隠されていた樺太ダンジョンの暴走
「もー、一日が早すぎる!」
若返りの付与がついたキュウリを食べ続けながら、味変のために、味噌を取り出しきゅうりにつけて食べる。
パキッ! と、言うきゅうりが割れた時の音と歯ざわりが良い感じだ。
200本近くを食べたあと、若返りの付与のついたフルーツをいくつか食べて気分的に腹が満たされたあと、スマートフォンから着信のアラームが鳴った。
「はい。佐藤です」
「菊池です。佐藤さん、稲穂の用意って出来ていますか?」
「はい。可能ですよ」
ここ数日、忙しくて菊池さんと約束していた稲穂を卸すことを完全に失念していた俺は、昨日の夜――、木戸綾子さんに自宅に送り届けてもらう前に稲穂を20トンほど採取していたのだ。
自宅前に出てみれば、4トントラックが5台並んでいた。
一応、幹線道路ではあるが4トントラックが路肩に駐車されているのは圧迫感がすごい。
「どうも、約束をすっぽかしてすいません」
「いえいえ」
こちらが約束を忘れていた割には、菊池さんは随分と低姿勢な気がする。
「それじゃ、ちゃっちゃと稲穂付きの新米出しちゃいますね」
「お願いします」
時刻は午前8時。
通勤ラッシュ時と言う事もあって、信号待ちした関係の無い車からの圧力がすごい。
俺は、4トントラックの荷台に次々に稲穂付きの米を4トン丁度になるように、アイテムボックスから転移させていく。
5台全ての4トントラックに稲穂付きの新米を乗せたところで、路駐していた4台のトラックが、次々と幹線道路に戻っていく。
残ったのは菊池さんが乗ってきた4トンのトラック。
「親戚の方々だったんですか?」
やけに統率が取れていたような気がするが。
「――いえ。今って、米が高騰しているじゃないですか?」
「そうですね。10キロ12000円まで上がっていますからね。米農家さんは
ウハウハなのでは?」
「そんなことないですよー。儲かっているのは農林水産省とJA、中間の問屋くらいで末端の米農家はきついです」
「そうなんですか?」
話には聞いていたけど、マジだったのか。
「それじゃあ、もしかして――」
「はい。今日、手伝いでトラックを出してくれたのは、うちの近くの米農家なんです」
「なるほどー」
「実際、減反政策というので、大規模な米栽培が出来なくなったので米農家が稼げなくなったばかりか国内の米の価格が倍以上に跳ね上がっていますからね。しかも新米を海外にJAは輸出して赤字分を補填しますし」
「それって大丈夫なんです?」
「大丈夫じゃないですね。なので、米農家としては道の駅に卸したり、産地直送のコミュニティスーパーに卸したりして利益を少しでも確保しているのですが、それも焼け石に水というか……」
「つまり、20トンもの稲穂を昨日の電話で頼んできたのは――」
「ははっ、あまり米農家の業界の裏をお教えするのは恥ずかしいことなのですが――」
「いえいえ。気にしないでください。自分も白米がもらえるのは非常に助かりますから」
マジで貯金がないからな。
白米とか買ったら生活費で死んでしまう。
一か月で10キロの米を消費するから1万円近くを米だけで消化するって、家計にとっては大ダメージだ。
しかも乾燥・脱穀・精米をしてくれる菊池さんは、俺から見たら大事な白米入手先。
足を向けて寝られないまである。
「そうですか。それは良かったです」
「あ、菊池さん」
「何でしょうか?」
「皆さんで、これでも食べてください」
俺は、アイテムボックスから若返りの付与がついた果物――、スイカ、メロンを10個ずつ出して荷台に乗せる。
稲穂がいいクッションになるので割れることはないだろう。
「これは?」
「ダンジョン産のフルーツです。おすそ分けということで」
「おお。これが……」
「知っているんですか?」
「はい。木戸商事というスーパーが大々的に広告を打っているのを見かけました。家族がフルーツを買いに行きましたけど売り切れていたとか」
「そうですか……」
これは、フルーツ採取の依頼が多めに舞い込む可能性がありそうだな。
菊池さんと別れたあとは、自宅に戻り日本ダンジョン冒険者協会のホームページを見ていく。
すると、ニュース欄に【重大ニュース!】と赤い文字で書かれたテロップがあった。
クリックしてみると、【緊急! 樺太ダンジョンが暴走!】というホームページに切り替わったあと、樺太に存在していた人々の町や村が全て壊滅したことが書かれていた。
「樺太にもダンジョンがあったのか」
それにしても、モンスターが樺太の大地に闊歩していて、尚且つ、町や村が壊滅したというのは……。
冒険者掲示板を見て見れば、動画には、見た事がない3メートルを超える筋肉ムキムキな腰布だけを巻いた魔物の姿があった。




