47人のランカー冒険者
「それでは佐藤さん。支店長と会っていただけますか?」
「仕方ないな。案内してくれ」
「はい」
腕を掴まれ引き摺られるような形で、日本ダンジョン冒険者協会のカウンター横を通り過ぎて建物の奥へと通じる通路を歩いたあと、一室に通される。
そこは、学校の校長室のような場所であった。
入口から入った手前の左手には対面式ソファーが置かれており、一番奥には重厚な執務机が置かれている。
それだけでなく両壁には書棚が置かれており、良く分からない剥製が展示されていた。
あまり趣味が良い部屋とは言えない。
床も絨毯が敷かれていて土足だと勿体ないくらいの高級品のようだ。
どれだけ金をかけた部屋なのか。
成金趣味も度が過ぎるといったものだろう。
「笹口支店長、佐藤冒険者を連れてきました」
「うむ」
一番奥の重厚な執務机の向こう側、高そうな椅子がクルリと回ると剥げたデブの男が姿を見せた。
「ご苦労だった。コーヒーを二つ用意してくれ」
「はい」
俺を連れてきた日本ダンジョン冒険者協会の女性が部屋から出ていく。
「ささっ、佐藤冒険者。そちらに座ってください」
「分かった」
椅子に座ると、笹口という男も、テーブルを挟んだ反対側のソファーへと「よっこらせ」と座る。
年齢的には60代は超えているように見える。
「突然、このような場所に招いてしまったこと大変に申し訳なく思っている。私は日本ダンジョン冒険者協会、養老渓谷ダンジョンを管理している養老渓谷ダンジョン支店の笹口昭という」
あまり、こちらを尊重しているような話し方ではないが、それでも向こうから自己紹介をしてきたのだから、ここは同じく自己紹介で返すのは常識か。
「佐藤和也です。本日は、どのような御用向きでこちらまで自分を連れてきたのでしょうか?」
互いに自己紹介したところで、部屋のドアが開き先ほどの女性がコーヒーを持ってきた。
テーブルの上にコーヒーを置いたあと一礼して部屋から出ていく。
「さあ、佐藤さん」
俺に対してコーヒーを薦めてきた。
本来なら、礼儀として口にするところだが、日本ダンジョン冒険者協会とは色々とあった仲だ。
毒でも淹れられていたら洒落にならない。
鑑定スキルでコーヒーを見る。
――コーヒー。
一般的に流通している市販のコーヒー。
生産国:タンザニア
どうやら毒は入っていないようだ。
口にしたあと、俺は支店長を見る。
「タンザニア産ですか」
「……鑑定スキルですな」
「もちろんです」
俺はニコリと笑みを浮かべる。
「前支店長までと、佐藤冒険者は色々と確執があったと伺っておりますし、報告も受けています。そのような方に毒を盛るような真似はしませんよ」
「随分とあっさりと内情をバラしてきますね」
「もちろんです。すでに、養老渓谷支店では佐藤和也冒険者は国内に存在する47人のランカーに登録されていますから」
「47人のランカー?」
そんな話は初めて聞いたが。
「日本国内に存在しているダンジョンは全部で53個。その内、日本政府が支店を設置し対応出来ているのは47。そして、それぞれのダンジョンの中で、もっともレベルが高いと思われる冒険者をランカー扱いしているのですよ」
「なるほど……」
俺は、あまり派手に立ち回ったつもりは……。
そういえば、よく日本ダンジョン冒険者協会の連中に絡まれたりしてたな……。
そしてミツハもいるのだから、普通に目立ってた。
「つまりですね、ランカー相手に下手なことは出来ないということです。少なくとも日本国内において47人のランカーの力は、アメリカ合衆国の誇る太平洋艦隊である第七艦隊を一人で壊滅出来るほどと推測出来ておりますので」
「そこまで強いとは思えないが……」
一人で、第七艦隊と同程度の戦力とか過剰見積もりも程があるだろうに。
「いえいえ。冒険者ランカー第42位の爆殺の魔法使いである諸星さんは、一人で北朝鮮の船を国内に入ってきたと同時に全て破壊して沈めていましたから」
「――なっ! それを日本政府が指示したのか?」
「いえ。何でもクエストが発生したとか聞いています」
俺以外にもクエストが……。
いや、よく考えれば俺だけにクエストが発生していると考える方が……むしろ逆に不自然か……。
そして北朝鮮が滅んだとニュースにはあったが、難民が出たとは聞いていない。
つまり――、
「この話は、口外しないでください。佐藤冒険者もクエストを受けているでしょう?」
「……さあな」
「ランカーは、圧倒的な強さを持っていると同時に、普通では考えられないほど大きな収納能力をもつアイテムボックスを持っていることも確認できています。これは、ランカーからの情報提供です。そして、その方はレベル89の冒険者です」
「レベル89……」
俺よりも明らかにレベルが高い。
そんな奴が、日本ダンジョン冒険者協会に情報を提供したってことか?
氷河期世代の人間が日本政府に協力したと?
俄かには信じられないが、それが本当なら、どうしてダンジョンを攻略していない?
「つまり、ランカーの強さを知っているから俺に対しても毒を盛るような真似はしないと言いたいわけか」
「はい。それに、神様もおわしますので」
「なるほどな」
つまりミツハもいるから、俺のことは警戒をしていて危険視もしているが手が出せないと、そういうことか。




