外食はどうですか?
養老渓谷ダンジョンがある養老渓谷から千葉市街へと向かう途中で、
「少しお腹が空きましたね? 佐藤さん」
「そうですね」
一瞬、アイテムボックスからキュウリを取り出そうとしたが、1時間、寿命が延びるキュウリは有り難く思われるかも知れないが、女性と一緒に食事をする上では、それはどうなんだ? と、言うツッコミが心の中で流れたので、養老渓谷から千葉へと向かう途中の街道沿いで、丁度、目に入った桃がトレードマークの中華料理チェーン店の駐車場に入った。
「ここにも、チェーン店があったんですね」
ジープから降りながら、木戸さんが話しかけてくる。
「むしろ、30年前は、このへんは何もない更地でしたから」
「そうなのですか?」
「はい。鎌取駅やおゆみの駅付近は、30年前近くは何もない開発も何もされていない荒涼とした土だけが広がる場所でしたから」
俺が大学生時代に金を稼ぐため、土方のバイトをしていた頃の鎌取駅やおゆみの駅の南側は、本当に何もなかった。
あったのはホームセンターと、駅と、食事処のみ。
それ以外は周囲を見渡しても、人が住んでいる痕跡なんて存在していなかったし、学校も何もなかった。
鎌取駅やおゆみの駅周辺が開発されて、ようやく人が住んでいるかも知れないと認知されるようになったのは、ここ15年前後と言ったところだろう。
「おじい様に聞きましたけど、本当なのですね」
「そうですね。正直、茂原市とか勝浦市の方が栄えているまでありましたね」
そう会話をしながら桃がトレードマークな中華料理店に入った。
店に入り、四川系の料理をいくつかと点心関係を注文していく。
「そういえば、佐藤さんってラーメンとか好きじゃありませんでした?」
「あー。餃子が小さくなってから行かなくなったんですよ……って、なんで自分がラーメンが好きなのを知っているんですか?」
「企業秘密です!」
「そ、そうですか……」
届いた料理を食したあと、支払いを済ませて車で待っていると、しばらくして木戸さんが中華料理店から出てきた。
「佐藤さん! 私の分も支払っちゃたんですね?」
「まぁ、いつも木戸さんにはお世話になっていますし、今日は銀行関係でもご迷惑をかけてしまったので」
「それならいいです」
これは割り勘が必須パターンか。
まぁ、いつも世話になっているし、飯くらいは奢っても問題ないだろ。
木戸商事まで彼女を送り届けたあと、俺は自宅へと戻った。
――翌日。
昨日、木戸さんに切り出す話を忘れていたことを思い出して電話をした。
「木戸綾子です。佐藤さん、どうかされましたか?」
「実は、貝類を大量に捕獲することに成功したので、その報告に」
「貝を!? わ、分かりました。すぐに、そちらに向かいますね」
「いえ、大丈夫ですよ。自分も車は所持しているので」
「大丈夫です。伺います」
なんだか口調は丁寧なのに妙な圧を電話口から感じて俺は「あ、はい」っと頷いていた。
木戸さんが迎えに来たあと、木戸商事株式会社本社の会議室に通される。
なんだか、最近は役員や社長ばかり相手にしている気がする。
「久しぶりだね。佐藤君」
おっと会長まで。
「どうも、昨日ぶりです」
「うむ。それで、海産物を流通に載せられるかも知れないと綾子から聞いたのだが、本当だろうか?」
会長から話を切り出してきた。




