土属性を司る女神がいるらしい。
養老渓谷ダンジョンを地下11階層から地下14階層まで乗用車でウロウロしつつ、アイテムボックスからの収集アイコンを使い魔鉱石を範囲回収していく。
もちろんゾンビたちは視界に入る前に消滅していくので気分的にはダンジョン内をミツハと二人で巡っているような気持ちになってくる。
「旦那様。そろそろ切り上げた方が良いと思うの」
「そうだな……」
地下11階層に戻ってきてゾンビを掃討してきたが、効率が悪くなってきた事と時間的に午後8時を過ぎたので、乗用車をアイテムボックスに入れたあとスキル【ワープ】で自宅に帰還した。
玄関にワープのゲートを出現させ、自宅に戻ったあとは、弟は不在のようで人の気配はない。
自宅の電気をつけたあと、俺は一時間だけ若返りの付与がついているキュウリを食べる。
ミツハは、その間、風呂を沸かしにいった。
「さてと……」
今日は、数週間ぶりにダンジョンに潜って大量の魔鉱石を手に入れたので、かなり疲れていたようだ。
居間のソファーに背中を預けると疲れがドッと押し寄せてくる。
スキル【ワープ】が無かったら15階層で寝泊りする可能性が出てくるとしたら、かなり面倒な事になっていたんだろうなと自問自答しつつ、アイテムボックスを開く。
「とりあえず今日の成果はと……」
アイテムボックスに入っている魔鉱石の数は92万3891個。
現金にすると46億円弱か。
全部の魔鉱石を日本ダンジョン冒険者協会が買い取ってくれるとは思えないし、1個5000円のレートが維持されるのか分からない。
今は、現金には困っていないので、どのくらいの割合で魔鉱石が石油になるのかチェックするのが最優先課題だろう。
「旦那様! あるだけのタッパーを持ってきました!」
いまの自宅で料理は殆どしてないので、タッパーが持ち腐れになっているが、こういう実験の時に使えるのは便利だな。
「――じゃ、試してみるか!」
「はい!」
「そういえば、ミツハ」
「どうかなさいましたか? 旦那様」
「土属性の魔鉱石って、性質が変化するって聞いたが、どのくらいの数の鉱石に変化するんだ?」
「さあ?」
「そこは水の女神のミツハも分からないのか?」
「それは管轄外ですので。管轄をしているのは、埴山姫お姉様ですね。お姉様に聞けば教えてくれるかも?」
「それって、今とか聞けるのか?」
「んー。今は出雲のダンジョンでメンテナンスをしているようですから、難しそうです」
「出雲って言うと島根県か」
「島根県が出雲なのですか? 人間世界は地名がコロコロと代わりますから困りますね」
「そうなのか?」
俺は少し気になって調べるが、島根県という県名が決まったのは明治4年らしい。
つまり、今から150年近く前。
それなのに神々に認知されていないとは……。
時間的経過の尺度が違いすぎる。
「はい。以前は大きな社があった時代には、そのような命名ではありませんでした」
「そ、そうか……。それにしても埴山姫か……」
「むーっ! 旦那様!」
何だか、ミツハがとっても俺を上目遣いで睨んできている。
「ど、どうかしたのか?」
「埴山姫お姉様は、たしかに綺麗ですけど! 駄目ですよ? 和也は、私の旦那様なのですから! 他の柱に渡すつもりはありませんからね!」
「そ、そういうつもりで言ったわけではないからな。どのくらいの種類に性質変化するのか聞きたいだけだったから」
「それならいいです。でも、もし! 埴山姫お姉様とか、水光姫さんとお近づきになりたいとか思ったら、ミツハは断固として正妻としての力を振るわせてもらいますから!」
「だから、そういうことはないから大丈夫だから」
「本当ですか?」
「それよりも水光姫って氷を司る女神だったよな? どうして氷の女神が出てきたんだ……」
「旦那様は、ミツハを妻にしたくらいですもの! 女は強い男に引かれるのです!」
別に俺は強くもないし、何ならモテないまであるぞ。
伊達に45年間、独身だったわけではない。
ミツハくらいだぞ。
俺の嫁だと言っているのは。
「そ、そうか……。気を付ける」
「はい! それで実験はされるのですか?」
「そうだな。とりあえず魔鉱石1万個ほど実験してみようと思う。それでデーターは何となくだが取ることはできるだろうし」




