中東戦争一歩手前 第三者Side
――日本国首相官邸の一室。
「高原臨時総理」
書類の山に埋もれながら、意識を失って机の上に頭を乗せて爆睡していた元・謙島内閣の高原復興大臣は、自身の名を呼ばれたことで半分覚醒しながらも、「はい、仕事は終わっているわ」と、答えた。
ただし、それは夢の中で仕事を終わらせただけで実際は半分も書類作業を終わらせてはいなかった。
そして、そんなメンバーが、総理の一室に10人ほど滞在していたが、誰もが目の下に隈を作っていた。
「高原臨時総理! 起きてください!」
何度も体を揺さぶられることで、高原臨時総理は辛うじて意識が浮上して目を覚ますことに成功した。
「な、何の……どうかしたの?」
「バイオエタノールの大規模生産に目途が立ちました!」
「そう……」
パタリと力尽きて意識が落ちかける高原は、国会議員の9割が死亡してからというもの野党からの執拗な嫌がらせ質問や、マスコミの意味のない質問に辟易して疲れはピークに達していた。
その中には、「高原臨時内閣なんて潰してやる!」と、いう夕テレの記者が発言した内容もあり、高原としては、さっさと内閣総辞職をして総選挙をしたい気持ちでいっぱいであったが、アメリカ合衆国ルーズバルトが、無能な野党が政権を取った場合、日本との取引で非常にまずい事態になりかねないという意味から、政治的圧力をかけ高原は渋々、臨時内閣総理大臣と3人しか閣僚のいない臨時高原内閣で政権を回していた。
「起きてください!」
資源エネルギー庁の官僚が、意識が落ちた高原の肩を揺さぶる。
「もう、いっそ、コロシテ」
「総理が死んだら今の日本は大変なことになります! はい! ブラックコーヒータブレットを!」
口を無理矢理開けさせられブラックコーヒーのカフェインを致死量ギリギリまで圧縮したタブレットを飲まされる高原。
カクンと倒れてから5分ほどでタブレットは効果を表し、目がギラギラに輝かせた高原臨時総理大臣は覚醒した。
「ふう。ようやく目が覚めましたか」
「無理やり起こされているんだけどね……。それで、何があったのかしら?」
「バイオエタノールの実証試験に成功しました。同時並行し建設しておりましたバイオエタノール増産工場の稼働に目途が立ちました」
「そう……。それで、国内のガソリン不足を解消できそうなの?」
「各省庁からの情報と必要なバイオエタノールの量を計算しましたところ、緊急車両と軍関係の維持に必要な分は確保できるとのことです」
「そう。インフラ関係の維持には使えそうなの?」
「各都道府県のインフラを維持しているバス会社とタクシー会社、運送会社にはギリギリいけるかどうかです」
「つまり、国民にまでは供給できないということね?」
「はい。ですのでバイオエタノールと備蓄している石油に関しては、一般乗用車には制限を掛ける必要があります。その間に、電気自動車の開発と魔鉱石エンジンの普及を行う方向が宜しいかと」
「わかったわ。それでは、すぐにそっちの方向で話を進めてちょうだい」
「分かりました」
高原に報告した資源エネルギー庁の官僚は部屋から出ていく。
そして、それと入れ替わりに外務省官僚が部屋に入ってくる。
「大変です、総理」
「何かあったの?」
「パキスタンの備蓄している石油を狙ってインド軍がパキスタンに宣戦布告をしました」
「正気なの?」
「はい。それとシリアがイラクに宣戦布告を。他に中東の石油産出国の備蓄している石油を手に入れるためにアフリカ各国が軍を編成しているようです」
「……それって、本当のことなの?」
「間違いない情報です」
「……すぐに経団連を召集して」
「良いのですか?」
「仕方ないわ。魔鉱石エンジンと魔鉱石発電システムの情報を公開してもらえるように掛け合うわ」
「ですが、それは国益には叶わないのでは……」
「第三次世界大戦が起きるよりはマシよ」
高原は大きな溜息をついた。




