会議室の一幕 第三者side
――木戸商事株式会社の会議室。
会議室には役員が勢揃いしており、養老渓谷ダンジョンから回収してきた貝についての報告がされていた。
会議室のテーブルの上には、シャーレが置かれており、そこにはむき身の貝の中身が置かれていた。
「それで、都築商品開発部長。ダンジョンから持ち帰った貝についてはどうだったのだ?」
話しかけられた都築は、ホワイトボードに紙を張っていく。
「大学の研究施設で調べてもらったところ、養老渓谷ダンジョンで入手出来た、ハマグリ、マテ貝、アサリ、ツメタガイですが、どれも日本古来の貝だという事が遺伝子情報から確認が取れました」
「――な、なんだと!? それではダンジョンで採取できるアサリやハマグリは!」
役員の一人が慌てた声で呟くが、それに対して都築は頷くと、「はい。古来から日本に生息していた貝類だという事が確認できました」と、話す。
「それは、つまりアサリやハマグリの産地偽装を打倒することが出来るということか?」
「可能ですが――、問題は流通に載せられるかどうかという点です。私が佐藤氏と一緒にダンジョンに潜った際に、スキル、アイテムボックスと鑑定をそれぞれ入手することが出来ましたが、生物をアイテムボックスに入れることは出来ませんでした。持ち帰ってこれたのは、クーラーボックスに入れたものだけになります」
「なんと! アイテムボックスと鑑定スキルを手に入れたというのか?」
「はい。日本ダンジョン冒険者協会のホームページからの情報によると、最初に手に入れるスキルとのことです」
「つまり、大半のスキルを所得している冒険者は、アイテムボックスと鑑定スキルを有しているということか?」
「そうなります」
そこまで都築が話したところで、宝塚専務が「それでアイテムボックスに入れられる量はどの程度なんだね?」と、口挟む。
都築は淀むことなく、「【アイテムボックスⅠ】だと、100キロ程度ですね」と、語る。
「100キロか……。彼は、佐藤氏は――」
「400トンまでアイテムボックスに入れることができると」
「400トンだと!?」
宝塚専務が、声を荒げる。
「たった一人の人間が10トントラック40台分の荷物を一度に運ぶことが出来るのか……」
「佐藤氏の話が本当でしたら、間違いないかと」
「そうか……。――で、木戸営業課長。最近は、佐藤氏と懇意にされているようですが……」
「宝塚君、娘のことについては君が関与することではない」
「ですが! アイテムボックスで400トンもの荷物を運べるという事は、それ以外にもスキルを有している可能性が非常に高いのでは? それでしたら、我が社に取り込む方が宜しいかと! 今の木戸商事の売り上げが去年と比べて30倍まで跳ね上がっていることも考えると、今後の販売戦略と支店拡大を考えると――」
「それは分かっている。だからこそ、対等な取引を考えている」
「それは前提条件です。ですが取引に関しては絶対ということはありえません! 私は、そのことを考えて木戸社長のご令嬢を佐藤氏の担当窓口に任命したと思っていたのですが……」
「邪推は止したまえ」
「それは、彼がエーオンの営業でもトップだったことに意味があるのでしょうか?」
「宝塚君、佐藤さんのことを調べたのかね?」
「社長、それは当然のことです。今の木戸商事の売り上げと、その比率を考えてみれば、取引相手を調べない方がおかしなことです」
「……分かっている。宝塚君が心配している事は、ここにいる誰もが危惧していることだ。だが、事をせいては失敗する可能性もある」
「……分かりました」
宝塚専務は、椅子に小さく溜息をついて席に座った。
「では、貝類に関しては、商材とする上で冷凍して販売するという方法なら出来るのだな? 都築君」
「はい。そこは問題ないかと。冷凍設備に関しては、当社から提供するという形で佐藤氏に提案は出来るかと。問題は、佐藤氏が、それで契約を結んでくれるかどうかですが」
「そうだな……。一応、提案だけは――」
「社長」
「なんだね? 宝塚君」
「その交渉は私に一任してもらえれば――」
「必要ありません! 佐藤さんとの交渉窓口は私で決まっていますから」
木戸綾子が、宝塚専務の言葉に被せるようにして自身が担当窓口などで横から口を出すなと公言する。
「社長……」
「分かった。一度、娘が交渉した上で、芳しい答えが得られない場合に限り、宝塚君に任せようではないか」
「ありがとうございます」
「では、今後は日本本来の貝類を如何にして販売ルートに載せられるかを考えるとしよう」




