分かりました」
通話が切れる。
俺は机の上にスマートフォンを置きながら、
「田植えか……」
そう呟く。
正直、生まれて45年間。
一度も、田植えというものをしたことがない。
つまり始まりの経験。
「少しわくわくするな」
新しい仕事や体験というものは冒険であり男をワクワクさせるものだ。
週末、朝早くにシャワーを浴びてキュウリを食べて体調を万全にした上で、電話が掛かってくるのを待つ。
そして電話が鳴る。
「涼音です!」
「あ、佐藤です」
なんだか、やけにテンションが高いな。
「今、佐藤さんのアパートの前にいます!」
「あ、はい……」
到着する5分前に連絡してほしかった。
作業着に着替えて、自宅から出る。
アパートの階段を降りていくと電話が鳴った。
「大多喜不動産? もしかして土地候補が絞れたのか?」
「はい。佐藤です」
「大多喜不動産の我妻藤二です。佐藤様の携帯でお間違いないでしょうか?」
「間違っていません。それよりも土地選定が決まったんですか?」
「決まりました。本当にすいません。連絡が遅くなってしまい」
「いえ」
「それで現地での説明をしたいのですが、ご都合の宜しい時間を伺いたいのですが」
「それでは一週間後に」
「分かりました。それでは、そのように先方にも伝えておきます」
先方? 何かあるのか?
そう思ったが、「分かりました」とだけ答える。
まぁ、取引先相手がいるのなら、いま、この電話で話をしても進捗が進むわけではないからな。
切電したあと、アパートの前に停まっている車の助手席ドアを開けて時間が掛かったことを謝罪していく。
「いえ。気にしないでください! それよりも、佐藤さんが農業に興味を持っていると知れてよかったです!」
ニコリと菊池涼音さんが笑みを向けてきた。




