一年ぶりのダンジョン大型アップデート
「兄貴」
「どうした? 浩二」
「世界中から鉱物類が消えるって話、日本政府には報告しないのか? 俺は、報告しないけど」
「何を言っているんだ。俺も報告なんてしないぞ。余計なことをして神に怒られても困るからな」
「旦那様が何かする分には、妾の伴侶である以上、問題ないと思うわ」
「ミツハ、大丈夫だ。俺は、世の中の為とかそういう事で動くことは一切しないから」
そもそも国に見捨てられた世代の氷河期世代がどうして人のために行動しないといけないのか。
元・日本総理大臣であった葛泉 純一郎が自己責任と言ったのだから、世界中の人間が困るのも、そりゃ自己責任と言うもんだろう。
俺の知ったことではない。
それに、将来は海外では鉱物類が消えることだって元を正せば、自分達の先祖が行ってきた問題から目を逸らしてきたツケに過ぎない。
ミツハの話を聞いた事から考えるに、むしろ俺が助ける方がお門違いってもんだとすら思う。
「そうですか。正義感に燃える人間だと、他人のために動く者もいる事もありますから」
「ミツハとしては、俺にそうしてもらいたいか?」
「旦那様にお任せします」
「そっか」
まぁ、下手に目をつけられてもメンドクサイからな。
余計な事はしないに越したことはないだろう。
それにミツハは俺の考えを尊重してくれるし。
「なあ、兄貴。そういうあまーい空気は俺が居ない時にやってくれよ……」
「そ、そうだな。――と、とりあえずダンジョンに行くぞ。まずはゲートからダンジョンに入って戻ってくるから、それまで待っていてくれ」
「あいよ」
「待っているわね」
一人、家を出たあとは乗用車に乗り養老渓谷ダンジョンを囲うよう建てられている日本ダンジョン冒険者協会の敷地に入るが、何故か分からないが大勢の防具をつけていない冒険者がダンジョンゲート前で立ち止まっているのが見えた。
「日本ダンジョン冒険者協会からの報告になります。今回、日本中で行われたアップデートで、地下1階層から地下10階層までの農作物エリアが消えたことが確認できました。それに伴い地下11階層から出現していたゾンビが1階層から出現しています。そのため、今までのダンジョンとは異なります。気を付けてダンジョン地下へ潜ってください!」
どうやら、地下1階層から地下10階層までが消えて階層が繰り上がりになったらしい。
というか、そうなると今まで地下1階層から地下10階層で採取出来ていた農作物は………そして、その農作物を目当てに経済活動をしていた方々は不味いのでは?
不平不満の声が冒険者から上がるが、日本ダンジョン冒険者協会の職員が何度も説明をしている。
そして装備をきちんとしていない冒険者に注意をしている。
とりあえず俺は地下に行くとするか。
ゲートを通り抜けて先に進もうとしたところで腕を掴まれた。
「あ、あの! 佐藤さんですよね?」
「はい、佐藤ですが、何か?」
「すぐにこちらへ。支店長が、佐藤さんが来たらすぐに連れてきて欲しいと」
「支店長?」
「はい。ここ養老渓谷ダンジョンの支店のトップです」
「トップか……」
トップが、俺に急遽会いたいというのは何か緊急性のある問題が起きているということか。
「どうですか?」
「それはダンジョンがアップデートされたことと関係があるんだよな?」
「……それは守秘義務上、お伝えできません」
「なるほどな」
――さて、どうしたものか。
ダンジョン改変について俺に聞く可能性は非常に低いだろう。
ただし、俺を通してミツハに話を聞くというなら、その可能性は非常に高い。
あとは、肥料の件くらいか。
どっちにしても支店長が会いたいというのなら、会うしかないだろうな。




